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話が途切れた頃合いで戻ってきたすゞをこれ幸いと、伊織は彼女を伴って探索に出ることにした。土御門は鬼が戻ってくるのを待つのか、動く気がないのか、手を振って伊織たちを送り出した。
伊織は土御門と距離を取る意図もあり、自身が最初に大蜘蛛と遭遇した場所を目指す。すゞは伊織の後ろを黙って付いていく。
大蜘蛛に対して気を張ってはいるものの、すゞは内心、別のことに囚われていた。先程、土御門と話していた名前のことである。歩きながらいつ尋ねられるかと怯えてもいるが、それよりも伊織にどう思われているのか、気が気でなかった。
怒りを向けられるのか、見下げられるのか。少なくともこれまで通りの信頼をされることはないだろう。
主人に対して偽りを述べ平然としている者を、誰が信じると言うのだろうか。
草木を分けて歩く目の前の男は、何も語らない。静かなその背中が、すゞを余計に不安にさせた。
「この辺りだと思うのだがな」
漸く発せられた言葉にすゞはびくりと肩を揺らす。彼女が考え事に夢中になっている間に目的地へと辿り着いていたらしい。
草の根を分けて痕跡を探したり、蜘蛛の巣を揺らしたり、辺りを見回す伊織にすゞは何も言わず、何をすることもない。彼女はただじっとその場に立ち尽くしていた。正面で重ねられている手だけが、落ち着きもなく動き続けている。
ちらりとその手を見た伊織がため息をつくと、それに怯えたようにすゞが身を固くした。
「聞かれたくないのなら無理には訊かんが、話したいのなら聞くぞ。今なら鬼たちもいないしな」
伊織は適当な木の根元に腰を下ろし、すゞを手招きする。近づけば自身の隣を叩くので、座れと言っていることは分かった。すゞが首を振って断れば、伊織は彼女の手を引き、無理矢理隣へと座らせた。
「ずっとそう、ぼんやりされるのも困りものだが、いちいち怯えられるのはもっと困るし面倒だ」
伊織はそれ以上言わず、すゞの言葉を待った。あえて名前のこと、と口にしなかったのは、彼なりの気遣いなのだろう。
鳥の声も虫の声もしない森の中、風が木々を揺らす音だけがしている。ぼんやりと周りを見ていると、意を決したすゞが口を開いた。
「旦那様もお気付きのことと思いますが、私の名乗っております『すゞ』は、私の本当の名前ではございません」
「だろうな」
ちらと伊織が隣を見れば、すゞは身を小さくして、地面をじっと見つめていた。
「妖怪は容易に真の名を人間には告げません。それは先程申し上げました通り、人間との間に縛りが生じてしまうからでございます。言霊は人間であれば誰でも容易に使うことのできるもの。そして妖怪にとって名は、魂。存在そのもの。名を掴まれる、ということは、則ち魂を掴まれると同じ事。ですので妖怪は、人間に真の名を告げないのでございます。陰陽師である土御門様が真の名を旦那様に申しておりましたのは、言霊による縛りといった簡単なものではなく、術を用いた使役を行っているからと思われます。妖怪たちの中で名を偽ることはごく当たり前のことですので、当人が人に名を言わない限り名を呼ばない、と暗黙の内の決まり事なのでございます」
お読みいただきありがとうございます。
漸く伏線らしきものを回収できました。
「伏線を引いて回収」ということが自分はなかなか苦手でして、自然にできていたでしょうか。
気付かれないように引いた伏線を後々詳らかにする、ということをできる作家の皆様を心より尊敬いたします。
すゞの会話にもありましたが、式神を除いて妖怪の名前を本人が語る前に呼ぶシーンはおそらくありません。
ありましたら訂正いたしますので、ご連絡いただければと思いますが……。
ただ、言うほど妖怪が出ていないので、伏線らしさは半減かもしれません。
もっと面白い伏線を引ければ、と今から考えています。
こんなことを言っている時点で、駄目かもしれませんが。




