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雲居藩妖怪抄  作者: 川端柳
第三幕――○○○(????)
55/280

13-(4)

 藩内とはいえわざわざ遠出するのは、正直伊織は遠慮したい気持ちだ。だが、それよりも疑問に思った。わざわざ自分を誘うなど何の気まぐれだろう、と。伊織自身、複数人での行動を好まない。一人の方が気楽というのもあるが、他人に合わせて自分の行動が制限されるのが特に嫌だというのが大きい。それは態度にも出ており、だからこそわざわざ一緒に行動したがる人間など、兵衛くらいのものである。


「何故、自分なのでしょうか」


 故に、正面から尋ねてしまった。九曜は慣れているのか、気にしていないのか、態度を変えることなく視線を部屋の中へ移す。


「奉行から命を受けた後、手当たり次第声をかけようと思っていた時、最初に出くわしたのが三石でな。奴に先程と同じ事を言ったところ、『花菱の方が自分より腕が立つから、そちらを誘った方が良い』と言われてな」


 視線の先には兵衛の姿がある。伊織も九曜にならって視線をそちらに向ければ兵衛と目があったが、兵衛はすぐに目を逸らした。伊織は憎らしげに舌打ちをする。


「詳しい話は()きながらする。ひとまず支度しろ。櫛松にも声をかけてあるから、揃い次第出立する」


 一方的にそれだけ告げると九曜は踵を返し、鷹匠のいる部屋の方へと姿を消した。




 返事もできずに呆然とその後ろ姿を見つめていた伊織だが、廊下を曲がり姿が見えなくなったところで、はっ、と意識を取り戻す。再び室内に視線を戻せば、兵衛が足音を消してひっそりと反対側から出ていこうとしているところだった。


 伊織は大股で兵衛との距離を詰め、襟の後ろを掴んで廊下へと引きずり出す。勢いよく引っ張りすぎたのか、兵衛は蛙が潰された時のような声を上げる。そのまま背中を壁へ押しつけ、胸倉を掴めば、降参を示すように両手を肩の高さに上げた。


「おいこら、どういう了見だ。何、人に仕事押しつけてくれてんだ」


「落ち着け、伊織。口調がごろつきみたいになってるぞ」


「けっ」


 まあまあ、とたしなめられ、苛立ちながらも掴んでいた襟元を乱暴に離す。まったく、と呟きながら、兵衛は乱れた合わせを整えた。


「この前、妹に売った意趣返しのつもりかよ」


「まぁ、それもおおいにあるが、遅く来たお前が悪い。だいたい、お前が俺より腕が立つのは本当だろう」


「お前の腕だって似たようなもんだろうが」


「ともあれ仕事なんだからきっちりやれよ」


 ぽんっ、と肩を叩くと、深く眉間にしわを寄せている伊織の脇からするりと抜けだす。不敵な笑みを浮かべ、せいぜい気張れよ、と言い残し部屋の中へと戻っていった。




「帰ったら一発殴ってやる」


 爪が食い込むほど手を握り込み、いつもより低い声で恨めしげに呟く。その声が兵衛に届いたかは分からないが、腹の中で伊織は決意を固めた。


 さりとて、上司に命じられたのだからやらねばならない。頭を掻きながら、仕事の為にのっそりとその場を離れた。

お読みいただきありがとうございます。


前回、風邪を引いた話をいたしましたが、そのまま咳喘息になりました。人生で初めての経験です。

やはり、環境が変わり、体調にも変化が遂に表れてきたということでしょうか。


さて、そろそろ今年も終わりが見えてまいりました。

カレンダーも、ずいぶん薄くなってまいりました。新しいカレンダーをそろそろ準備しないと、ですね。

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