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この孤独が、今は何よりも心地よい。


彼女はステアリングに添えた手に少しだけ力を込め、エンジンの鼓動を全身で感じながら、加速する朝の中へと沈み込んでいった。


午前十時。八百キロの旅路の終着点である集配センターへ、香は滑り込むように入っていった。


広大な敷地には、無数のプラットホームと、せわしなく動き回るフォークリフトの群れ。エンジンを切り、重いドアを開けると、アスファルトの熱気と排気ガスの匂いが鼻を突いた。


キャビンから飛び降りた香の姿に、荷受けを待っていた作業員たちの視線が、一瞬だけ止まる。


二十七歳。長い髪を後ろで無造作に束ね、作業着に身を包んだ若い女性が、大型のステアリングを握って現れるのは、この現場でもまだ珍しい光景だった。


「お疲れさん。随分遠くから来たんだな。眠くないか?」


伝票を受け取りに来たベテランの作業員が、物珍しそうに、けれど少しばかりの遠慮を滲ませながら声をかけてきた。


かつての香なら、その視線に身をすくませ、どんな顔をして返すべきか、反射的に脳内で「正解」を探していただろう。親しみやすさを出すべきか、それとも毅然としているべきか。


そんな逡巡が、いつも彼女を疲れさせていた。


けれど、今の香は違う。


彼女は口を開く代わりに、少しだけ顎を上げ、相手の目を見て小さく頷いた。そして、キャビンの窓越しに太陽の光を反射させるような、鋭くも静かな「目配せ」を送る。


——大丈夫だ、仕事は完璧にこなした。


その合図には、言葉以上の確信がこもっていた。

作業員は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに納得したように「……ああ、わかった。すぐ下ろすから、そこのバースに着けてくれ」と、短く指示を出した。


無駄な会話は必要ない。


愛想を振りまく代わりに、一発でバックを決める。ミリ単位で車体を寄せ、積み荷を最高の状態で届ける。その事実こそが、この場所での彼女の「言葉」だった。


香は再び運転席に乗り込み、手際よくギヤをバックに入れる。


サイドミラーに映る自分の瞳は、朝の光を湛えたまま、どこまでも澄んでいた。顔色をうかがう日々は、もう遥か後方の地平線に置いてきたのだ。


フォークリフトの鋭い走行音が止み、最後の一パレットが吸い込まれるように荷台へ収まった。香は重い観音扉を閉じ、力強くロックをかける。


事務所で手渡された新しい運行指示書。そこには次の目的地――彼女の自宅がある街から、さらに数百キロ先にある「目標集積所」の名称が印字されていた。


ペンを走らせる香の指先は、迷いがない。


日常の風景、住み慣れたアパート、そして自分を「誰か」として定義しようとする人々の視線。それらは今、この一枚の紙の向こう側、はるか彼方の霞の中に消えていく。


「完了。……行こう」


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