「大樹ちゃんが帰ってくる場所は、ここなんだから」
「……大樹ちゃん、たーいきちゃん!」
「……?」
名前を連呼され、やっと大樹は目覚めた。
童顔の少女が見える。リボンの付いたおさげ髪に、茶色いミンクのコート。
肩にはベージュ色のトートバックをかけている。
葵だ。じっとこちらを覗きこんでいる。
「……ここは……?」
少しして、頭が追いつく。JR名古屋駅の十四番線、新幹線のホームだ。
列車を待つ間に、大樹はベンチの上ですっかり寝ていたらしい。
「え……大蛇はどうなったの?
ぶっこわれた名古屋は?」
「何言ってるの?」
葵はきょとんとした顔で聞き返してくる。
……全部、夢?
「あ、寝ぼけてるー。
大樹ちゃん、こんなところで寝てたら風邪引いちゃうよ?」
「あ、うん。
……起こしてくれてありがと」
はいっと大樹のスポーツバックを手渡される。
「あんまりういろうの食べすぎはよくないからね?」
「大丈夫よ」
大樹はバックを受け取って答えた。
時刻表を見る。もうじき新幹線が来る。確認したところでアナウンスが流れた。
少しして列車がホームに入り、客を迎える準備を始める。
「体に気をつけてね。あと、連絡してね」
葵は心配そうに言った。
「親かお前は」
「だって……。
それから、たまには帰ってきてね?」
「気が向いたらな」
大樹はポニーテールを解きながら、新幹線に乗り込んだ。
「あ、それからな」
扉の前で、なにやら涙をこらえ始めた葵に向かって時刻表を突きつける。
「〝名古屋県〟のままになってるからな。
これちゃんと直しとけよ」
「あ」
ぷしゅー、がたん。
扉が閉まり、新幹線は発進を始める。
『一体何の騒動だったのやら』
アカリが、トートバックからひょっこり顔を出した。
案外気に入っているのか、小倉トーストたんの人形に憑依したままだ。
『結局、行ってしまうのですね。
よろしかったのですか?』
「うん……いいの」
葵はホームの階段を下り始めた。
「──今度こそ、自信を持って待っててあげられる。
大樹ちゃんが帰ってくる場所は、ここなんだから」
×××END




