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人助けをしたら美少女に惚れられて偉い人に褒められるんですけど!  作者: マノイ
第一章

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11. 美少女を助けたら銀行の頭取に感謝されたんですけど

「んで、どういうことか教えてくれるんだよな」

「めっちゃ気になってあたし授業に集中出来なかったんだからー」

「栞はいつもだろ」

「何をー!」


 朝のホームルームで奏が担任と意味深なやりとりをした後、クラスメイト達は当然放ってくれなかった。特に幼馴染ーずからの圧力が強く、つい『また女の子を助けた』と口にしてしまう。説明に時間がかかりそうだったので昼休みにまとめて説明することになり、クラス中がお昼を食べながら奏の話に注目している。

 奏は昨日の出来事について、相手の素性が分からないようにぼかして説明した。


「マジかよ、またしても瀧女かよ」

「かなちゃん、豪運だねー」


 絶対に会えないと言われている瀧川女学院の生徒に二回も会う。しかもいずれも相手のピンチを救っての恩人扱いだ。


「どうせまた夢なんだろって言いたいけどマジなんだよな」


 芹那の時の話は最初夢扱いされたが、リムジン事件と奏の体験談によって真実であることを幼馴染ーずは理解せざるを得なかった。そして今回もまた担任の反応から察するに、信じがたい事ではあるが真実だと考えるしかない。


「それで、それで、今度はどんな子だったの?」

「それな。まためっちゃ可愛い子だったのか?」

「う~んとね。可愛いというより綺麗な人だったかな」


 ゲームセンターで話をしていた時の彼女の姿は覚えていないが、最後の別れ際に見せた超絶美貌は夜が明けても未だに忘れられない程のインパクトがあった。


「美人系かー。いいなー。くー!俺も会いてぇ!」


 うんうんと、クラス中が頷く。男子だけではなく女子もそうだ。高嶺の花のお嬢様との交流は女子にとっても夢である。


「たっくんみたいなむさくるしい男を相手してくれるわけが無いじゃない」

「あぁ?栞みたいなガサツな女を相手する方が品が失われるからありえねーな」

「ひっどーい、こんなにプリチーな女の子に向かってガサツだなんて」

『プリチー……?』

「おいコラ。いくらなんでもその反応は傷つくよ」

「あははは」

「ごめんごめん」


 奏の印象では芹那も美月も人懐っこく、このクラスに居たら案外すぐに馴染むのではないかと感じていた。尤も、美月の方は趣味が合ったからこそすぐに心の距離が近づいたわけであり、通常時については知らないのだが。


「それで奏はどっちがタイプなんだ?」

「え?」

「それ聞きたいー!」

「え?え?」


 クラスの、いや、学校全体の妹弟いもおとうと分である奏の恋愛話。しかも相手はお嬢様学校の生徒となれば、昼食を食べる手が止まり全員が耳をそばだてる。 


「なんでそんな話になるのさー」

「だって奏って命の恩人だろ。『娘を助けてくれてありがとう。君のような勇敢な男なら娘を託せられる』」

「『父上、お止めください』」

「『はっはっは、照れておるのか。まんざらでもない様子じゃないか。どうだ、本気で考えてみてくれないか』」

「『……奏様がご迷惑でなければ』」

『とか定番だよね(な)ー』

「そんなこと現実にあるわけないでしょ!」


 幼馴染ーずの小芝居に奏は全力でつっこんだ。それは物語でしかありえない展開だと思い込んでいるからだ。助けた女の子達の頬を赤らめた姿の意味を気付いていなかった。


「でもよ、体を張って命を助けてくれたんだぜ。多少は恋心が芽生えるかもしれねーじゃん」

「そうそう、もしかしたらかなちゃんが二人に迫られるかもしれないんだよ。きゃー!」

「無い無い、絶対に無い。あったとしてもつり橋効果ですぐに忘れられるよ」


 奏には恋愛に発展しないという自信があった。その根拠は目の前にある。


「例えば栞ちゃんを僕が助けたとして、恋愛的な意味で扱ってくれる?」

「…………ごめん」


 奏は自分がどう見られているのか自覚がある。相手にどれほど好印象を与えようとも、妹弟いもおとうととして溺愛されるだけであると経験上理解していたのだ。ゆえに、助けた彼女達も奏のことを可愛い妹か弟としての感覚で愛でてくることはあっても、恋愛的な意味で接触してくることはまずないと考えていた。クラスメイトも奏の言葉に納得してがっかりした雰囲気が流れ、ご飯タイムが再開された。


「そういえば、結局先週はリムジンで何処に連れて行かれたんだ?」

「秘密にしてないで教えてよー」

「うーん、これ言って良いのかなー」


 ちなみに先週の事件については、女の子が襲われていたから助けたら、黒服に囲まれてその子が帰ったこと。リムジンに乗せられて助けた女の子の父親の元に連れてかれて感謝を伝えられたことだけ伝えてある。襲った男が銃を持っていることは幼馴染ーずを心配させると思い伝えておらず、父親の情報に関しては漏らして良いか分からないのでぼかしていた。

 今週の事件についてもゲームセンターで楽しく会話した、という部分は激しく嫉妬されそうだったので伝えていない。

 結局奏は、やっぱり先方に迷惑がかかるかもしれないからと秘密にすることに決め、幼馴染ーずも追及はしてこなかった。


――――――――


 そしてその日の放課後。


「なんで着いてくるのさー!」

「いやーだって奏がすげぇ車に乗るとこ見てみたいじゃん」

「かなちゃんの雄姿はちゃんと記録してあげるからね」

「止めてよ!っていうか記録は本気で洒落にならないから止めた方が良いよ」

「え、そんなレベルの偉い人なの……」


 偉い人の関係者を撮影したら何をされるか分からない。本気で命を心配する奏を見て、栞は慌ててスマホをポケットに仕舞った。流石に脅し過ぎではあるが、偉い人恐怖症の奏はあり得ると本気で信じていた。


「うう……先生も助けてくれないし。どうしてこうなったのさー!」


 帰りのホームルームが終わった後、担任は奏を駐車場に連れて行くことは無かった。朝の指示で全て、後は自分でなんとかしろ、ということなのだろう。


「あれ、それっぽい車ねーぞ」

「ほんとだー」


 駐車場に着いたが、リムジンのような次元の違う高級車は見当たらない。これで前回のように目立たなくて良いと分かりほっとした奏であったが、それはそれで待ち合わせ相手の居場所が分からなくてキョロキョロと辺りを探す。その奏に、背後から声をかけてくる人物がいた。


「佐野奏様でしょうか」

「あ、はい、そうで…………」


 その人物の姿を見て、奏の体は石のように硬直する。


「本日はお忙しいところ申し訳ございません。本来であれば我が主が直接お伺いするのが筋でございますが、そうなるとどうしてもこちらの学校を騒がせてしまうことになりますので、別の場所にてお話させて頂ければと思います。お手数をおかけして申し訳ございませんが、私と一緒に来ていただけないでしょうか」

「は、ははは、はいいいい!」


 下手に出て丁寧に挨拶するその男は、黒いスーツに黒いネクタイ黒いサングラス、そして顔に大きな三日月の傷がある、いかにも極道映画に出てきそうな雰囲気を身に纏っていたのだ。

 奏はぶるった。


「それは良かった。そちらはご学友で?」


 幼馴染ーずもぶるっている。話が振られても、恐怖でまともに話が出来ず呂律が回らない。


「あ、学友です。ただの学友です。単なる学友です。か、かか、奏をよろしくお願いします!」

「よ、よよ、よかったね、かなちゃん。目立たない、らしいよ」


 明らかに変な言葉遣いだが、男はそのような失礼は気にしなかった。


「ははは、良い友人に恵まれていらっしゃるようですな」


 まったくにこりともせずに笑い、サングラス越しにじろりと幼馴染ーずを睨むように見つめた。


「ひぃっ!そ、そそ、そんな滅相な。そそ、それじゃあ、かなちゃんを、よよ、よろしくお願いしましゅ」

「あ、栞逃げ……よ、よろしくです!」


 その視線に耐えられず、幼馴染ーずは脱兎のごとく逃げ出した。


「ふむ、どうなされたのか。用事でも思い出したのでしょうか。ささ、奏様、こちらの車にお乗りください」


 男が示したのは一般乗用車。目立つことは本来であれば無い。

 しかしいかにもな男が運転する車の助手席に乗っていたらどうだろうか。道行く人は、対向車は、何を思うだろうか。もしかしたらかわいい子が誘拐されたなどと通報されるかもしれない。


「……」

「どうされましたか?」

「い、いえ」


 だが男は誠心誠意丁寧に接してくれるため、お前の顔が怖いから一緒に乗りたくない、などと奏は言えず、泣く泣く諦めて乗車した。

 男は奏が緊張していると思い、ほぐすために世間話をしてくる。しかし奏は下手な答えを返したら殺されるのではないかと恐れ、まともな会話が出来ない。ゆえにまだ緊張が解けてないと判断してさらに男が話しかけてくる。


「(誰かタスケテ!)」


 奏の悲壮な想いは誰にも届かず、悪循環は目的地に着くまで続いた。

 だが目的地に着いたからと言って奏の緊張の時間が終わるわけでは無い。むしろ、今回もとてつもなく偉い人に呼び出されたのだと理解し、絶望した。


 そこは日本有数の『大銀行』。その本店だった。


「ぴええええええ!」


――――――――


「奏様をお連れ致しました」

「分かりました。お連れください」


 奏には予想がついていた。どうせ一番偉い人のところに連れてかれるのだろうと。ゆえに、専用エレベーターに乗せられようが、絨毯が敷かれている廊下を歩こうが、新たに驚くことは無かった。尤も、最初から死んだような目をしているが。

 そしてその予想は正しく、奏はこの建物で一番偉い人が居る場所に連れてかれた。部屋の中は美術品が多く飾られており、それでいて価値をアピールするような品の悪さも無く、素人目にもセンスの良さを感じられる。だが、その全てが警視総監室の物よりも遥かに高額であることが一目で予想出来、奏としてはもし自分が傷でもつけたらと思うと不安でたまらなかった。


「(僕が同じ部屋に居たから価値が下がったなんて言われたらどうしよう)」


 突拍子もない妄想に恐怖するくらいには、パニックに陥りかけていた。


「突然お呼び出しして大変申し訳ございません」


 部屋の奥の机に向かって座っていた男性が立ち上がり、奏に声をかけた。

 男は眼鏡をかけた若い男性であり、決して高校生の娘がいるような年齢には見えない。スーツ、靴、時計、ベルトなど、身に纏っている物は全て最高級のものだが、着慣れた感じがして自然に見える。顔は美月と似て理知的で美形であるが、笑顔が完璧すぎて奏は気後れする。だが、警視総監と比べれば遥かに話しやすそうな雰囲気であり、少しだけ安心した。

 いつの間にか、いかつい男は部屋を出ており、奏はその男性と二人っきりになっていた。


「わたくし、三峰誠心銀行の頭取を務めさせて頂いております、東雲和真かずまと申します。この度は娘の命を助けて頂き、誠に感謝しております」


 頭取は姿勢良く頭を下げ、奏に娘を助けられたことについて礼を言う。警視総監の時とは違い、今回は状況を把握していたので、素直に答えを返した。


「頭を上げてください。偶然その場に居合わせただけですから、あまりかしこまられると困ります」


 命を助けた奏が遠慮しても、はいそうですかと話が終わることは本来であれば無い。日本の銀行のトップともいえる人物の娘を助けたということは大きな意味を持つ。単に頭を下げただけで済むようなことなどありえない。


「分かりました。ご配慮ありがとうございます」


 しかし、頭取は奏のお願いに従い体を上げ、礼の言葉を尽くし過ぎることを止めた。奏を困らせないようにという配慮であり、礼は別の形で返すようにと考えたからだ。出来る男なのである。


「立ち話もなんですし、そちらへどうぞ」


 ふと、頭取の雰囲気が柔らかくなった。口調のせいなのか立ち居振舞いを変えたのかは分からないが、部屋の中に弛緩した空気が流れ、奏の緊張は更に和らいだ。様々な相手と渡り合ってきた頭取の処世術の一つである。

 ソファーに座った奏は辺りをキョロキョロ見渡してから質問を投げかける。


「そういえば東雲美月さんは居ないのでしょうか。昨日、別れる時にここで会うかもしれないって言って……仰ってたので」


 警視総監の時は、いつの間にか芹那が部屋の中に居た。今回もそうなのかと思ったが、登場する雰囲気が無い。


「ふふふ、普通にお話して下さって構いませんよ。あと、申し訳ありませんが、娘は現在謹慎中です」

「え?もしかして昨日のせいで?」

「はい。実は娘とは約束をしておりまして」

「約束ですか?」

「私の立場上、娘がとても難しいポジションに居ることはご存じでしょうか」

「ええと、なんとなく」

「それゆえ娘には瀧川女学院の敷地から外に出ないようにお願いしていたのですが、アレは誰に似たのか市井に強く興味がある子でして、外出したいと申し出てきたのです。私も親として心配ではありますが、ずっと閉じ込めておくのも可哀想だと思い、娘と一つの約束をしました」


 娘が外に出るための条件。それは決して門限のようなありきたりの内容では無かった。


「もし外出してトラブルを起こした場合、その後一年間は決して瀧川女学院から出てはならない」


 この約束をすることで、娘に自衛を促したのだ。


「それじゃあ東雲美月さんはこれから一年間ずっと!?」


 せめて護衛付きでなんとかならないかと奏は思う。クレーンゲームのぬいぐるみを、そして奏の写真を嬉しそうに眺めていた美月が、これから一年もの長い間新たなそれらに出会えないのは彼女にとってあまりにも残酷なことだと感じたからだ。


「それが娘も強かでして、条件を追加してきたのです」

「条件の追加?」

「ええ、休日に私の仕事の手伝いをするから、一年間を一か月にまけてくれ、と」


 相手にとってのメリットを提供するから妥協してくれと真っ向から交渉をした。血筋の影響なのだろう。


「親バカと言われるかもしれませんが、私としては娘と過ごせる時間が増えることは嬉しい事でした。それに、私の仕事の手伝いは娘の勉強にもなることですから、その条件を受け入れてしまったのです。ですから娘の謹慎期間は一か月ですね」

「そうだったんですか……」

「約束は約束であり守らなければなりません。今日だけ特別扱いしたら他にも例外を許してしまい、約束が意味をなさなくなってしまいます。娘にはそのことを理解して貰うため、今日はこちらに来ることが出来ません」


 一か月程度であれば、ゲームセンターに大きな変化は無いだろうし耐えられそうだ。あの笑顔が曇ることが無いと分かり、奏は安心する。

 いや、一つだけ気がかりなことがあった。今後もまた彼女が襲われる可能性があるからだ。少なくとも昨日彼女を誘拐しようとした人達について知りたい。警察に電話していないので、また襲いに来るのではないかと心配なのだ。


「もう一つ聞いても良いですか?」

「もちろんです。何個でも遠慮なく聞いて下さい」

「その、東雲美月さんから警察に連絡しなくて良いと言われてその通りにしたのですが、問題なかったでしょうか」

「ああ、そのことですか。もちろん大丈夫です。むしろそのまま任せて下さったから警察も手間が省けて良かったのではないでしょうか」

「手間ですか?」

「ああ、いえ、こちらのことです。すでに犯人は捕まっておりますのでご安心を」

「もう捕まったんですか!?」

「ええ、それはもう、早急に『対処』しましたから」

「(ぴえっ!?)」


 一瞬だけ鋭い目つきになり、警視総監にも負けないその圧力に、奏は思わず叫び出しそうになる。今は奏に合わせてくれているだけであり、やはり怒らせたらいけない相手なのだと、震えが蘇る奏であった。


 この日は夕食を一緒とまではいかず、軽く雑談をしてから解散となった。しかし、奏の試練は終わらない。


「どうぞこちらへ」


 帰り道もまた、いかつい男の運転で帰ることになるのだから。


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