表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/70

引く研修医(A大学病院・血液内科 無雑医師の記録)

研修医時代の無雑医師には、ある種の“異名”があった。


それは——「引く研修医」。


もちろん、パチンコで大当たりを連発するような意味ではない。


病棟内での“引きの強さ”、すなわち病棟急変、特に心停止アレストを引き寄せるという、不名誉かつ縁起の悪い能力(?)を指していた。



月に1〜2回の研修医当直。

普通なら数回に1度、運が悪ければ心停止に出くわす……くらいのものだろう。


ところが無雑医師の場合、7割の確率でその夜にアレストが発生する。

しかも、同じ科の患者だけでなく、外科・整形・精神科……病棟をまたいで、あらゆる場所で起こるのだ。


「あの先生が当直だと、なんか起きる」

「何か呼んでるんじゃない?」

「背中に霊でも乗ってるんじゃ……」


中には、ガチの霊感持ち看護師に「後ろ、重くないですか?」と聞かれたこともあった。



そんな異様なジンクスを背負ったまま、研修医として最後の当直を迎えた。


“引く”のは今日で終わりにしてほしい——そう願いながら、病棟巡回に出る。


ある病棟に差しかかると、ナースステーションから声が飛んできた。


「あ、無雑先生が当直だ。……今日も、きっとどこかでアレストありますね」


笑いながらも、妙に確信めいた口調の看護師。

「いやいや、そんなこと……」と笑い返したが、心の奥では“やめてフラグ立てないで”と全力で祈った。




それから20分後——。


さっきの病棟から緊急コールが鳴り響く。


駆けつけると、さっきまで普通に話していた患者さんがベッド上で倒れていた。

心肺停止。



瞬間、体が反射的に動いた。

ICLSインストラクターとして叩き込まれた蘇生の流れが、脳より先に手を動かす。



「気道確保!」

「胸骨圧迫開始!」

「アドレナリン1mg静注!」


もう一人の研修医が心マを続け、もう一人が薬剤を準備する。

蘇生のリズムと声掛けが病室に響く。

数分後——脈拍再開。


胸の奥で、ほっと息が漏れた。



CTや内視鏡で精査を進めた結果、片側の気管支が肺癌で完全閉塞していたことがわかった。

突然の換気不全による心停止。

迅速な蘇生と気道管理が間に合ったのは、まさに紙一重だった。


その後、この患者さんは手術を受け、社会復帰まで果たした。

命を救った充実感と、たまたまそこに居合わせた偶然の重さが、胸の中で交錯する。



……しかし。


この出来事を境に、病棟内での無雑医師の異名はさらに広まった。


「ほら、やっぱり引くじゃないですか」

「最後の当直まで引くとか、もう才能」

「今後も遊びに来るだけでアレスト呼びそう」


結局、“引く研修医”の称号は、研修医終了と同時に終わることなく——語り継がれることになった。


本人としては、「いや、そんな称号いらないから」と思いつつ、


「あれはあの看護師のフラグが原因だ」と今でも信じている。


昔ほど、引きが強くなくなりました。はい。もうゆっくり過ごさせてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ