18.魔王を倒しに行こう-2
実力が拮抗していれば、最後に力になるのは信念だ。まあまあ、そこまで拮抗してたらどうなっても知らん。あとは運だ。運を招き寄せる、手繰り寄せるためのものが信念だ。
だからまあ、気楽に笑って旅立とうと、ガエルはカミーユに言った。
「その分だと、この後の動きも、聞いていないな?」
「あとで言やいいやくらいに思われたんでしょうな、南の賢者様に。顔見知りなのもあって」
「じゃあまあ、心構えのためにも伝えておこうか」
「今度は貴族と食事会とか、そういう」
カミーユの目から光が消える。そんなに嫌だったか。俺は美味いもんが食えるから、貴族との食事会文句ねえけどな。必死でマナー覚えたけど、カミーユにはそれがねえもんな。可哀想に。
「いや、明日には出立する。この辺りの地理は分かるか?」
「いいえ」
カミーユは首を横に振る。そりゃそうだ。冒険者になったのだって、基本的には村の近くのダンジョンの為だもんな。
「俺たちの世界は、こうなっていてな」
カミーユの隣にしゃがみこんで、ガエルは地面に指で世界地図を書く。あの、ドーナツみたいなやつだ。
ここがエマールで、こっちに魔王がいて、とガエルはカミーユに説明している。
俺たちはこれからエマールの城を出発して、オベールを経由しアベラールに向かう。オベールの城と、アベラールの城には拠らない。多くの冒険者が討伐隊に名乗りを上げてくれて、そいつらは先行でアベラールに向かっている。
冒険者連中の、道中の路銀は、それぞれの国が出してくれている。相手は魔王。大盤振る舞いだ。路銀だけ受け取って、実際には参加しない奴もいるだろ。それは別にいい。こっちに残って、こっちで通常通り戦う奴だって必要だからだ。だからこその、アベラールの王子様を旗頭にした一団なのだ。
聖女様と勇者様を空飛ぶ馬車に押し込んで、俺と南の賢者様、王子様に修道女のアデライド、エマール騎士団長のガエル。それから他にも数名で、空の旅だ。目指すはアベラールの港町、ボビリエ。王子様が発注しておいた、大型の船がある場所だ。そこにつくまでの間に、勇者様は聖女様から勇者様の力の使い方を学んでおいてくれ。
「よう! バティストじゃねえか!」
「お!」
港町ボビリエは、物凄い喧騒だった。世界中の冒険者が、それも腕に覚えのある冒険者が集っているのだから、そりゃそうだ。そこで、見たことのある顔を見つけた。
勇者様に会いに行く途中の、ゴブリンダンジョンのある街の、冒険者の一団だ。たった一度会っただけの俺を、彼らは覚えていてくれた。シャルルにクリストフ、ダニエルにバルバラ、カリーヌ。
「雑魚散らしなら任せといてくれや」
「魔王なんておっかないから戦えないけど、まあそっちは勇者様にお任せしてだな」
「魔王様までの道のり、切り拓いとくぜえ!」
「ああ、よろしく頼む」
どこもかしこも酒場みたいなことになってる。そうじゃない店も何なら通りにイスとテーブルを出して、宴みたいだ。どこから金出てるんだ。この町の領主か。
カミーユは連中にも聞いた。怖くはないのかと。あいつらはきっと、怖いって返すんだろう。怖いから、酒を飲む、皆で騒ぐ。けれどきっと、ガエルみたいに、もっと怖いものがある、守れなかったことを考えるとそっちのが怖いとかだから、ああして笑うんだろう。
いや俺は本当に怖くない。何故なら前回俺があいつを、魔王を殺したからだ。だから俺はあいつに勝てるという自信がある。いける。ただ問題は勇者様がとどめを刺さなきゃいけなかったから、ここにいる。それだけだ。
船は冒険者を乗せ、魔王の封印された島を目指す。空を、魔王が吐き出す瘴気におおわれた島についたら、少しずつ、船は冒険者を吐き出していった。
「なんでいっぺんに、行かないの?」
「そりゃあ、良くねえからですよ」
斥候のダニエルが、カミーユの疑問に答えた。
「冒険者ってのは、基本的に徒党が組めねえんですよ。騎士様たちみたいに、統率を取るのに向いてねえ。だから、慣れ親しんだグループごとに、下ろすので間違ってねえんです」
問題は、カミーユには分からないだろうが、彼らはある程度以上の実力者、ということだ。冒険者同士で戦われたら困る。だから同士討ちにならないように、時間差をつけているのだ。一グループが出たら、次のグループが下船して、集まったところで出発、という程度の、緩い時間差だけどな。
「みんな、引き際を知ってます。だからやべえのには当たらねえ。そんなの見かけたら拠点作って増援を待ちますよ。生きて帰って大騒ぎしてえから、みんなここに来てるんだから」
俺たちの下船は最後だ。
冒険者連中が血を流して作ってくれた道を歩いていく。まあ、冒険者ってのは大体修道士とか修道女とかが仲間にいるから、死ぬようなことにはなってないだろう。そんな奴は今回参加してねえだろうし。それに聖女様がいらっしゃるから、仲間が治せなくても、今回はどうにかなる、って楽天的な奴が多いのも事実だ。正直俺もそう思っている。
空は、どこまでも真っ暗だ。冒険者連中が切り拓いた道のあちこちに拠点が出来ていて、そこには修道女や修道士たちが灯した聖なる光が吊るされている。強い魔物になればなるほどこいつを嫌うとかで、拠点では休憩している連中がいた。
俺たちはそいつらに軽く手を振って、先へと進む。それを繰り返す。
とりあえず今のところ、死者はいない。いい調子だ。




