番外編 シャディの観察日記
皆さん、こんにちは。僕はシャディです。種族はワイバーン、ゼオ・ライジアです。職業はまだありません。
今日は僕の一日、そして周りの楽しい人たちについて紹介したいと思います。
まずは朝。
僕はいつもコノハと寝ているので、コノハと一緒に起きます。いつも外を見ると、日が昇りかけています。一日の始まりは早い、です。
コノハは、うーん、僕のお母さんのような人です。いつもニコニコ笑っている優しい女の子。
とてもご飯を作るのが上手で、ワイバーンの僕にも一生懸命に作ったものをくれます。ですが、たまにお薬を混ぜるのはやめて欲しいな。せっかくのおいしい料理が台無しだよ……。
今日の朝ご飯はバターパンと野菜ジュース、僕にはチキンサラダです。
「アリウスー、ご飯出来ましたー」
いつもはコノハの声で起きてきますが、今日は中々降りてきません。
なので、今日は僕が起こしに行ってきます。
アリウスはコノハと一緒に、小さい僕を助けてくれた恩人です。
ですがお父さんという感じはしません。どちらかとお兄ちゃんです。
二階の部屋を覗くと、アリウスがぐっすり寝ていました。
こうなると起こすのは難しいです。
なので、そんな時の秘策。
尻尾で顔面をはたきます。
「ブフッ!?」
起きました。
目がしぱしぱしているアリウスが階段を降りてくると、下ではコノハがほっぺを膨らましていました。
「アリウス、寝坊はダメですよ!」
「す、すまないな……」
「全くもう!」
手に腰を当てて、お説教が始まります。
まるでコノハ、アリウスのお嫁さんみたい。
お嫁さんみたい。
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ご飯を食べたら、お仕事の時間です。
今日はアリウスは薪割りと雑草抜きと新たな畑作り、コノハはお薬作りと収穫です。
そして僕はゴーレム君たちと一緒に畑のパトロールです。
ゴーレム君はとっても働き者で、僕よりも力持ちです。
そしてコノハにそっくり。真面目なところ、優しいところ、慌てん坊なところ、ハシリウオが大嫌いなところ……コノハが作ったからかな?
ん? あそこに何か見えたような……。
「嫌ァァァァァァァァァァ!! 来ないで、来ないでぇぇぇぇ!!」
この声はコノハの声だ!
僕は走る。こんなとき飛べたらいいのに。
駆けつけるとそこには、
「ヴォウ、ヴォウ」
「ひぃぃぃぃ……」
うずくまるコノハの周りに三匹のハシリウオ。じりじりと距離が縮まっている。狙いはおそらく、コノハが持つ籠の中身、新鮮な野菜。
全く、ハシリウオって懲りないなぁ。
僕が退治してやる。
地面を蹴りぬいて、渾身の飛び蹴り。それが一匹のハシリウオにクリーンヒット。
「ヴォウッ!?」
やった! 一匹目撃破!
もう二匹の方を睨みつけると、二本足で走って逃げていった。あちゃあ、アリウスには「一度狙った敵は簡単に逃がすな」って言われてたのに。
「どうしたコノハ? またハシリウオか……って本当にそうだし」
あ、アリウスだ。薪割りの最中だったのかな? 斧を肩に担いでいます。
剣より斧を持っている方が、僕はかっこいいと思う。
「シャディが助けてくれたのか?」
うん、そうだよ。
「よくやったな。……コノハ、もういないぞ」
「う、うぅ、ううぅぅ……」
「何で泣くんだよ。大袈裟だな」
「大袈裟って何ですか!? ハシリウオは本当に嫌なんですよ!!」
「そこまで鬼気迫る様子で言われても困る」
言いあう二人。まるで夫婦みたい。
夫婦みたい。
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無事にお仕事も終わり、夜ご飯も食べ終わりました。一日の終わりも近づいて来ました。あ、今日の夜ご飯はチキンソテー。
「じゃあ私、お風呂入ってきますね」
「おう、いってらっしゃい」
え、お風呂? 僕も一緒に入ろうかな。
「おい待て、お前はだめだ」
寸でのところで止められます。でも僕だって水浴びしたいしな……。どうしてだめなんだろ?
と思ってると、アリウスは困った顔をしました。
「シャディは雄だろ。いくらワイバーンでも年頃の女の子と入るのはダメだ。……年頃、うん年頃だ」
……理由になってない。
僕とアリウスとコノハと、みんな一緒にお風呂に入ればいいじゃないか!
アリウスの手を振り払い、僕は浴室に向かって走った。
「ちょっ、どこ行くんだシャディ!?」
伸ばされる手を躱し、ゴーレム君たちを飛び越し、僕は走った。
大丈夫! だってコノハはあんなにアリウスの事大好きなんだもの!
きっと一緒にお風呂に入ればもっと……!
僕は浴室のドアノブを勢いよく開いた。
「え、シャディ? どうし……」
「やっと捕まえた! 確かに風呂を覗きたい気持ちは分からないでもな……」
ぶつかる二人の視線。
真っ赤になっていくコノハの顔。
青ざめていくアリウスの顔。
「アリウス?」
「ち、違う。そんなつもり一切ない。俺はただシャディを……」
「言イ訳ハイラナイカラ、ドアヲ閉メナサイ?」
「はい」
言われるまま、アリウスはドアを閉めました。
向こう側からガサガサと音が聞こえ、やがてゆっくりとドアが開きました。
刹那、アリウスの首に手が!!
「ウグッ!?」
僕は見てしまいました。
タオルを体に巻いたコノハの目が、激情に染まっているのを。
ニヤリと三日月のような笑みが浮かんでいるのを。
「タ〜ップリ、訳ヲ聞キマショウカ。 ア、リ、ウ、ス?」
「待て、コノハ、俺は何も……」
ガチャリ、とドアが重く閉められました。
…………。
ね? 二人共仲良しでしょ?
こんな感じでたまに喧嘩しちゃうときもありますが。
お風呂上がりにアリウスに髪を梳いてもらっているコノハは、とても気持ちよさそうなんですよ。
だから今回も、すぐに仲直りしますよ。
「コノハ、頼む! もう許し……」
「ダメです!! そこで朝まで反省しなさい!!」
「勘弁してくれコノハァァァ!!」
きっと、多分。




