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人助けをしたら美少女に惚れられて偉い人に褒められるんですけど!  作者: マノイ
第一章

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16. 美少女を助けたら瀧川女学院からの迎えが来たんですけど

「黙秘します!」

「あ、ずりぃ!」

「かなちゃん教えてよー!」

「いーやーだー!」


 担任と奏のやりとりの中では肝心なキーワードが出なかったため、クラスメイトは何がなんだか理解出来ていない。ただ一つ分かったのは、先日の瀧川女学院の生徒救出と似たようなことが起きたのだと言うこと。

 また、担任がチラリと瀧川女学院を見たことに気付いた人は居たが、瀧川女学院の生徒に奏が関わっただけだと思った。


「今回は本当に言えないの」


 金城から連絡があり、今回の事件の手口についてはしばらくの間口外しないで欲しいとお願いされていた。口外しないで欲しい内容の中に、奏が瀧川女学院の生徒を救ったことや、その生徒の素性については含まれていなかったが、もちろん言えるわけが無い。


「今日何処に行くかも言えないのか?」

「う゛っ」

「その反応は大丈夫な感じだね、かなちゃん」

「だめーーーー!」


 瀧川女学院に呼ばれているなどと口にしようものなら大暴動に発展しかねない。何しろそこは神秘のお嬢様学校。高校生にとっては警視総監室や銀行頭取室などよりよっぽど気になる場所だ。


「奏がそこまで頑なになるなんて珍しいな」

「だよね。あたし達が行ってみたくなる場所なのかな」

「推理しないで!」


「放課後着いてくか?」

「あたし今日部活休みなんだよねー」

「着いてこないで!」


「そこまで言うってことはまさか助けた女の子の家とか」

「それとも瀧女だったりして」

「当てないで!あ」


『ええええええええ!』


 結局、学校全体を巻き込んだ大騒ぎになってしまった。


――――――――


「これなんの騒ぎ?」

「お前知らねーの、瀧女の関係者が来るんだってさ」

「マジで!?」


 放課後、大川高校の校門前は大勢の生徒達でごった返していた。大ポカをやらかしてしまった奏が、隠すことを諦めて素直に校門で迎えが来るのを待つことにしたからだ。


「いやぁ~まさか瀧女の人に会えるなんてな」

「来るのはただの迎えだよ。執事のお爺さんの可能性もあるんだよ」


 実際、芹那の時はそうであった。


「まぁそん時はそん時さ。誰が来るかは聞いて無いんだろ」

「うん……」


 金城から来た『楽しみにしてて』のメッセージがどうにも怖い。危険だから真夜本人が来ることは流石に無いとは思うが、地味な男性が来る可能性は低そうだ。


「はぁ~瀧女か~きっと素敵な人が来るんだろうなぁ」

「栞、小さい頃からお嬢様に憧れてたもんな」

「そうりゃあそうだよ。だって近くに本物のお嬢様が居るんだよ。女の子だったら誰だって夢見るもん」

「全く正反対に育ったくせに」

「な・ん・だ・っ・てー!」

「痛い痛い、どこの世界にアイアンクローするお嬢様がいるんだよ!」

「ふんだ、ばーか」

「お前はそのままで良いんだよ」

「え?今なんて」

「おい、来たぞ。あれじゃねーか!?」


 辰巳と栞が奏を放って何やら怪しい雰囲気になりそうなところで、空気の読めない生徒が叫んで遮った。


「なんだ、リムジンじゃねーのか」

「でもすっげぇ高そうな車だぜ」

「なんだあの車!見たことねーぞ!」


 車好きの生徒が見たことが無いなどと驚いているが、見た目はシルバーの乗用車。やや大きいだけで形は普通だが、何故か不思議と高級感が漂っている。

 その車は奏が待っているところにピタリと停車した。曇りガラスで中は見えず、誰が乗っているのか分からない。

 助手席のドアがガチャりと開き、生徒達に緊張が走る。

 生徒達が見守る中、出て来た人物は奏の見知った人物であった。


「お婆ちゃん!」

「こんにちは、奏さん」


 とたん、生徒達に気が抜けた雰囲気が広がる。


「なーんだ」


 などと露骨に声を上げる人もいたが、金城は特に気を悪くしていない。


「お婆ちゃんが来てくれるならそうと言ってくれれば良かったのに」

「くっくっくっ、でもドキドキ出来たんじゃないかしら」

「本当にドキドキしたよー」


 奏と仲良くする金城。生徒達はもっとお嬢様学校っぽいSPや執事や綺麗な人が来るのかと期待していたため、落胆は大きい。だが、幼馴染ーずは気付いていた。この老婆が只者では無いと言うことを。


「ね、ねぇたっくん。かなちゃんがあれだけ親しくしている瀧女のお婆ちゃんって言ったら、あの人しか居ないよね」

「あ、ああ、り、りり、理事長だ」

『!?』


 その瞬間、全生徒が同時に一歩後ずさり、綺麗な音が響いた。


「前の二人の時は移動中に奏さんに心労をかけたようですからね。今回は私が直々に迎えに来たのよ」

「ありがとうございます!」


 この心遣いが奏にとってはとてもありがたかった。目の前の老婆は日本最高峰の偉い人なのだが、金城の巧みな話術により心の壁は取り払われている。彼女と一緒で、しかも豪華すぎない車であるため奏の心の負担はそれほど大きくない。


「やべぇ。あの子、瀧女の理事長とあんなに親し気にしてるぜ」

「マジかよ……」


 周囲の生徒達は震えが止まらず思わず這いつくばりそうになっている。それだけ瀧川女学院の理事長が恐怖の象徴として浸透しているということだ。


「それじゃあ後ろに乗って」


 金城が後部座席の扉を開けようとしたら、その扉が自動的に開かれた。

 奏は気付くべきだった。何故金城が助手席に乗っていたのか。

 本来であれば金城が座るところは立場上運転席の後ろだ。また、移動中に話をするのであれば、隣同士座っていた方が話しやすいはず。

 それにも関わらず金城が助手席に座っていた理由。それは奏と話をさせたい人物が後ろに乗っていたからだ。


「奏様!」


 後部の扉が開き、中から飛び出して来た人物が奏に抱き着いた。


「え?え?」


 困惑する奏の鼻に女の子特有の良い香りが漂ってくる。それも極上な香りが。


「来ちゃいました」

「芹那さん!?」


 最初に助けた女の子、京極芹那だ。


「うお、何あの子可愛すぎんだろ!」

「やっべぇええええええええ!」

「あんなに可愛いのってあり!?」 

「あれがお嬢様、天使のような笑顔、ああ……」

「可愛すぎて死ぬ」


 そのあまりの可愛らしさに生徒達は大騒ぎになり収拾がつかなくなる。暴走した生徒が駆け寄ってきてもおかしくない雰囲気だ。

 だがそれはある大声によって遮られた。


「何でここにいるの!危ないでしょ!」


 なんと奏が芹那に向かって怒ったのだ。愛らしいという気持ちしか浮かばなかった生徒達には考えられない行為で、辺りがシンと静まり返る。


「え?」


 芹那もまさか怒られるとは思っておらず、驚きの表情を浮かべている。


「あれからまだ一か月も経ってないんだよ。こんなところに不用意に来たら危ないよ!」

「あ……ごめんなさ」

「ほら、早く車に乗って!」


 芹那は謝る隙も与えられず、怒った奏により車に押し込まれてしまう。

 生徒達はもう少しあの子を見ていたかったと思うけれども、そんなことを言って良い雰囲気では無かった。


「お婆ちゃん、急ぎましょう」

「くっくっくっ、そうね」


 生徒達が呆然とする中、奏達を乗せた車は校門から出発した。


――――――――


「本当にごめんなさい!」


 車の中で芹那は奏に何度も何度も頭を下げた。


「あ、うん、僕も言い過ぎました。ごめんなさい」

「違うんです。私が悪いんです。鈴江さんにも決して外には出るなって言われてて、でも奏様の姿を見たら我慢出来なくなって……本当にごめんなさい」


 涙を流して謝罪する芹那の姿を見て、奏は狼狽えてしまう。女の子の涙には弱いのだ。

 助手席に座っている金城が泣いている芹那に言葉をかける。


「私の言った通りだったろう」

「はい……」

「あの、どういうことなのでしょう?」


 何故彼女がこの車に乗っているのか。迎えならば金城だけで十分だったはず。危険を犯してまで芹那を連れて来た理由が奏には分からなかった。


「簡単なことさ。せっかくの移動時間、私みたいなおばばよりも、同世代の女の子と話した方が奏さんも楽しいだろうと思ったのよ」

「ええええええええ!」


 まさかの理由に奏は驚く。


「で、でも危険ですよ!彼女は少し前に襲われたばかりなんですよ!?」

「そりゃあそうだ。だからこの車を選んだのよ」

「この車?」

「この車はある意味瀧川女学院にいるよりも安全な場所なのさ」

「え゛」

「色々な仕掛けがあってね。くっくっくっ、まぁそんなわけだから外出を許可したのさ。ただ、車の外は奏さんが言う通りに危ないから絶対に出ないようにって厳命してあったんだけどねぇ」

「申し訳ありません……」


 本当ならば車に乗ったところで隣に芹那が居て驚くという流れを想定していたのだろう。芹那が言いつけを破らなければ、ドッキリが成功して今ごろは奏が慌てながらも楽しいひと時を過ごせていたはずだ。


「まぁ、今回のことで芹那も懲りたでしょう。私らが何千回と注意するよりも遥かに効果があっただろうからね」

「それってどういう」

「さあて、どういう意味かしら。くっくっくっ」


 芹那は涙を目に溜めながらも恥ずかしそうな表情を浮かべてもじもじし出す。以前見た快活な姿とのギャップが奏の心を大きく揺さぶる。


「ま、そんなことだから今日の所は許してあげてくれないかね。後でたーっぷりとお仕置きしておくから」

「う゛」

「せっかくの時間なんだから、若い人同士楽しい話でもしなさいよ」

「もう、お婆ちゃん!」


 楽しい話と言っても、怒ってしまった以上はまずはこの気まずい雰囲気をどうにかしなければならない。


「あの」

「ひゃい!」


 芹那に話しかけると変な声を出された。


「迎えに来てくれてありがとう。すごい嬉しいよ」

「あ……」


 奏はまだ迎えに来てくれたお礼を言っていなかったことを思い出した。


「もう怒って無いから、前みたいに普通にお話しよう。元気な芹那さんの方が僕は好きです」


 地獄の夕食会で芹那は元気よく奏に話しかけて来た。あの時みたいに自然体に戻って欲しかった。

 だが言葉が悪い。

 意味が違えど『好きです』の一言は恋する女の子にとってクリティカルヒットなのだ。


「す、す、す、あ、あわわわわ」

「ええ、芹那さん!どうしたの?」

「あはははははは」


 気まずい雰囲気は霧散したが、代わりに芹那が真っ赤になって慌ててしまい、それを金城が大笑いする。車内が普通の雰囲気になるにはもうしばらく時間がかかった。


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