望むものは…(沢村葵)。
14才の時で階段から落ちて頭をぶつけた時に、長岡美鈴と言うもう一人の私の存在を思い出した。
美鈴はごく一般的な家庭に生まれた女の子だった。女子高に通っていて彼氏もいて両親に愛されて弟は生意気だけど私の作るお菓子が大好きで……、あぁ、私(美鈴)は死んだんだぁ。
今は沢村葵と言う14才の女の子。沢村建設って謂う会社のお嬢様。結構大きな会社らしい。両親は忙しくてあまり会えない。でも、優しい人達。
だって、私が怪我をしたって聞いたらしく二人供すぐに駆けつけてくれた。ママは、暫くお仕事をお休みするって言ってくれたから。
ママはお医者さん。ママのお父さんの病院で小児科医をしてるの。結婚前から働いていたんだって。友達のお見舞いに来たパパが階段から落ちてママのお世話になったらしいの。
お見舞いに行ったのにお医者さんにお世話になったって今でもママは幸せそうに笑うの。
パパの一目惚れ。働いているママが大好きなんだって。私にも好きな事をして良いって何時も言ってくれる。
だからいつか私もそんな恋がしてみたいって思ってた。そうしたら、高校の入学式の時に鷹斗先輩に会ったの。
どこか寂しそうに桜の木を眺めてた。その姿がとても印象的で心に残った。今にも消えてしまいそうだったから。だから思わず綺麗ですねって声を掛けてたんだ。
驚いた顔をして辛そうに笑ってくれたんだ。そんな顔をして欲しくなくて色んな事を話しかけてた。
多分、一目惚れだったんだと思う。
辛そうな笑顔じゃなくて楽しそうに笑ってくれる様になって本当に嬉しかった。
頭を撫でてくれる事が、一緒にいる時間を作ってくれる事が幸せだった。
…側にいられるだけで良かったのに。それだけじゃ、満足出来なくなって。どんどん我儘になっていく自分を知られなくて、心から笑えなくなってた。
たって、鷹斗先輩は私の名前を呼んでくれない。
ただ、先輩も苦しそうに笑うだけ。
自惚れてもいいのかな。信じて見ても良いのかな。私と同じ気持ちでいてくれるって。
だから鷹斗先輩が初めて名前を呼んでくれた時、私と居る未来を選んでくれた時に一緒に乗り越えたいって思えた。
それがどれだけ傲慢で愚かな行為かも気付く事も出来ないままあの日を迎えてしまった。