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雲居藩妖怪抄  作者: 川端柳
第三幕――○○○(????)
57/280

14-(2)

 河濃山は不思議なくらい静かなものである。近くの村の者は誰も踏み込まず、旅人にも注意を促している為、人の気配がしないのは当然のことだ。


 それにしても嫌に静かすぎる。伊織たちが山に分け入っても、鳥獣の鳴き声、足音、鳥の羽ばたきの音一つない。不気味なほどに生き物の気配が感じられなかった。


 山の中は湿気に満ち、息苦しさを感じさせる。まだ日は高い筈なのにもかかわらず、山の中は薄暗い。湿気があるのに、感じる温度は低く、誰かがぶるりと肩を震わせた。


 背筋を嫌な汗が流れてゆく。嫌悪感を抱きそうな重い雰囲気が山に満ちている気がして、伊織は何度も後ろを確認してしまう。何度振り返ろうとも変わらない。嫌悪感の正体は掴めないままであった。


 嫌な予感という不確かな感覚が、どうしても伊織の中から出ていこうとしない。前を歩く二人を見遣るが、どうやら彼らに同じ気配は感じられないらしい。





 何もないまま三人は山の中腹までたどり着いていた。思わず息をついた伊織を他所に、九曜は周りを見渡す。


「この辺りで少し探ってみよう。何か見つかれば声をかけよ。くれぐれも無茶はせぬように」


 伊織は耳を疑った。ここで単独行動をすることこそ、何よりもの無茶ではないだろうか、と。


 驚いているうちに、九曜と櫛松は別々の方向に分かれて行ってしまった。どちらかだけについて行くという訳にもいかず、二人を引きとめることも最早難しそうだ。仕方無く、伊織も二人とは違う場所を一人で調査することにした。




 進んでも進んでも、尾花のような背の高い草と高木が続くばかりで、見える景色は一向に変わらない。自分は前進しているのか、していないのか、感覚が狂いそうになる。


 ようやく草むらを抜け、少し開けたところに出た。落ち葉が敷物のように辺りに広がり、先程まで纏まっていた草が飛び飛びに生えている。わずかに明るく開けた場所にもかかわらず、感じられる気温は低いままだった。


 気がつけば随分山奥にまで足を踏み入れていたらしい。自分の来た道なき道を振りかっても、薄暗い森が続くばかりだ。周囲を見回しても、何も見つからず、別の間所を探そうと足を更に山の奥へと向ける。目の前は再び尾花の群れである。


 自分の着物に目を落とすと、野草の種や葉っぱの欠片、冬に散りきらなかった芒の花がそこかしこに付着していた。裾には土が撥ね、足袋も元の白さの欠片も無い。帰りたいと思いながらも、お役目なのだから、と渋々足を草の中へと進める。


 草むらに踏み込んですぐ、かつん、という音が足元からした。視線を向ければ、草の中に何かが落ちていることだけは理解できた。上から覗くだけでは確認できない草の中へ、伊織は躊躇うことなく手を差し入れる。


 足に当たった物を拾い上げると、それは猟師たちの使う猟銃であった。火は既に消えており、木製の部分は湿り気を帯びている。この銃がこの場に落ちたのは、昨日今日の話ではないだろう。


 猟師の誰かがこの辺りまで踏み入ったのは間違いなさそうだ。しかし、山に入った猟師は一人ではない。他の手掛かりはないか。体を低くし、草の中を手で探りながら慎重に進む。

お読みいただきありがとうございます。


日々寒さが増していき、朝起きるのも億劫になってまいりました。

夏に比べ、一時間以上遅く起きています。自分のズボラさにはほとほと呆れるばかりです。

伊織たちの時代の冬は大した暖房器具もなく、隙間風が吹きことなど当たり前。そんな生活を送っていたのかと思うと、昔の人の精神力には頭が下がります。

誰か冬にも早起きする簡単な方法を教えてはくれないものか。そう、現実逃避する日々です。

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