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人助けをしたら美少女に惚れられて偉い人に褒められるんですけど!  作者: マノイ
第二章

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22/72

1. 美少女達とお昼休みを過ごしていたらデートに誘われたんですけど

 芹那、美月、真夜のお嬢様組が大川高校へ転入してから四日後の金曜日。

 学校全体を巻き込んだ大騒ぎは終息……する気配を見せなかった。


「い、いただきます」

『いただきます。本日も奏様とご一緒出来て幸せです』

「ぴえぇ」


 大川高校には食堂が無く、昼食は購買でパンを購入するか弁当を持参するのが一般的である。奏は弁当組で、高校一年生の頃は幼馴染ーずと机を合わせて食べるのが常であった。

 しかし今は状況が全く異なる。奏と机を合わせているのは転入してきた絶世の美少女達だ。


「イタダキマス」

「いただきます!」


 そして芹那達のたっての希望で、幼馴染ーずもこれまで通り奏と一緒に御飯を食べている。なお、感情が抜け落ちているのが辰巳で、満面の笑みで自然体で参加しているのが栞である。


「わぁ、今日も奏様のお弁当美味しそうだね!」

「美味しそう」

「彩も綺麗ですわ」

「ありがとう。お母さんに褒めて貰えたって言っておくね」


 奏とお嬢様達はありきたりの日常会話をしているが、そのまったり雰囲気とは裏腹に周囲は異常事態となっている。

 この学校は一クラス30人程度なのだが、その倍の60人近くが奏の教室で昼食を食べているのだ。別のクラスの生徒が『友達とご飯を食べる』という名目でお嬢様達を見に来たからである。

 また、異常は教室内だけではない。パン派の人が廊下に集まり、友達と談笑しているという体で立ち食いしながらお嬢様達を眺めている。中には弁当なのに立ち食いしている猛者もいる。


『京極さんの笑顔がくっっっっっそ可愛い!』

『東雲さんメッチャ綺麗だよね。秘訣を教えて貰いたいな』

『お弁当食べてるだけなのに、なんで花ヶ前さんってあんなに優雅に見えるんだろう』


 当然、彼らの関心はお嬢様達に向けられ、会話の内容も彼女達に関することが大半だ。しかし、実は彼女達と同じくらい関心を向けられている人物が居た。


『きゃああああああああ!佐野君照れてる、可愛い!』

『なでなでしてあげたーい』

『お嬢様に囲まれて愛でられる奏ちゃん、ご褒美です』


 奏である。

 初日の騒動によりお嬢様達が奏に惚れていることは周知の事実。だがそれで奏の評価が下がることはほとんど無く、むしろお嬢様に翻弄される姿が愛おしいと特に女性陣からの人気が上昇してしまった。

 一方男性陣は節穴であり、お嬢様達が奏を愛でる様子が妹弟いもおとうとを可愛がっているように見えてしまい奏はヘイトを稼いでいなかった。


 これらの周囲の騒ぎをお嬢様達は全く意に介していないが、奏は四六時中注目されていることに居心地の悪さを感じていた。

 もちろんそんな不満を口にしたところで『お嬢様に惚れられて何を贅沢なことを言っているんだ』と言われ、『ソウデスヨネー』と全力で同意するしかないため決して表には出さないのであるが。


「あれ、真夜さんのお弁当いつもと違うんだね」

「はい、わたくしも『普通のお弁当』というものに挑戦してみました」


 卵焼き、カボチャの煮物、きんぴらごぼう、鶏の照り焼きにプチトマトという純和風の弁当だ。


「前のも美味しかったけど、それも美味しそうだね」


 昨日まで真夜が持参していた弁当は、何処かの料亭が作ったものではと思えるような和風懐石弁当であった。また、最初の頃は真夜だけではなく、芹那も美月も似たような高レベルの特注弁当を持参していた。

 だが、クラスメイトと自分達の弁当の差に気が付き、一般的な学生生活を送るために庶民のお弁当に変えてもらうように家族にお願いしたのだ。


「か、奏様の卵焼きと交換致しませんか?」

「ぴえ」


 何故奏が以前のお弁当が美味しかったと知っているのか。それは真夜達が奏に食べさせてあげたからだ。


「今日は自分で取」

「はい、奏様」

「ぴえ」


 問答無用で差し出される卵焼き。すでに真夜が口をつけた箸に挟まれている。


「(真夜さん恥ずかしくないのかな)」


 恥ずかしいに決まっている。

 真夜はスキル『やまとなでしこ』を使い、照れが表に出ないようにズルをしているのだ。芹那や美月は照れながら差し出してくるため感情が分かりやすかったが、真夜の場合はズルのせいで内面が分かりにくいのである。


「花ヶ前さん、それじゃあダメだよ。昨日言った通り『あ~ん』って言わないと。後、恥じらいも重要だよ」

「栞ちゃん!余計なこと言わないで!」

「余計じゃないもーん」

「それじゃあ栞ちゃんも辰巳にやってあげなよ」

「なっ、なんで私がこいつに!」


 幼馴染枠ということで昼食の場に御呼ばれしている栞だが、精神的に図太いようで遠慮なく芹那達に接してすでに打ち解けている。芹那達にとって初めての庶民の女友達のポジションをゲットした。

 ちなみにもう一人の幼馴染はと言うと……


「(俺に話を振るなああああ)」


 ひたすら空気になろうと徹していたが、話の矛先が向けられたことで奏と栞に恨みの視線を送っていた。奏と違って普通の男である辰巳はクラスメイトから強烈な羨みと嫉妬の視線を受け、食べたものを吐き出しそうな気分になっていたのだ。


「(代われるなら代わってやるよ!)」


 せっかくラブコメな空気になりそうなのに、それどころでは無い残念な男だった。


「あ……あ~ん」

「ぴえぇ」


『うわああああ、恥じらう花ヶ前さんやべええええ』

『恥じらう奏ちゃんもやばい。なお語彙力』


 スキルを解除して栞のアドバイス通りに恥じらいを見せた真夜にドキドキしつつも、奏はここで退くような男では無い。小さく瑞々しい口を開けて差し出された卵焼きを勢い良く頬張った。


「あれ、優しい味がする」


 多くの人に見られながらの『あ~ん』により恥ずかしすぎて味が分からなくなることもなく、しっかりと味わい感想を口にする。


「こう言うと失礼かもしれないけど、僕が普段食べてる卵焼きの味がする」


 プロが作ったしっかりした味わいの物では無い。紛れもない家庭料理の味がした。


「失礼だなんてとんでもないです。むしろありがとうございます。実は当家のシェフに、普通のご家庭でのお弁当を作って貰うようにお願いしたのです。合格を頂けたとシェフに伝えておきますね」


 さらっとシェフという単語が出て来る辺り、やはり真夜はお嬢様なのだと言うことを認識させられる。


「良かった。真夜ちゃんも作って貰えたんだね」

「私も食べてみたい」

「どうぞ、みなさんで頂きましょう」


 芹那も美月も家庭的な弁当へとクラスチェンジ済だ。奏も混ざり、お互いの弁当を食べ合いっこしてきゃあきゃあ騒ぐ姿は、普通の女子高生にしか見えなかった。奏も含めて。




 芹那達が大月高校へ転校してきた理由は二つ。


 一つはもちろん奏にアプローチするためだ。

 そしてもう一つは普通の女子高生としての生活を体験すること。特に芹那は普通の生活に強い憧れがあり、率先してクラスに溶け込もうと努力している。


 だがこの昼食時の風景から分かるように、彼女達の学生生活は普通とは言い難い。

 そこで昼食タイムを終えた奏は、芹那達に一つ提案をする。


「ねぇ、来週からは別々でお昼ご飯を食べない?」


 嫌われたのではないかと思い芹那達の顔が青ざめる前に、奏は発言の意図を説明する。


「僕はみんなと食べるの凄い楽しいよ。でも、クラスの女子達とご飯を食べて仲良くなるのも良いんじゃないかなって」


 女子高生としての普通を体験するのならば、奏にべったりしているだけではダメである。女友達からしか学べないことが山ほどあるからだ。

 栞だけでは無く、色々なタイプの女子と関係性を深めた方が彼女達にとって役に立つはずだと奏は考えた。


「(それにこのままじゃダメだよね)」


 クラスメイトと彼女達の距離は縮まっていない。

 転校生が来ると質問攻めにして強引にクラスに溶け込ませるのが創作物としてあるあるだが、彼女達のあまりのお嬢様オーラに押されてクラスメイトは距離を置いてしまったのだ。

 強く興味を抱き他クラスから押し寄せて来るくらいなのに、勇気を出して話しかけられる人物がほとんど居なかった。まるで動物園状態であり不健全だ。

 このままでは彼女達がクラスで孤立してしまうと考えた奏は、どうにかして打ち解けて楽しい学生生活を送ってもらいたいと感じていた。


『奏様……』

「ぴえぇ」


 芹那達は奏が自分達のことをしっかりと考えてくれていることを喜び、うっとりとメスの表情を浮かべるが、奏は少し引いた。

 この辺りの駆け引きもきっと教えてくれるだろう。恋愛経験豊富な女子が何人いるのかは分からないが。

 もしかしたら創作物から得られた偽知識を教えられて失敗する、などといった事件も起きるかもしれない。だが、失敗もまた良い経験になるだろう。


「かなちゃん良い事言うね!それじゃあ私に任せてよ!」


 栞は友達が多い方だ。実際、芹那達とクラスの女子の間に入って仲介役のような立場になっている。栞の強引さでクラスメイトと話をする機会が増えれば、すぐに打ち解けられるだろう。


 だが奏は一つだけ忘れていることがあった。

 このクラスの女子は肉食系が多いと言うことを。


 すでに肉食系の片鱗を見せているお嬢様方が一般の肉食獣の知識を得た時に何が起こるのか。

 栞からのアドバイスを吸収して『あ~ん』を身に着けたように、次々とパワーアップするだろう。


 なお、この日は昼休み終了間際に芹那がぶっこんで来た。


「奏様、お願いがあるの!」

「何かな?」


 顔を真っ赤にして奏に話しかける芹那。傍から見ると何か特別なことを言いそうな雰囲気だが、基本的に彼女達は奏と話をするときは常に恋する乙女モードで顔が真っ赤なので違いが分からない。

 奏もまた、まだ付き合いが浅いので区別はついていない。ゆえに、お願いと言っても些細な内容だろうと軽く受け止めていた。


「私とデートしてください!」

「ぴええええええ!」


 告白された時からいつか来るだろう思っていたデートのお話。奏は彼女達から言われる前に自分から誘わなければならないと考え準備を進めていたが、これほどまでに早く先手を取られて誘われるのは予想外であった。


「芹那ずるい。私もしたい」

「わたくしもでえとしたいです」

「ふふん、先手必勝だよ!」


 もちろんそんな話を聞いて美月や真夜も黙ってはいない。奏の事となると、やまとなでしことして奥ゆかしさを備えている真夜ですら肉食系に変貌してしまうのだ。


「(デートって明日か明後日!?まだ準備出来てないよ!)」


 今日は金曜日なので、明日の土曜の午後か、明後日の日曜だろう。急な話であり奏はデートプランを立てられていない。

 これが男女関係に慣れている人や、付き合って何度もデートを重ねているのであれば特に焦ることも無いのだろうが、奏は人生で初めてのデートでありそのような余裕はない。

 真面目な奏は失敗してがっかりさせたくないと思い、念入りに準備をするタイプなのだ。


 焦る奏に救いの手を伸ばしたのは栞であった。


「私に任せて!」


 それが救いになるのかどうかは分からないが、栞の手腕により準備不足でデートに臨むことだけは辛うじて回避させられたのであった。


「それじゃあかなちゃん、三週連続だね。頑張って!」

「ぴええええええ!」


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