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人助けをしたら美少女に惚れられて偉い人に褒められるんですけど!  作者: マノイ
第一章

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18/72

18. 美少女を助けたら財閥会長にお礼を言われたんですけど

「どうぞお入りなさって」


 奏が一人取り残され、ノックをすれば良いのかと迷っていたら、タイミング良く中から声がかけられた。周囲を良く見ると扉の右上に小さなカメラが設置されていた。外の様子を確認していたのだろう。


「失礼します」


 扉を開き中に入ると、個室としてはやや広めの落ち着いた雰囲気の執務室であった。高級感は無く、むしろ質素に感じられる。奏が緊張しないために設えたのか、あるいはこれが金城の好みなのかは奏には分からない。

 中には理事長と真夜、そして見たことのない大柄でややふくよかな老人が並んで入口の方を向いて立っていた。

 扉が閉まると老人が一歩前に出る。真っ白な白髪に手入れの整ったふさふさのお髭という、ザ・おじいちゃんと言った風体だ。


「孫を助けてくれてありがとう」


 簡易なお礼の言葉と共に頭を下げる。そのまま数秒経ったところで頭を上げ、柔らかい笑顔を浮かべた。


「(あれ、なんかあんまり怖くない)」


 偉い人独特の『やり手』の雰囲気が全く感じられず、ちょっと恰幅が良いだけの普通の老人にしか感じられなかった。


「儂は花ヶ前源三げんぞう。真夜の祖父じゃ。三峰グループの会長なんかをやっておるが、その辺りは気にしなくて良いぞ。そもそも君くらいの年代の子だったら普通は分からんよな。はっはっはっ」

「ああ、いえ、その」


 確かに会長の言う通りなのだが、はいそうですなどとは失礼にあたるため言えるわけが無く戸惑ってしまう。

 金城はその奏の姿を見て、会長の脇を肘で思いっきりつついた。


「うぐぅ!」


 鈍い音がしたので手加減無しの一撃だったのだろう。会長の顔が一瞬だけ苦痛に歪んだが、すぐに飄々とした顔に戻る。


「おっと困らせるつもりはなかったんじゃ。そうだ、真夜も奏くんに会いたがっておったぞ」


 今度は真夜が前に出る。助けた時と同じ和服姿で長い髪を簪で止めている。背筋を伸ばして姿勢良く立っているだけなのに、優雅な雰囲気を醸し出している。


「奏様」


 その声質は昨日助けた時の自然なものとは全くの別物であり、作られた口調であった。だがそれが機械的な人間味の無さには決してつながっておらず、むしろ『礼』が極限までこめられているように奏は感じた。


昨日さくじつは助けて頂きありがとうございました」


 お手本のような『礼』だった。警視長官も銀行頭取もその娘達も礼はしっかりしたものであった。

 しかし真夜の礼は次元が違った。

 具体的に何が違うのか奏には理解出来ない。理解出来ないのだが、お辞儀だけなのに感謝の気持ちというものが強烈に伝わって来るのが分かった。

 顔を上げた真夜はそれまでの真剣な表情を崩し、柔らかに微笑む。


「(ぴええ……)」


 それまでの大人びた姿から一転して年相応の少女らしさが混ざり合った笑顔に、奏の心は一気に鷲掴みにされた。

 芹那と美月の件で美少女に少しだけ慣れさせられていた奏は、動揺する気持ちをどうにか抑えて真夜に言葉を返す。最初が真夜だったら、何も言えずに口をパクパクしていたかもしれない。


「えっと、その、元気そうで良かった」

「はい、奏様のおかげです」

「怪我も無かったの?」

「はい、奏様のおかげです」

「ぴえ……お婆ちゃんが僕の話を信じてくれたおかげだよ」

「はい、鈴江さんにもお礼を申し上げました」

「おや、私の話かい?」


 様子を伺っていた金城だが、自分が話題になったことで話に入って来る。お礼を言われ続けるループから抜け出せそうなチャンスに奏は全力で乗っかった。


「そういえばお婆ちゃんはあの時どうやってあの部屋まで来たの?」

「ふぅむ、詳しい話をする前に、まずは座りましょうか」


 四人はソファーに座りお話モードになる。奏の隣に金城が、正面には真夜が座っている。


「それで、あの部屋まで移動した方法よね。簡単なことよ、転移スキルを使ったの」

「転移スキルですか?」


 真夜が襲撃された場所から奏の街までは車で一時間以上かかる。奏のメッセージに金城が気付いたとしても、現場に居るはずの金城は直ぐに来れない。ゆえに、何故あの場に金城が居たのか気になっていたのだ。


「ありがたいことにうちにも転移スキルの持ち主がいてね。おっと、この話は出来れば秘密にしてもらえると嬉しいよ」

「絶対に言いません!」

「くっくっくっ、ありがとう」


 世界中で生まれた多くのスキル。その中でも転移スキルは良くも悪くも非常に有用なスキルだ。特に犯罪者にとっては拉致、暗殺、盗み、逃亡などの多くの犯罪に活用できる垂涎もののスキル。ゆえに金城達権力者は、転移スキルの持ち主が犯罪者に狙われないように最優先で保護している。


「そうそう、転移スキルといえば、その点でも奏さんには助けられたわ」

「どういうことですか?」

「相手の転移スキルの持ち主をどうにか捕らえることが出来たのよ。これで多くの犯罪を未然に防ぐことが出来たわ」


 犯罪者達に保持されたくない転移スキルの持ち主を無力化出来たことは、子供達を守る金城としては非常に安心出来ることだった。転移スキルを極めると、相手に触れずとも転移させられる可能性があるとも言われており、流石にそのような相手から子供達を守り通すのは難しいからだ。

 まだスキルが未熟なうちに、少しでも多くの転移スキル者を見つけ出したい。そのために鑑定スキルの持ち主がフル稼働させられているのだが、一般人はそのことに気付いていない。


「それじゃあ花ヶ前さんが狙われる可能性が減ったってことですよね。良かったですね」

「はい、奏様のおかげです」

「ぴえぇ」


 せっかく気楽に話を進められて良い雰囲気だったのに思わず真夜に話を振ってしまい、またお礼ループの状況に逆戻りしそうになる奏であった。


「ふむ、奏くん。不躾で申し訳ないが、一つお願いを聞いてもらえないだろうか」

「おいおい、それは本当に不躾すぎないかい?」


 話が区切れたところで、突如会長が奏に何かをお願いしようとする。だが、ここは奏に礼を言う場であり、そこでお願いを言うなどあまりにも礼を欠くのではと金城が窘める。


「しかし、どうしてもお願いしたいのじゃ!」

「あはは、僕に出来る事なら、どうかおっしゃってください」

「ああ……優しい良い子じゃ。頼む、儂のことを『お爺ちゃん』と呼んでくれい!」

「ぴえ!?」


 何かとんでもないことをお願いされるのかと内心ドキドキしていた奏であったが、予想外のお願いに素で驚いてしまった。


「何を馬鹿なこと言ってるんだね!」

「鈴江さんばかりお婆ちゃんって呼ばれるのずるい!」

「でかい図体して子供みたいなこと言ってるんじゃないよ。突然そんなこと言われて奏さんが困ってるじゃないか」

「いーやーだ!お爺ちゃんって呼んで欲ーしーいー!」

「ぴぇ……」


 金城の言う通り子供のようにダダを捏ねる会長。天下の三峰グループ会長という雰囲気はこれっぽっちも感じられない。これならむしろ真夜の方が会長と言われた方がしっくりくるくらいだ。


「おじい様」

「ひぃっ!?」

「ぴえ!?」


 その駄々を止めたのはまさかの真夜であった。三峰会長の方を向いて呼んだだけなのに、偉い人特有の謎の威圧感が会長を黙らせた。


「(今回怖いのはこっちなの!?)」


 偉い人ブーストによる不安は少なめだと安心しかけていた奏だったがそうはいかない。真夜から発せられる強者感は警視総監や銀行頭取と比べても全く引けを取らないものだったからだ。


「はぁ、じじいだけじゃなくて孫もか。奏さんが怖がっておるぞ」

「あ……申し訳ございません!」


 奏は真夜の謝罪に対し、反射的に顔を思いっきり横にぶんぶんと振ってジェスチャーで答えてしまう。だがその行動はむしろ真夜に怯えていることがバレバレであり、真夜の顔が真っ青になる。作られた表情では無くなり、自然な表情に変わったのだが奏はそのことに気が付かない。

 慌てた奏は話を逸らした。


「そういえばお婆ちゃんって会長さんと仲が良いの?」

「冗談じゃないわ!誰がこんなでくの坊と」

「会長じゃなくてお爺ちゃん、じゃ。鈴江さんにはこちらがお世話になっているんじゃ」

「この学園にお孫さんが通っているからですか?」

「いや、それ以前からじゃな。鈴江さんは若い頃からこの瀧川女学院で多くの権力者の娘を育てて来たんじゃ。それも命を懸けて」

「命を懸けて……」


 決して大げさな話では無い。人として、あるいは女として巨大な権力や犯罪組織に潰されそうになったことなど何度もある。それらを乗り越えて今の地位を得られたのは、たゆまぬ努力と豪運によるものだったと考え、金城は決して驕ることは無い。


「ゆえに儂らは頭が上がらないのじゃよ」

「あんたらに頭を下げられても気持ち悪いだけよ。そもそもあんたらがもっとしっかりしていれば、私だってさっさと引退できたものを。どいつもこいつも図体ばっかりでかくなって中身はガキのまんま。情けないったらありゃしない」

「儂はまだマシな方じゃろ?」

「はっ、礼を伝えるべき相手を呼び出しておいて、マシも何もあったもんじゃないわ」

「ぐっ……儂だって行こうとしたが周りが泣いて止めてくるのじゃ。仕方ないじゃろうが」

「はん、そんなのあんたの教育不足なだけじゃない。私は一人で迷惑がかからないように奏さんのお宅に行ったわよ。謙信も和真もあんたも、大馬鹿よ」

「ダメだ、やっぱり口では勝てん!」

「ケツの青いガキが私に勝とうなんざ、一生かかっても無理だわ」


 軽快に会話をする二人を見て、なんだかんだ言って仲が良いのではないか、などと空気を読まない台詞を奏は口にはしない。むしろ金城の口から聞き覚えのある名前が聞こえて来たことの方が気になった。


「(お婆ちゃんって警視総監や頭取も頭が上がらないんだ。とんでもない人と仲良くなっちゃったような)」


 今更ながら、金城の持つ権力の大きさに気が付き背筋が少し冷たく感じた。だがそれでも金城に恐怖や緊張感を抱かないのは、すでに金城と打ち解けてしまっていたからだろう。金城が自分の力をむやみに伝えずに、優しいお婆ちゃん風なイメージを刷り込ませた作戦勝ちである。


「わたくしも鈴江さんに同意します」

「(ぴえっ!?)」


 先ほど奏に怖がられたのを忘れたのか、真夜は再度怖い笑顔を浮かべて会長を嗜める。


「ぐっ……真夜まで儂を苛めるのか」

「お爺様の自業自得です。わたくしもあれほどこちらから出向くのが筋だと申し上げたでは無いですか」


 警視総監と銀行頭取は礼を伝える相手を呼び出すという大きな失礼を犯した。本来であれば礼を伝える側が出向くのが筋であるのだが、スキルの付与により権力者である二人は以前よりも狙われやすく、それゆえ一人で外出するなと部下達に強く止められてしまったからだ。

 しかも二人は奏をかなり緊張させてしまった。この日は奏が大きく緊張することは無かったが、それは会長ではなく金城達の手柄だ。会長がセッティングしたならば、前の二人と同じ結末になっていただろう。

 それが金城や真夜には不快であったのだ。

 責められた会長は不穏な雰囲気にオロオロし出した奏に助けを求めた。


「うわーん!奏くん助けて―!」

「ぴえっ!?」

「奏様に助けを求めるのは卑怯です!奏様、お爺様のことは気にしないでお話ししましょう」

「え、でも」

「そういえば奏様は先日の事件をどうしてお知りになったのでしょうか?」


 奏と話が出来るチャンスだというのに、会長の話ばかりしていることに真夜は気が付いた。ここで会話の主導権を取りにかかる。


「最近、瀧川女学院の方と関わることが多かったから、なんとなく瀧川女学院のWebページを調べてたんだ。そこで新入生代表のページに花ヶ前さんが載ってることに気が付いたの」

「まぁ、お恥ずかしい」

「恥ずかしい事なんて無いよ。とても綺麗だったから」

「あ……ありがとうございます」

「それで、この綺麗な人も有名な人の関係者かなと思ってなんとなく調べたら問題のサイトを見つけたの。あ、その、勝手に調べてごめんなさい。気持ち悪いよね」

「そのようなことはございません!」


 ただしイケメンに限る、という訳ではないが、時と場合によるだろう。興味の無い男性や自分に対して明らかに下卑た考えを抱いている相手から、Webで貴方の事を調べましたなどと言われたら気持ちが悪い。だが好意を寄せる相手が自分に興味を抱いてくれたのだと思えば嬉しく感じるだろう。

 そもそも真夜は『綺麗な人』と褒められたことで舞い上がってしまい、それ以上の内容は頭に入って来ないのだが。普段から言われ慣れている言葉だが、奏に言われると冷静さを保つことが出来なくなる。


「何でも聞いて下さい。奏様にでしたら何でもお答えします」

「何でもって言われても……」

「その、奏様でしたら恥ずかしい事でも」

「ぴえっ!?」

「こらこら、あんたそういうキャラじゃないでしょうが。大和撫子は何処にいったのさ」


 頬を赤らめてとんでもないことを言い出す真夜。これが二人っきりならちょっとしたラブコメ展開になるのだが、傍に金城や祖父がいる状況で言い出したらギャグにしかならない。


「そういうのは二人っきりの時にやりなさい」

「ぴえっ!?」


 しかし金城は全力でそのギャグの流れに乗っかった。奏と生徒達の絆を深めたい金城としてはむしろありがたい流れなのだ。露骨すぎる発言に奏がドン引きしないように気を付ける必要があるが。


「会長さんは止めないんですか!?」


 それならばと奏は会長に助けを求めた。大事な孫娘が男とえっちぃ話をするなど、大反対するかと思ったからだ。


「ふぉっふぉっふぉっ、奏くんなら大歓迎じゃ。あと、お爺ちゃん、じゃ」

「ぴえええええ!」


 残念、ここには奏の味方は居なかった。


「(誰かタスケテ!)」


 まずい話の流れで嫌な予感がひしひしとする奏を救ったのは、ポケットに入れておいたスマホの振動であった。


「あ、夕飯!」


 今日は夕食会は無しと金城から聞いていたので、帰りの遅い奏を心配した母親が連絡をしてきたのだろう。奏の味方は時間であった。タイムリミットだ。


「おやまぁ、もうそんな時間かい」


 確かに夕方18時を回っていて、家庭によっては夕食が始まる時間帯だ。奏をこれ以上引き留めるのは佐野家に迷惑がかかるため控えたいところ。自然と、このまま解散する流れとなり奏は妙な雰囲気から解放された。


 しかし、奏の受難はまだ終わらない。

 今回のお礼を一番権力のある真夜の祖父が代表したのは当然だが、だからといって真夜の両親が来ない理由は無い。むしろ一緒にお礼をするのが自然な流れだ。その不在の理由を奏は確認し忘れていたのだ。


「奏様、父と母は海外におりますので、後日改めて両親と共に『奏様のお宅に』お伺いさせて頂こうと考えております」

「ぴえええええ!」


 後日、佐野家は家族総出で花ヶ前親娘を迎え、妹の七海がお嬢様に出会えて大喜びしたのであった。

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