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伊織が自身の部屋で人心地つけたのは、土御門たちを先祖代々の位牌のある仏間に押し込み、彼らが眠りについたのを確認してからだった。
話し合いの後も土御門は安定の態度を見せていた。あれが気に入らない、これが気に入らない、と文句をたれる。それもすゞに対してばかり。その度に伊織が出張り、諫め、不貞腐れ、機嫌の悪くなった土御門がまたすゞに当たり散らす。その繰り返し。
辟易とする伊織に申し訳なさそうにするのは、何故か鬼の方で。
ただでさえ大蜘蛛との戦闘で疲れていた伊織にそれ以上の負担をかけ、部屋に入った途端、そのまま布団へと倒れこんだ。
これから何日、これが続くのか。考えるだけで頭が痛くなる。
「旦那様、もうお休みになられましたか?」
伏したままぼんやりと床に就こうとしている時、部屋の外からすゞの細い声が聞こえてきた。伊織はゆっくりと体を起こし、布団の上に胡坐をかく。
「いや。どうした」
「お話がございまして」
「入れ」
「失礼いたします」
襖を静かに開け、すゞが入ってくる。伊織は思わず出た欠伸を噛み殺そうとしたが失敗し、喉の奥から変な音が出た。
「お休みになられるところに申し訳ありません」
「構わん。して、何用だ」
そう問えば、すゞは指三本を揃え、深く頭を下げた。
自身の寝所で未婚の娘が薄着で指三本、など、男の考えの至る先など、一つである。あまりの場面に伊織は言葉を失い、鯉のように口をぱくぱくと動かす。
「申し訳ございませんでした!」
突然出てきた謝罪の言葉に伊織は固まり、えっ、という声しか出なかった。呆然としている伊織が見えていないすゞは、頭を下げたまま続ける。
「私のせいで旦那様に大変ご迷惑をおかけ致しました。土御門様をここに置くことになったのも、何かとお手を煩わせてしまったのも、私のせいでございます。本当になんとお詫び申し上げて良いことか」
「待て。落ち着け。とりあえず顔を上げろ」
捲し立てるような謝罪に、伊織は慌ててそれを止める。すゞがおそるおそる顔を上げれば、呆れ顔の彼が。叱責されるのだろう、とすゞは目を瞑り、身を固くする。その様子に伊織がため息をつけば、彼女は更に小さくなった。
「お前に非はない。だから顔を上げろ」
頭にわずかな重さを感じ、ゆっくりと目を開ければ、伊織が呆れながらも優しい笑みを浮かべ、頭を撫でていた。想像していなかった状況に息をのみ、目を瞬かせる。
「顎を撫でた方が、よかったか?」
「そこまで猫扱いをしていただかなくとも結構です」
悪戯っぽい笑顔で言われた問いに、すゞがむくれて返せば、小さく笑いながらすっと手を離した。手が彼の元に戻り、目が合う。また笑われ、すゞは顔を赤くして目を逸らした。
「冗談はさておき、現状、どうしたものか」
すゞが視線を正面に戻せば、伊織が腕を組み、頭を捻っている。彼の頭を悩ませているのは当然土御門のことだ。
「方便とはいえ、言った手前、後には退けぬな」
自分の中で納得したのか、そう独り言ちると、伊織は瞑っていた目を薄っすらと開け、すゞ、と呼びかけた。彼女は驚いたのか、詰まりそうになりながら返事をした。
「すまんが、土御門がこの藩にいる間、式神として俺の務めを手伝ってはくれんか」
「勿論。私でお役に立つのでしたら、喜んで」
「まぁ、その方が、あの陰陽師と揉めることも少ないじゃろう」
「そうだな」
自然と相槌を打ってから、気がつく。今、一人多くなかったか、と。
二人が声のした方に視線を向ければ、腕を組んで何度も頷いている翁が、そこにいた。
「普通に入って来いといつも言っているだろう。いつからいた」
「お前たちが仲良ぉしておった頃からかのぉ」
にやつきながら答える翁に伊織は頭を抱え、すゞは再び顔を赤らめる。翁は二人の様子から、広げた扇子を縦に振り、煽るように二人を扇いだ。
「ほれ、良いから続けよ」
「そういう話は端からしていない。今考えるべきは翁、あんたのことだ」
お読みいただきありがとうございます。
前回で説明回パート1が終わりました。
漸く、僅かではありますが動きが出てきました。
パート1と申し上げました通り、実はまだこの幕内で説明回があります。
陰陽師という存在の登場によって、次々と裏情報が詳らかになっていきました。
ある程度設定を練っても、機会が無ければ出すつもりはないでしたが、土御門が当初思っていた以上に言わなくてもいいことを言ってくるので、自分でも少し困ってしまいます。
彼の我儘、立ち振る舞いに、今暫く伊織と作者と共に皆様にもお付き合いいただければと思います。




