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けたたましい音と共に地面が揺らいだかと思える振動が足元から頭へと伝わる。昨日味わった似たような揺れに顔を上げれば、金棒を突き下ろした赤鬼が大蜘蛛の上にはいた。だが振動は、昨日よりも重く、大蜘蛛の呻き声も鈍い。
唐突なことに伊織たちが固まっていれば、後から来た青鬼が金棒を大蜘蛛の頭へと振り下ろす。大蜘蛛の口から吐き出された体液が青鬼へとかかる。青鬼はそのことを気に留めることもなく、金棒を横薙ぎに振り払う。金属がぶつかるような音の後、悲鳴とも呻きとも取れるような大蜘蛛の絶叫。
薄明りの中、何かが宙を舞い、土煙を立てて地面に落下する。光を返すそれは、大蜘蛛の牙であった。
これまで自分たちを追い詰めていたものが、一転して追い詰められている。この鬼たちの力は如何ばかりか。考えただけで背筋が震えた。
草を掻き分ける音が視界の外で起こる。慌てて顔を向ければ、息を切らせた土御門が木に手をついて立っていた。
「本当に、相変わらず、鬼の足は速い」
少しだけ息を整えた土御門が顔を上げ、伊織と目が合う。一瞬間があってから、伊織に向けて破顔した。場違いな笑みに、伊織は目を瞬かせる。
「剥き出しの妖気が近づいてきたので式を先に向かわせたのですが、間違っていなかったようですね。間に合って良かったです」
命の懸かっている場に相応しくない軽い声。鬼を追って走り、乱れた呼吸の落ち着いた土御門は、笑顔のまま伊織へと歩み寄った。一度、すゞへ視線を向けたがすぐに逸らされる。
その瞬間だけ表情が消えたのが、夜目の利くすゞだけには見えていた。
「お怪我はありませんか?」
「ああ、何とか」
「それは良かった」
伊織へは相変わらずの笑顔のまま、大蜘蛛へと顔を向ける。鬼たちの攻撃に何とか対応してはいるが、既に虫の息だ。冷笑を浮かべ、土御門は懐から縦長の小さな紙片を取り出した。
「もう終わりですね。後は私が」
すゞの横を通り過ぎ、大蜘蛛へと歩み寄る。伊織には、戦いの中にあって彼だけが異質に思えた。その後ろ姿は、普通の、何でもない道を歩いているかのようである。
一歩一歩近づいてくる足音に、大蜘蛛はこれまで無かった焦りを見せた。その場から退こうとしても、後ろは青鬼に、前は赤鬼に阻止された。糸を吐くこともままならない。かちかちと牙の当たる音だけが、小刻みに起こる。
「分かった。この地からも、現世からも出ていく。もう二度とこちらには現れない。だから」
体液を滴らせながら、懇願するような大蜘蛛の声。だが、言葉は途中で途切れた。
土御門が大蜘蛛の顔に紙片を貼り、印を結んで何か口の中で呪文のようなものを呟く。一瞬にして大蜘蛛は全身を炎に包まれた。
「あれ? 今、誰か何か言いましたか?」
土御門の問いかけに、笑顔を向けられた伊織は答えられなかった。
大蜘蛛は炎の中で立つこともままならず、音を立ててその間に崩れ落ちる。悲鳴をあげて何とか逃れようと身を転がすが、額の紙片の為に起こっているので、どうにもならない。糊で貼っている訳でもないのに、紙片は一切剥がれる様子がない。
「喧しいですね。聞くに堪えない。もう少し静かにならないものか」
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