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雲居藩妖怪抄  作者: 川端柳
第三幕――○○○(????)
86/280

21-(2)

 物言いたげにあわあわと伊織と土御門を交互に見る佐吉を宥めすかしたのも、勿論すゞである。この人間二人に、彼女のような気持ちは欠片も浮かんでいない。


 伊織は佐吉を放置し、土御門が既に食事を始めている部屋へと上がる。見れば、普段は部屋の上座中央にある筈の自分の膳が廊下側、土御門の正面に置かれていた。すゞを見遣るも、佐吉と何やら話しており聞けそうにない。土御門に視線を流せば一瞬目が合ったが、すぐに逸らされた。


 子供のような行いに、言葉も出ない。


 仕方なくそのまま座に着き、伊織も箸をとる。ふと、鬼たちの膳が目に入った。鬼たちの前にある膳は一箸たりともつけられてはいない。


「口に合わなかったなら、要望を言ってくれ。すゞが同じものを食べるものだから、妖怪の味覚は人と変わりないと思っていたが。鬼は違うのか?」


 翁も美味いと食っていたしな、と心の中で付け加えた。鬼たちはどう答えて良いものか、本気で戸惑っているようで、ちらちらと土御門を見ている。


 勝手に答えることができないのか。主に忠実だな、と感心し、伊織は佐吉を見る。佐吉は敷居のすぐ向こうの板間に座っており、伊織に見られ、首を傾げた。


「式神が人より先に食べるなどありえません。それだけです。人間の肉すら食らうような妖怪に、味の好みなど、訊くだけ無駄ですよ」


 土御門は箸を置くと、冷めたようにそう答えた。彼の前の膳は、既に空である。


 そうか、と返し、伊織も食事を始めたが、鬼たちは未だ箸をつける様子もない。




 静かに茶を啜る土御門を、伊織は何度も窺い見てしまう。彼は妖怪、特に自分の式神の話をする時、声が平坦となり、冷めている。冷たいとも言えるだろう。


 伊織は自分にはないその温度差が、いやに気にかかってしまうのだ。


 食事も済み、茶を飲んで人心地ついた土御門は、伊織の食事が終わるまで手持無沙汰となっていた。どうしたものかと視線を巡らし、佐吉と目が合う。


 昨日彼がいなかったことを良いことに、そこから再び、土御門の語り舞台が始まった。いや、始まってしまった。鬼たちは最早慣れているのか、これといって動じもせず、まんじりとも動かない。伊織は彼が話し始めた途端箸が止まり、ため息をついてしまう。


 佐吉ははじめこそしっかり聞こうと前のめりになっていたが、途中からは相槌が曖昧になっていた。何度か伊織を見てみたが、助け船が出る様子もない。


 これから世話の間、これが続くのか。


 佐吉はそう考えるだけで辟易とし、同時に、伊織の朝会ってからの言動に納得していた。


 だが一方で土御門の語りは、佐吉に大体の事情を把握させた。土御門の目的も、翁の話ができない理由も、着物から覗いていた伊織の傷の訳も。


 気付けば伊織の食事は終わっていたが、土御門の話はまだまだ終わりそうにない。何度目かの助けを求める視線に、漸く伊織は応じ、渋々土御門の話を遮った。


「昨夜した話だが、本当に今日、また山に行くのか?」


「えぇ、勿論。妖怪を好きにさせて良いことなどありませんから」


 割って入った伊織の質問に対し土御門が間髪入れずに笑顔で返す様に、佐吉はほっと息をついた。笑顔の土御門に対し伊織は真剣な顔をしている。その空気にすゞも佐吉も緊張感を持ったが、土御門にその様子はない。ただ、漸く大蜘蛛討伐の話になったことがただ嬉しそうである。

お読みいただきありがとうございます。


私事ではありますが、先日おめでたいことがありました。

身内に新たな命が誕生したのです。

残念ながら物理的な距離を理由に直接祝うことは叶いませんでしたが、それでも今から会える日が楽しみです。

しかし、ニュースで聞き及んでいた「出産の立ち合いは一人まで」が事実だったとは。

身近に起こることで実感することが、往々にしてあるものです。


追記:先日ブックマークが増えておりました。本当にありがとうございます。今後とも宜しくお願い申し上げます。

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