18.魔王を倒しに行こう-1
エマール国のウジェ川沿い、オーリクの村から、同エマール国のブラシュ川沿いにある城へと、約一日かけて到着する。最後の休憩の時に、南の賢者様には鳥を送っておいたから、城の中庭で待ってくれていた。
「勇者様連れてきたぜ」
放心している勇者様をベランジュのジジイに渡して、俺は伸びをする。分かった。分かったから早く厩へ連れていけと俺を鼻づらでつつくな。せめて口で言え、お前喋れるんだから。
昨日今日と往復してくれた天馬のセレストを厩に連れていって、飯の準備をして、それからブラシもかけてやる。厩番に全部お任せしてもいいんだが、自分の馬の世話は自分でするべきだと騎士団で習ってしまったので、まあある程度はやる。ある程度だけどな。どう考えても厩番の方がうまいんだし。
「じゃあな」
一通りの作業を終えて、俺は王子様の部屋へと向かう。出来ればその前に風呂に入りたいが、そうも言ってられないから、王子様の部屋へと向かう。風呂入ってきていいよ、みたいな連絡もなかったからな。
王子様の部屋には、聖女様がいらしていた。聖女様と勇者様はソファに向かい合って座り、何かお話をされている様子だ。
「バティスト……俺やっぱり、勇者だって」
「だから、そうだって言ってんだろうが」
ちっとは俺の言うことを信じろよ。
聖女様が、目を丸くして俺を見ている。確かに、聖女様の前でこの言葉遣いはしていなかったかもしれない。ジジイが盛大に咳をした。悪い。
ソファに座る、勇者様の前に立って見下ろす。顔色が悪い。昨日ほとんど眠れてなかっただろうに、今日は一日天馬の上だ。さらに勇者だと確定したから、血の気も引いてるんだろう。知ったことか。
「覚悟を決めろ、勇者様。まず明日は、王様に会うところからだ」
そうだよな、と、ジジイの方を振り返ったら、頷いた。頑張れ、勇者様。
「は」
「頑張れ、勇者様」
ポン、とその頭を叩いてやる。
俺は王様にお会いするようなことはない。単なる戦士だからな。王子様の斜め後ろですました顔をしてるだけだし、立場上他国の王様に会うことは出来ない。いや自国の王様になら何度も会っているしあちらさんも俺の事をよくご存じだとは思うが、特に会話はない。必要ない。俺は、王子様の、護衛だからな。
俺はなにも手伝ってはやれないが、頑張れよ、勇者様。応援だけはしてやる。
そうして翌日の、昼過ぎ。俺は城の訓練場で、俺と同じくらい体格のいい男と一緒に、しゃがみこむ勇者様を見下ろしていた。
「いやあ、うちの陛下が申し訳ない。話好きいな上に、くどい話し方だからねえ」
悪気はないし、いい人だし、仕事も出来るんだけどねえ。話好きでねえ。と笑う大男は、エマールの騎士団長ガエル。俺はサイクロプスの棍棒を横に置いているし、ガエルはその体がすっぽりと隠れるような大盾を地面に刺しててめえに立てかけているから、これ遠くから見たら俺たちが勇者様いじめてないか?
まあ実際は、王様とのご昼食会を終わらせた勇者様が、汗をかいている俺を見つけて涙目ですっ飛んできたんだけどな。困惑している、勇者様の道案内をされていた城の人間は、ガエルが手を振って下がらせた。
「まあ、いきなり村人が王様と飯食ってご歓談くださいって言われてもなあ、無理だよなあ。お前ちゃんと教わった呪文唱えたか?」
「呪文?」
「ウジュ川沿いの村出身なので、マナー出来なくても許して下さいって奴」
「ああ、陛下その辺りお気になされない方だから、大丈夫だと思うよ」
「なんか、手づかみだった」
しゃがみこんだカミーユが、ぽつりと呟く。そうか、飯が美味かったかどうかも分からなかったか。可哀想にな。この城も飯はうまいぞ。
「それで、何してたの」
「手合わせ」
落ち着いたのか、カミーユが顔を上げる。俺は自分の棍棒と、それからガエルの盾を指し示す。こいつで、あれを殴ってた。
「いやあ、バティスト殿はいい! 久しぶりに足が地面にめり込みました!」
「ガエルなら安心して、王子様を託せる」
実は俺は、ガエルを知っている。ガエルは俺を思い出していないが。前の戦いでもいつも参戦してくれて、王子様方を守ってくれた。とても信頼できる盾の戦士だ。その分攻撃力はねえんだがそんなもんはいらねえよ。俺がその分、ダメージを叩きだせばいい。
勇者様はぽかんとしている。そうなるよな。
「怖くはないんですか?」
「怖いですよ」
カミーユの問いかけに、ガエルはさらりと答える。何が怖いのかと問わなくても、あれだけで分かる通り、ガエルは頭がいい。まあそうじゃなきゃ騎士団長なんてやれないわけだが。そもそも騎士団長が参戦するなって話なんだが。
でもまあ、全滅か生き延びるかの二択だから、エマール国としても最大戦力出すよな。
「ですが自分は騎士です。騎士の家系に生まれ、この日のために武技を磨いてまいりました。必ずや聖女様方を守ってご覧に入れます」
「バティスト」
「だから俺は負けねえし死なねえから怖くねえの。つかな」
「バティスト殿のそれも、大事ですな」
そっと、ガエルが俺の前に手を差し込む。どうやら、俺の代わりにカミーユに話してくれるらしい。お任せする。俺上手く話せる気しねえもの。というか話せてたら、カミーユはもう納得してるか。
「騎士の本分は護ることです。主を、人々を、国を、世界を。その方法はいくつもある。アベラールの王子様のように、こうして討伐隊を組織して魔王を討ち取る旗頭になるのもそうだ。その王子様は、私が盾となり護りきってご覧に入れましょう。
さすれば、バティスト殿はその力を存分に振るえる。後顧の憂いがない、というのは、そういうことです。
戦闘の総指揮は南の賢者様が取られるという。であるならば私は何も考えず、この盾ですべての魔王の攻撃をいなして見せましょう。それが出来なかったらと考えると足が震えますが、それは、考えても仕方のないこと」
ガエルは、穏やかな笑みを保っている。国の騎士の頭。騎士団長。今この辺りは戦争を行っていないから、ガエルは将軍ではない。なんかよくわからねえんだけど、そういう区分らしい。
「出来ないかもしれない。それは怖い事です。だからこそ、私達はこう口にする。
してみせる、と。護ってみせる、倒してみせる、やり遂げてみせる!」
少しずつ、言葉が熱を帯びてくる。ゆっくりとした口調も、早くなる。
「して、みせる」
「そうです。誰でもない、自分が、自分自身が。自分を信じるのです」
そうすれば、出来ることが増える。
ガエルも好きですが、エマール国の王様も割と好きです。
どんな人なんだろうな。




