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仕事をしながらも伊織の頭の中は、すゞと未だ見ぬ彼女の幼馴染みの事が渦巻いていた。
幼馴染みとやらがどんな妖怪なのか。すゞと同じ猫又なのか、はたまた違う妖怪なのか。姿は人に近いのか、獣に近いのか、それとも全く想像もつかない様な姿なのか。そもそも、男なのか、女なのか。
伊織は好奇心で口許が緩みそうになるのを、家につくまで何度も直すこととなった。
家に帰れば、朝と変わらずすゞが女中部屋にいるだけだった。着替えをしてから女中部屋に顔を出せば、朝置いていった握り飯は米粒ひとつ残すことなく平らげられていた。
「ごちそうさまで、ございました」
「お粗末様」
空の竹の皮を拾い上げると伊織は部屋を出た。賄い場で竹の皮を洗って干し、献立を考えていると、勝手口の戸が叩かれた。戸を開ければ、そこには編笠を被った子供が一人。その手には笊に乗った豆腐。
「どうも、花菱様。豆腐は要りませんか?」
子供が編笠を取れば、そこには綺麗に剃髪された頭。子供のような無邪気な笑みで伊織を見上げていた。
「豆、と言ったか」
「これは、覚えていただきまして恐悦至極でございます」
豆助は頭を下げる。顔を上げ、伊織越しに土間の奥を覗いた。
「すゞさんは、ご在宅ですか?」
「いや。今は床に伏している。春だからな」
「左様でございますか」
豆助は言外にすゞに盛りがついていることを読み取り、それ以上は追及しなかった。
「豆腐だったな。ひとつ貰おうか」
「ありがとうございます」
伊織は小さな桶を手に取ると水瓶から数杯水を汲み、豆助の元へ戻る。豆助は丁寧に笊から桶の中に豆腐を移す。崩れることなくするりと豆腐は桶へ移った。ずっと笊の上にあったにも関わらず、乾いている様子もない。
支払いをしようと懐の財布に手を伸ばし、財布を掴む前にその手を止めた。昨日、すゞは対価は金ではないと言うことを言っていたのを思い出した。正確には金でなくてもよい、である。
「干した大根があるが、持っていくか?」
「宜しいのですか? では本日はそれを御代とさせていただきましょう」
伊織は銀杏切りの形で干した大根を笊に乗せて豆助の前に持ってきた。笊の上で山になっているそれらを豆助は一掴みすると自分の笊へ乗せた。
「それだけでいいのか?」
「今日は初めてですので、お勉強させていただきます」
そう言うと豆助の持っていた笊から大根が姿を消した。驚いた伊織が笊に触れるが、笊以外の感触はなかった。
「消したのか?」
「いいえ、仕舞っただけでございます。また出すこともできます」
豆助は笊から大根を出して見せ、また仕舞った。
「すごい笊だな」
伊織はまた笊を触りまわす。受け取って引っくり返したりするが、ただの笊である。
「いえ。笊ではなく、私の術にございます」
「本当に面白いな、妖怪とは」
伊織は豆助に笊を返した。
お読みいただきありがとうございました。
二月が二十八日までしかなかったので、次の更新予定と自分で勝手に定めている十日の間の日である、今日更新してみました。しかも、真昼間に。
次は十日更新予定です。忘れなければですが。




