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意識が戻った途端、両手に何か握っているような気がした。
この手触り、いや、それよりも安心するような感覚。間違いない、俺の手には竹馬が握られている。周囲に気がたくさん見えるような気もするが、今は竹馬に勝ることなど何もない。
一度体を起こし、両手を確認する。
予想通り俺の両手には竹馬が握られていた。ジャンボサーキット二世ではないのが非常に残念だが、こいつもなかなかによさそうな気がしてならない。
「あの女、意外にわかってるじぇねぇか。流石は竹馬二ストだ」
立ち上がり、竹馬の感触を確かめる。
まず気づいたのだが、こいつとにかく軽い。触った感じからして金属であることは確かなのだが、金属とは思えないほどの軽さだ。まるで、体の一部のような安心感もある。ジャンボサーキット二世と長さもほとんど一緒で、大体俺の身長よりも少し長いくらいだろうか? まあ、俺の新しい相棒に不足はなさそうだ。
「よしっ、まずはこいつに名前を付けないとな。困ったな、こいつは男なのか女なのかわからんな。そのくらいはちゃんと教えろよあの女」
男か女かわからないことには名前の付けようがない。ちなみにジャンボサーキット二世は女の子だ。我ながらかわいい名前を付けてしまったと自負している。前は女の子だったから次は男でもいいかもな。俺の愛はすべての竹馬に平等だ。男女差別などはありはしない。
「とりあえずは性別がわかるまではジャンボサーキット三世で行っとくか。あいつのことを忘れないためにもな」
名前は一時保留とし、一番大事といってもいい竹馬として乗り心地を確かめることにした。
ゆっくりと片足を乗せる。その瞬間雷に打たれたような衝撃が駆け抜けた。
「なんだこれは? 力がみなぎってくる。ついに俺もこの領域に達してしまったのか?」
全く恐ろしいものだ、これだから竹馬はやめられない。今の俺なら、クラスの不良どもを瞬殺できそうだ。
バランスを取りながら、もう片方の足も乗せる。
ありえないほどの一体感だ。もう俺はこいつと一つになっている。さらばジャンボサーキット二世。俺はこのジャンボサーキット三世と人生を歩んでいく。
体中にみなぎる力が抑えられそうにない。竹馬を極めたものにはこれほどまでの力が与えられるのか。恐ろしい。あの女がモンスターとか魔王とか言ってたが、今の俺の敵にはなりえない。間違いなく、この世界で最強なのは俺とジャンボサーキット三世だ。
「手始めに、魔王をぶっ飛ばしに行ってもいいが、まずは、宿の確保からだろう。俺が野宿する分には問題ないが、ジャンボサーキット三世を野宿させるわけにはいかないからな」
自分の竹馬に野宿を強いるなど竹馬二ストの風上にも置けない行動だ。しかし、そのためにはこの世界で使える金を手に入れなくてはないらないな。どうしたことか…………。
悩んでいてもしょうがないな。ひとまず近くに村がないか確かめるか。
ボカンッ!!
俺は飛んだ。空から見るのが、一番手っ取り早い。竹馬があれば垂直飛びの百メートルや二百メートルは朝飯前だ。
森を飛びぬけ、空中から周囲を一望する。
「あっちに街がある。これでひとまずは何とかなるな」
ドスンッ!!
すさまじい音を立てて、俺は着地した。生身の状態だったら死んでいたところだろうが、竹馬に乗っている俺からしてみれば何のことは無い。たとえひもなしスカイダイビングをしても無傷で済むだろう。
先までの景色は正直あんまり覚えていない。どちらの方角に街があったのかも微妙だ。だが、問題ない。俺が覚えていなくとも竹馬が覚えている。
「いくぞっ!! ジャンボサーキット三世」
そう宣言すると、ひとりでに竹馬が動き出し、俺を街へと案内してくれた。これも竹馬二ストだからできることだな。
街へ向かって歩いていると、何やらへんてこな生物と出くわした。二足歩行の豚だ。すげぇ気持ち悪い。
「ブヒッ!! ブヒヒーー!!」
「何だって? お前も竹馬が好きなのか?」
「ブヒブヒ。ブヒヒーー!!」
「おう、わかるかこのジャンボサーキット三世の良さが? 全く見た目で判断しちゃいけないってのはこういうことだな」
まさかこんなに早く竹馬愛にあふれたやつと出くわすとは流石は異世界だ。
二足歩行の豚がなぜか俺に向かって突進してきた。
「おい、いくらこの竹馬がすごいからってお前にはやらんぞ」
「ブヒ――!!」
バンッ!! ボンッ!!
俺に突っ込んできた豚は俺にぶつかると衝撃に耐えきれず後方へと吹き飛んだ。
「マナー違反だぞ。人の竹馬には触っちゃダメだってお母さんから教えてもらわなかったのか? せめて俺の許可を取ってからにしろ」
豚は苦しそうにうめいている。全く竹馬に乗っている俺に突進なんて無謀にも程があるだろ。死ぬ気か?
「大丈夫か? こっちにこいよ。俺と竹馬について語ろうぜ?」
「ブヒッ…………」
怯えたような声を出して、豚はどこかに行ってしまった。
追いかけようかとも思ったが、豚の竹馬に対する愛がこの程度の物だったことが判った俺は途端に冷めてしまった。
「もういいや、街に行こう」




