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其の十

「何処へ行った?」

 男達が辺りを見回す。それらしき影は無い。


――がさ。

草陰から人影が現れる。


「・・・居たぞ」

男の一人が言う。その先に居たのは、巫女只一人だった。


くすりと巫女が笑う。


――一体自分は如何してしまったのだろう。以前の自分ならば真っ先に一人で逃げていた筈だ。他人を逃がすために自らが囮となる事などしなかった筈だ。否、そもそもこんな事には関わらなかったし、こうなったとしても相手に金でも要求して人形を渡していただろう。それが今は・・・・。


「不幸になる、か」

それは、かつての自分から見ればそうだろう。でも今は・・・そんな事すら如何でも良い。

 全ては人の枠、(かつ)ての自分の視界の外なのだ。


――けれど、最期くらい。


「何処へ隠した」

男が問う。

「言うと思う?」

巫女が答える。


男が巫女の頬目掛けて錫杖を振る。

巫女は避けなかった。


「・・・痛いわねぇ」

 口の端から血が流れる。

言え、と男が詰め寄る。

ふふっ、と巫女が嗤う。

再び錫杖が巫女の顔へと振られる。しかし、それは其処へ届く前に巫女の手によって止められた。

そう言えば、と錫杖を握り締めたまま巫女が口を開く。

「あんた達、化け物を退治してるのよねぇ?妾の正体教えてあげましょうか」

「・・・何だと?」

「妾はね――」

――絡新婦なのよ!

 巫女が怒鳴る。

「男が妾の前を只で通れると思わな――」

 言葉は遮られた。

「――っ!」

 激痛が走る。一体何が起こったのか。能く、判らない。

巫女がゆっくりと視線を落とす。その先に見えたのは・・・錫杖に隠された刀で自分の喉元を刺している一つ眼だった。

一つ眼がそれを巫女から引き抜く。ずるりと鈍い様な音がする。傷口から、そして口中に血が溢れる。

 ごほっ、と巫女が血を吐き、膝を落とす。

「あ、がっ――」

 必死で喉を押えるが血は止まらない。

「如何した。何か言ってみろ。人でないならこの程度、如何と言う事もないだろう」

言葉は出ない。それが判っていて黒い一つ眼はにやにやと哂う。しかし、その哂いは眼の前で這い蹲る女によって止められた。

突然女が自分の足元に掴みかかった。

 巫女は歯を喰い縛り、男に抱きつく。男の耳元に口を近付ける。そして、もう出ない声で言った。

「あ、たし、は、じょ・・・ろ、ぐ、も・・・」

 ひゅうひゅうと傷口から息が漏れている。

男は舌打ちして、おいともう一人に頸を振る。


――。


「何が絡新婦だ。所詮只の人ではないか」

 言い乍ら眼の前に横たわるそれ(・・)を足蹴にする。

 そしてそれを跨ごうとした時。

 背後に、冷たい気配がした。

近付いて来る。

 二人は思わず振り返る。

 其処に居たのは――。

 

『お前等・・・赦さんで』

 

とても、低い声だった。


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