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村へ知らせた方が良いかとも考えたが、思うばかりで動くことまではしなかった。えんのことがしこりとなって胸の内にいつまでも残っているからだ。
一月が過ぎ、えんの満中陰が近づいてくる。予言の顛末に興味があるのか、筑波も長光たち送り犬も伊織の家に留まっている。このまま何事もなく二月が過ぎるのではないかと思う程に穏やかな日和が続いた。
しかし、件の予言は外れない。
予言の予兆は雨ではなく地震だった。立っていられないほどのものでもなく、家が崩れるようなものでもない。時折ある、小さなものだった。少し揺れたな、と人々が口にする程度。誰も気には留めなかった。伊織たちをはじめ、翁でさえも。
山が崩れたという話もなく、数日が経った頃から雨が降り始めた。昼夜問わず続く長雨。時々止んだかと思えば、その日のうちにまた雨模様となる。
そんな日が続き、一際雨足が強まった夜を越えた明朝。奉行所は大騒ぎになっていた。出勤したばかりの伊織は何が起きているのか分からず、右へ左へ走り回る人を捕まえては断片的な話を聞きだし、何人目かで漸く事態を把握した。
宇和山が雨により山崩れを起こし、麓の村の半分は土砂に沈んだそうだ。
縁の予言の通りである。
少し前に地震で緩んだ地面が雨によって崩れたそうだ。奉行所としてやることはあまりない。村へ行って救援活動をする訳でも、その采配をする訳でもない。城にいるしかるべき人が現場を見て差配し、残った村人や近隣などから人足を募って作業が行われる。
又聞きのような話を耳に入れることくらいしかできることはない。完全に蚊帳の外である。
翁や他の妖怪たち自ら見に行くことはなく、村の近くを住処にしていた妖怪から話を聞くくらいしかできることは無いらしい。
それぞれの方面から聞いた話を纏めると、おおよそ縁の予言通りの様相だった。
山は崩れ、形が変わっており、元々あった獣道などは跡形もない。決まった道順で進まなければ牛鬼の住処へは繋がらない為、宇和山から行けることはもうないだろう。長い年月、人が代替わりを何度か繰り返した頃、元に戻るかもしれないが、少なくとも伊織が生きている間に繋がることはない筈だ。
土砂と雨による洪水で村はおよそ人が住めるような状態ではない。いずれ村から人は去っていくころだろう。ただ、村の米蔵には城へ納める前の米があり、そのほとんどが水に浸かって駄目になったらしい。残った米は城へと上げ渡されるだろうが、それでも本来の年貢には届いていない。冬を越せない村人たちに住む場所も、行く当ても無いだろう。どの村も新たに住人を囲えるほど余裕がある訳ではないのだ。
いずれ女子供は女衒に売られていくことだろう。
予め山崩れの可能性を伝えていた為、州浜には怪しまれ、わざわざ話を聞くために呼びだされた。勿論件のことも予言のことも言える訳もなく、以前村を訪れた際に山が危うく思えたから、と当たり障りのない言葉で誤魔化した。
縁の予言通りに事は進み、縁の母であるえんを粗雑に扱った村は跡形もなく、両親もどうなったのか分からない。元凶の牛鬼とえんの眠るこの地は暫く無縁でいられる。
えんにとって良いか悪いか、思いに沿っているかいないか分からない。しかし、彼女を傷つけた者がえんと関わることはもうない。
全ては縁の予言通り。
予言が必中なのではなく、件が予言したことで現実となったのではないかとさえ、伊織には思えた。それほどまでに母親に代わって復讐は叶えられている。
ただこの疑問を赤子の縁に訊く訳にもいかず、翁たちにも尋ねられないまま、伊織は胸の内にそっとしまい込んだ。
お読みいただきありがとうございます。
今回で第七章が幕引きとなります。
次回は余談をお送りいたします。
ここ数日仕事を持ち帰り残業し、なかなか創作に時間を割くことも、本屋に行くこともできず、ストレスでどうにかなってしまいそうです。
月に一度、本屋で漫画の新刊を買い漁るのが適度な息抜きになっているのかもしれません。
締めまであと少し。
頑張ろうと思います。




