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「知ったような口利いてんじゃないわよ。あんたに何が、私の何が分かるっていうのよ」
はぁはぁ、と荒い呼吸をあざみは繰り返す。
「浸っていたいなら一人でやりなさいよ。客の誰にも胸の内を見せもしない、心を寄せることもしないくせに。あんたなんかに私のこと、一生分かる筈ないわ」
心からの叫びに、突き飛ばされたゆかりは何も言えなかった。ただ茫然と口角泡を飛ばす彼女を見つめることしかできなかった。
「ゆかり姐さん、立てそうか?」
近くに寄った伊織がそっと手を差し伸べる。ぼんやりとしていたゆかりは、はっとして彼の手を取った。
「ありがとう」
伊織の手を借り、ゆかりは立ち上がる。伊織はゆかりをそのまま自身へ引き寄せ、庇うように身を乗り出した。
「言いたいことはそれだけか」
「え?」
「言い訳の一つでも聞いてやると言っただろう。話が終わったならお前を女将たちに引き渡す。奉行所で裁くか店で内々に罰するかは知らん。それを決めるのは俺じゃない。なぁ?」
伊織が振り返って廊下の方へ声を掛ける。伊織に合わせてきくたちが振り返ると、あざみの部屋から少し離れた所に男衆が一人立っていた。伊織と目が合うと、彼は黙って頭を下げ、伊織はにやりと口角を上げる。
「あとは任せていいか?」
「はい。花菱様におかれましては大変お手数をおかけいたしました。主に代わりお礼申し上げます。後はこちらにお任せください」
「あぁ、よろしく頼む。俺たちはこれで引き上げる」
伊織はあざみに完全に背を向けた。そのまま出ていく伊織を文七ときくが慌てて追いかける。
「若旦那。私は」
出ていく文七にあざみは縋るように手を伸ばしたが、彼が振り返ることはなかった。掴むことも、掴まれることもなかった手が虚しく宙を切り、床へと落ちる。
「あざみ」
ゆかりはなんとか慰めの言葉を掛けようと名前を呼ぶが、先程言われたことが頭をよぎる。
彼女は私のどんな言葉も望んではいない。
ゆかりはそれ以上何も言わず、あざみと男衆を部屋へ残し部屋を後にした。
ゆかりが座敷の部屋に戻ると、既に伊織は酒を傾けているところだった。文七もきくに酒を注がれている。
「戻るの早くない?」
「そうですか?」
怪訝な顔をしたゆかりに手酌する伊織が返事をした。
「だってさっきのことがまるでなかったみたいに酒呑んで」
「じゃあ、気落ちしたまま酒を呑めばいいですか? それはそれで見ていられない気がしますが」
「そこまでしろとは言わないけど。でも、伊織があまりにも当たり前にするから、つい」
「ついって」
自身の隣に座ったゆかりの言い分に呆れながら、伊織は持っていた杯を彼女に渡し、そこへ酒を注いだ。呑むように暗に言っているとすぐに分かり、ゆかりは入れられた酒を一気に飲み干す。
「ゆかり姐さんにとっては長く苦楽を共にした仲間みたいな気持ちかもしれませんが、俺にとっては馴染みでも何でもない一人の飯盛女でしかないんですから、いつまでも係ってなんていられませんよ。先程も言った通り店に引き渡した以上、俺にできることは何もないですから」
「でも」
食い下がるゆかりに伊織は、それに、と笑顔を向けた。
「これでようやく下手人探しが終わるんですよ?」
伊織にとってはようやく面倒事から解放されたのだ。祝杯の一つでも挙げたい気分なのは間違いないだろう。
お読みいただきありがとうございます。
ままならないものですね。予定というのは。
知らないうちに予定が変わり、考えていた通りの動きができなくなる。
それに対応できてこそ大人なのかもしれませんが、なかなかどうして上手くいかないものなのでしょうか。
そして、漸くできたと思ったところに文字数のあまりの少なさを知り、柄で考えなければならなくなった時のショックたるや。
一瞬ふて寝してしまいました。
まだまだ精神が大人に成れていないのかもしれません。
と、長々遅くなった理由をそれらしく書きましたが、無計画な自分を殴ってやりたい。




