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人助けをしたら美少女に惚れられて偉い人に褒められるんですけど!  作者: マノイ
第二章

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2. 美少女とデートしていたら試着室に連れ込まれそうになったんですけど

「一年後に答えを下さい」

「一年後?」


 真夜達が転校し、奏に告白をした日の事。奏は真夜達から今回の転校についての事情を聞いていた。

 その話の中で告白の返事は一年後にして欲しいと言われたのだ。


「もちろん奏様の答えが定まりましたら一年を待たずにお答えください」


 一年間も奏を拘束する権利など彼女達には無い。

 奏がすぐに三人の中の誰かを選ぶかも知れないし、誰も選ばないかもしれない。

 あるいは別の人物を好きになる可能性だってある。

 それらを妨害しないというのがこの言葉の意味である。


「どうして一年なの?」


 奏にとって、そして世の中の高校生にとって高校二年生というのはゴールデンタイムだ。彼氏彼女の関係になってひたすらイチャイチャ出来るリア充期間なのだ。

 一年間待ってしまうと高校三年生になり、受験について考えなければならず恋愛だけに打ち込むのは難しくなってしまう。そんなの気にしないよ的な人もいるだろうが、奏は真面目なのでそうはならないだろう。

 ゆえに、ゴールデンタイムを全力で堪能するためにも早く選んで欲しいと言われるのならば理解出来るが、逆に待って欲しいと言われる理由が分からなかったのだ。


「恥ずかしい話ですが、わたくし達は普通の女の子というものが分かりません。ですので、恋する女の子の普通の学生生活というものを少しでも長い間体験したいのです」


 ここでもし奏がすぐに誰か一人を選んでしまったならば、残りの二人は失意の中、高校生活を送ることになってしまう。わざわざ転校までして奏を追ってきたのにそれは酷と言うものだ。三人とも、恋する気持ちを抱いたまま一般学生の様々なイベントを体験してみたいのだ。


「もちろん全力で奏様を落としに行くけどね!」

「がんばる」


 だがそれは恋を実らせたい気持ちを抑え込むというネガティブな意味では無い。むしろ、そうやって制限時間を設けた上で、それを打ち破ってでも選んでもらおうという気合を自分達に入れるためでもあったのだ。


 こうして奏は一年間の猶予の元、真夜達から猛烈なアプローチを受け続けることになった。傍から見れば三又かけて付き合っているようなものである。




 そして最初のイベント、デート。

 芹那が攻めた事で最初のデート相手は芹那になる流れであったが、栞が待ったをかけたことで順番が大きく変わった。


「デートってのはね、本番前後のドキドキも重要なんだよ」


 デートまでの日々を何を思って過ごすか、そしてデートが終わった後の余韻をどう楽しむか。そこも含めて楽しむものなのだと栞は三人を諭した。

 なお、栞は彼氏を作ったことが無く、当然デートなどしたことがないので妄想上の意見だ。


「三澄さんは博識でございますね」

「栞ちゃんすっごーい!」

「参考になります」


 しかし三人は栞の意見に深く感銘を受けてしまい、心の準備期間を設けるために直近の土曜日を避けて次の週末から順にデートをすることに決まった。


 また、三人が栞からのアドバイスを元に相談した結果、最初のデート相手は真夜になった。


 駅前の噴水広場にて、奏は真夜が来るのを待っていた。

 メンズ服ではあるものの男らしさよりも何処となく可愛らしさが漂うコーデだ。デートの服装としては不適切かも知れないが、奏は自分に最も似合っている服を着るべきだという信条があり、これは譲れない。もちろん髪型は恒例のサイドテールで服の色に合わせたブルーのヘアゴムで留めている。

 待ち合わせよりも三十分早いが、五分ごとにミニバッグから手鏡を取り出し何度も前髪を確認する。気合の入った可愛らしい姿に、道行く人も思わずチラ見してしまう。

 お嬢様達は転校を機に、奏の家から少し離れたところにある普通のマンションに引っ越して来た。その方角をチラチラと確認し、そわそわしながら真夜が来るのを待つ。


「(うううう、ドキドキするよー)」


 人生初のデートがお嬢様オブお嬢様の花ヶ前真夜。やまとなでしこと評される彼女と街を歩くことを考えるだけでも緊張で手汗が止まらない。


 時刻は午後の14時。 

 開始時刻が遅いのはこの日が土曜だからだ。午前中は高校で授業があり、終わった後に一旦家に帰ってからデートに向かう。日曜と違って時間が短くなってしまうが、それでも真夜は土曜を選択した。


「お待たせ致しました」

「ううん、待ってない……よ」


 明るさを抑えた青色で染められた膝下丈のロングワンピース。フリルなどの飾りは殆ど無く、スカートの裾と袖に黒い線が一本ずつ入っているだけのシンプルなデザインで、生地に厚みがあるものだ。上半身は中央縦に黒いボタンが並んでいて、腰回りのベルトは細くて存在感を主張しない。袖丈は手首まで長く首元もしっかりと覆われており肌の露出はほとんどない。

 落ち着いたレトロワンピースで高校生が着るにはやや地味な部類の物だ。


「奏様、とてもお似合いです」

「……あ、真夜さんも凄く似合ってるよ」

「ありがとうございます」


 しかし真夜には品のあるその大人向けの服装がとても似合っており、奏は思わず見惚れてしまった。そのため先手を取られて先に服装を誉められるという敗北を喫した。

 だが戦いはまだ始まったばかりだ。

 勇気を振り絞り、奏は真夜に手を差し出した。


「真夜さん、行きましょう」

「……はい」


 差し出された手に恐る恐る触れる真夜。ほんのりと頬に朱がさしている点、スキルは切ってあるのだろう。

 奏の人生初デートが始まった。


 とは言っても時間が多くは無いため出来ることは限られている。

 奏はまず、駅前にある小さなお店に真夜を連れて来た。数人程度だが店の外まで列が出来ており繁盛店であることが伺える。

 

「ここは飲食店でしょうか」

「うん、今凄い流行ってる飲み物を売ってるんだよ」

「ココット、聞き慣れない名前です」


 若い女性に大人気の飲み物ココット。正式名称はナタデココヨーグルトドリンク。

 発祥は東京の某個人店であり、そのままの名前だとインパクトが無いため可愛らしくココットと略したところまさかの大ヒット。透明なコップの内側に動物型にカットされた大きめのナタデココが張られており写真映えするとSNSで話題になったのだ。

 奏が住む街の駅前にもココットの店が出店し、若い女性を中心に毎日賑わっている。


「これがココットですか」

「可愛いでしょ」

「飲むのを躊躇ってしまいますね」


 ドリンクを飲み始めると中身が混ざり合い、動物達は激流に飲み込まれてただのヨーグルトドリンクになってしまう。ゆえに飲む前に写真を撮る必要があり、周囲は飲まずに写真映えするスポットを探す女性達で溢れていた。


「これが映えるいうことなのですね」

「真夜さんは映えるって意味知ってるの?」

「はい、授業で習いました」

「そんなことまで学ぶんだ!」


 現代社会において、写真映えすることはヒット商品を作るために必須である。瀧川女学院には経営者観点でのカリキュラムもあるため、当然写真映えについても講義がある。

 ただし、ココットについてはつい最近流行り出したものであるため、真夜が習った時はまだサンプルとして取り上げられなかったのだろう。


「わたくしも撮ってみます」

「真夜さんはSNSやってるの?」

「いえ、興味が無くて手を出しておりません」


 SNSを活用したマーケティングについても瀧川女学院で学習済である。しかし個人的にSNSを利用して何かをしたいと思ったことは真夜には無い。

 もちろん奏がやっているのであれば粘着するレベルで利用するのだが。


「ごめんね。それじゃあここに連れて来た意味があんまり無かったかも」

「そのようなことはございません!このような映える写真をSNSで投稿したくなるのが普通の女の子なのだと理解出来て嬉しいです」

「あはは、真夜さんは真面目だなぁ」


 それを奏が言うのか。

 奏としては最近の女子高生のトレンドを真夜に体験させてあげたかったのだが、その考えが既に真面目なのである。もちろんデートコースとしての選択は悪くは無いのだが。


「美味しいですね」

「うん」


 付き合ってはいないが付き合いたてのような二人だ。しかも真夜が奏にガチ惚れしているとなれば、一緒にココットを飲んでいるというシチュエーションだけで甘い空気が二人を包むのである。

 絶世の美少女と愛でたくなる妹弟いもおとうとの組み合わせと言うこともあり、周囲の女性達はガン見しており目の保養になっていた。


 次に奏が真夜を連れて来たのは駅前通りにあるアパレルショップ、女性服専門店である。


「今日は真夜さんに色々な服を着て貰いたいな」

「よろしいのでしょうか?」


 真夜は奏が楽しめないのではと思った。女性が服の買い物を長引かせて男が辟易する、という定番ネタを真夜はどこかから仕入れてあったのだ。


「うん、僕が真夜さんの色々な姿を見たいんだ。ダメかな?」

「…………ダメじゃないです」


 真夜は視線を逸らし、何かに耐えるように絞り出すように返事をした。


「良かった。真夜さんって家でも瀧女でもずっと和服姿だったんでしょ。もっと色々な服を着てみるのも楽しいんじゃないかなって思ったの。まぁホントは僕が見たかっただけなんだけどね」

「くすくす、それならいっぱい着飾って奏さんに気に入られませんとね」


 真夜に似合う服を探しながら、奏は学校での会話を思い出す。


『真夜さんの和服以外の姿、初めて見ました』

『わたくしも、和服以外を着るのは久しぶりです』

『そうなの?』


 瀧川女学院の制服は可愛らしいブレザーだ。しかし必ずしもブレザーが必須という訳では無く、淑女として相応しい服装であれば指定ブレザー以外でも問題ないとされている。ゆえに真夜はずっと学院でも和服姿で過ごしていたのだ。


『そうなんだよ。私達も真夜ちゃんが和服じゃないってのが変な感じしたんだ』

『真夜じゃないみたい』

『でもうちの制服も凄い似合ってるよ』

『くすくす、褒めて頂きありがとうございます、奏様』


 ほとんど和服しか着ない真夜。せっかくの美貌の持ち主なのだから様々な服を着て楽しませられないかと奏は思ったのだ。もちろん本人が言うように自分が見たかったというのも理由の一つであろうが。


「いかがかしら」


 試着完了した真夜が奏に感想を求める。覚悟していたからか今日の待ち合わせの時のように、思考がフリーズすることはない。

 また、気の利いた言葉を言えない男性でも無い。何故ならば奏は女子力もそれなりに高いからだ。


「うわー良いよ良いよ。あ、でもその服なら髪の毛を結った方が似合うかも。シュシュつけてみようよ」


「やっぱり真夜さんには落ち着いた色合いが似合うなぁ。そうだ、その服ならあのブレスレットが似合うかも。持って来るね」


「う~ん、さっきの方が好みかな。いや、あれを上から羽織ってあの鞄と合わせれば……」


 むしろ奏の方がノリノリになって真夜のコーデを楽しんでいた。真夜の体型は全体のバランスが良く身長も胸の大きさも同年代女子の平均くらい。ゆえに様々なコーデを試すことが出来たのだ。

 真夜も微笑んでいたが、ファッションが楽しいのか、それとも奏が楽しむ姿を見るのが楽しいのか、どちらなのだろうか。

 その真夜の微笑みの質が僅かに変化した。家族ぐらいしか分からない変化であり、奏もまだ気付かない。その変化はちょっとしたいたずら心が生まれたことによるものだった。


「真夜さん、次はこれとかどうですか?」

「はい。少々お待ちください」


 真夜は奏が持って来た服を受け取り、試着室のカーテンを閉める。ごそごそと衣擦れの音が聞こえて来るが、次は何を着せようか悩む奏は動揺しない。その奏に試着中の真夜が声をかける。


「奏様」

「なぁに?」

「この服の着方が分からないです。手伝って下さらないかしら」

「え?」


 奏は真夜の言葉の意味をすぐには理解出来ずに硬直してしまう。そして硬直が解けると今度は顔を真っ赤にしてしまう。


「奏様?」

「だ、だだ、ダメだよそんなの」

「何がダメなのでしょうか?」

「何がってそんなのって」


 先ほど試着室からそれまで着ていた服を脱いだであろう衣擦れの音が聞こえて来た。そして新しい服の着方が分からないと言うことは、この試着室の中で真夜は下着姿であるということだ。カーテン一枚隔てた先で、超絶美少女があられもない姿を晒していることを意識させられ、奏は茹蛸のように真っ赤になる。


「(考えちゃダメーーーー!)」


 どれだけ女子力があろうとも、奏は真っ当な男の子。悶々と考えてしまうのである。


「奏様、中に入って手伝ってくださ」

「店員さんを呼んできます!」


 試着室に女性と一緒に入るというマニアックなプレイは回避した奏。店員さんに声をかけて自身は椅子を見つけて座る。立てない理由は彼の名誉のために秘密にしておこう。


「もう、奏様ったら私を置いて休んでいるなんて酷いです」

「ごめんなさい。じゃなくて、流石にアレはないんじゃない!?」


 元の服に着替え終わった真夜が、椅子に座って休んでいる奏の元にやってきた。すでに奏は色々な意味で落ち着いているが、真夜を見ると先ほどの邪な考えが頭をよぎって顔をまともに見ることが出来ない。


「くすくす、ちょっとした冗談でしたのに」

「もう、心臓に悪いよ」


 やまとなでしことはかけ離れた誘惑行為に、瀧川女学院の同級生が見ていたら驚愕して卒倒していたかもしれない。普段の彼女を知る者としてはそれくらいにあり得ない行動であったのだ。

 デートで浮かれていたからか、それとも別の理由があるのか。彼女の内面を知る者はまだ居ない。


「奏様はどれが一番よろしかったでしょうか」


 奏が喜ぶのならと、一セット購入しようかと真夜は考えていた。それゆえの気軽な質問だった。


「う~ん、三番目かな。でも……」

「でも、何でしょうか」

「真夜さんは和服姿が一番似合うかな」

「え?」


 だが、思わぬ回答を受けて真夜は衝撃を受ける。最も自分らしく在れる大好きな和装が一番であると奏に共感してもらえたからだ。

 しかも奏はここで畳みかけてくる。


「これ、真夜さんにプレゼントです」


 奏はポケットから手のひらサイズの巾着袋を取り出して真夜に手渡した。


「え……あの……あ……あれ……?」

「開けてみて下さい」


 まだ衝撃から立ち直れていない真夜だが、奏の言葉に体が勝手に反応して巾着袋を開けた。


「あ……ああ……」


 中に入っていたのは懐中時計だった。


「これなら和服姿でも持ち歩けるかなって」


 奏は真夜へのプレゼントとしてアクセサリーの類を贈ろうと考えていた。だが真夜が好きなのは和装であり、アクセサリーは極力身につけないのが普通である。かんざしも考えたが、お嬢様である真夜が安物の簪を身に着けていたら外聞がよろしくないだろう。

 和服に合い、人には見えないところで身に着けられるアイテムはないかと考え、懐中時計を思い付いた。懐中時計であれば巾着袋に入れたまま帯の所にしまっておけるので、人目に晒されることはまずないからだ。

 しかも巾着袋は和服に合いそうな柄の生地を使って奏が自作したもの。真夜が最も輝く和装に合わせた考え抜かれたプレゼントなのだ。

 高校生の初デートにしては重いが、すでに真夜から強く想われているので受け止めて貰えるだろう。


 真夜はプレゼントを胸元で優しく握りしめ、真っ赤になった顔を隠そうとはせずに笑顔を奏に向けた。その目にはほんのりと涙が浮かんでいる。


「ありが……とう……ございます。嬉しい……」


 プレゼントを心から喜んでもらえたことに奏は安堵した。

 同時に、真夜の会心の笑顔によりハートを射抜かれた。


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[良い点] みんなかわいい(主人公含む) [一言] よしハーレムルートいこうぜ!
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