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酸素化、改善せず(A大学病院・血液内科 無雑医師の記録)

急性前骨髄球性白血病(APL)——血液内科医なら一度は名前を耳にしたことがある病気です。


かつては予後不良の代表格でしたが、今や治療法の進歩によって、多くの患者が治癒可能な白血病となりました。


しかし、この病気の怖いところは、治療開始前の播種性血管内凝固による出血傾向(脳出血など)と治療中に突然発症する「分化症候群」。これに当たると、あっという間に呼吸不全に陥ります。



その日も病棟は比較的落ち着いた雰囲気で、夕方の回診が終わろうとしていました。


しかし、ナースステーションに緊急コールが鳴り響きます。


「○○号室、SpO₂が急低下!88%です!」


患者はAPL治療中の50代男性。つい先ほどまでベッドでテレビを見て笑っていたはずなのに、急に息苦しさを訴え、顔色が蒼白になっています。


「これは分化症候群だな…」無雑医師はすぐに判断。ステロイドの投与を指示し、酸素投与で酸素化の改善を試みます。


「Y先生、酸素お願いします!」

Y先生は研修医2年目。


真面目で優しい性格なのですが、どこか抜けていて「ほっこり系天然研修医」というあだ名が付いています。


病室に入ったY先生は、迷いなく酸素マスクを患者の顔に装着し、流量計をクルッと回して5 L/minにセット。

「はい、酸素入りました!」と爽やかな笑顔。


——しかし、SpO₂はまったく上がらないどころか、じわじわと低下し始めました。


「おかしいな…」とY先生は患者の胸に聴診器を当てていますが、無雑医師はふと酸素マスクのチューブに目をやります。


……酸素配管に、チューブが刺さっていない。


壁の酸素アウトレットはぽっかり口を開けたまま、チューブはベッド脇で寂しく垂れ下がっています。


つまり、患者の口元にあるのは酸素マスク型の「ただのマスク」。


「Y先生……チューブ、刺さってないよ」

「えっ……ええええっ!?」

「根本から確認しようね、根本から」


慌ててチューブを酸素配管にカチッと接続すると、シューッという頼もしい音とともに酸素が流れ始めます。


数分後、患者のSpO₂は無事に回復。

「いやー、息が楽になったよ」と患者さんも笑顔に。

Y先生は顔を真っ赤にして謝罪。


この事件以来、彼は酸素投与の際に「まずチューブを繋ぐ」という当たり前すぎる基本動作を絶対に忘れなくなったそうです。


無雑医師はその後、若手医師の勉強会でこの話を教材にしました。


「どんな高度医療も、根本が抜けてたら効果ゼロだぞ」と。


そしてY先生は、後輩にこの事件を語るとき、必ずこう締めくくるそうです。

「酸素は、まず根本からだ。」


本当は友人の結婚式に参加している時に電話があって、酸素化が改善しないと言われて帰院していたところ、途中で「酸素のチューブがつながっていませんでした」と言われ、「アホか」と言いました。実際に大ごとにならなくてよかったのですが・・・。

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