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MICHI  作者: 104


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5/5

5.道は続くよどこまでも

 本当にびっくりだった。

 いくら私に突然の変化に対応する免疫が出来ていたとしても、キャパオーバーだった。

 私一人の世界だと思っていたこともそうだが、目の前におじいちゃんがいたのだ。おじいちゃんは私に話かけている。何か答えなきゃ・・・そう思っていても何も言葉が出てこない。おじいちゃんをよーく見ると私の知っているおじいちゃんとはちょっと感じが違っていた。若いのだ。でも面影というのか若い頃はこんな感じだったんだろうなという顔をしていた。よーするにシワがなく髪の毛も黒くってふさふさしていたのだ。おじいちゃんだということだけは分かったというくらいだ。

孫の私が分からないでどうするなんて思ってしまう私もいる。頭の中では冷静なつもりだが、おじいちゃんがいくら話しかけても返事をしない、正確には言葉を失っていた私。でも優しく、根気よく話してくれるおじいちゃんがいた。      

 この広場の隅から隅まで、何がどこにあるのかなどを説明してくれていたのだ。

「ここで暮らすのはさほど難しいものじゃない。あなたも感づいているんだろうが・・・」

 おじいちゃんはだからここへこれたという話を続けた。

「あなたが欲しいと思ったものが手にはいる世界なんだよ・・・」

 笑いながら話してくれるおじいちゃんを私はただ見つめることしか出来なかった。しばらく広場を見て回った。おじいちゃんがあいさつするとテレビを見ている人は、振り返り笑顔であいさつを返す。歌を唄っていた人は、歌を唄いながら会釈した。時間が経つと、この状況にも慣れてくるのが私のいい所?なのかもしれない。例によってお腹がすいてきたのだ。おじいちゃんと出会ってから私が始めて口に出した言葉は、「お腹すいた」だった。

 おじいちゃんはオムライスを作ってくれた。私は作る工程をじっと見ていた。手際よく玉ねぎをみじん切りにする。とっても細かくだ。「どうしてそんなに細かく切るのか?」私は聞いてみたかったが、黙っていた。たぶん、私だってこと自分の孫だってことは分かっていないと思う。でもなぜかそれを伝える気はなかった。伝えないほうがいい、漠然とそう思っていた。

「はい、どうぞ。私はこれが一番得意なもんでな・・・」

 恥ずかしそうな顔をしてオムライスを持ってきたくれた。やっぱりおじいちゃんのオムライスだ。最後にケチャップをかけるとき私に名前を聞いてきた。私は戸惑ったが名前を教えると「いい名前だね」と一言。自分で付けたくせにと心で突っ込みを入れながらそれは胸にしまっておいた。それに食べることに夢中になっていた。私の食べる姿をとても嬉しそうに眺めているおじいちゃん。私は恥ずかしかったが、孫の成長を見てくれといわんばかりに見て見ぬふりをした。

「あなたの食べっぷりを見ていると作ったかいがある」

 食べっぷりというフレーズは気になったが、私もお腹が満たされ喜び、おじいちゃんも作り手として満足しているみたいだから問題はない。

 満腹になると何故だかここにいるおじいちゃんと打ち解けていた。普通に話すことも出来たのだ。私は、孫だということは伏せ、この世界のことを訪ねた。

「最初はうまくコントロールできなかっただけの話だよ」

 そう言われれば思い当たるふしはある。外に出たいと思ったから靴が出てきたのだ。あれは前からあったわけではなく現れたもので、時間は掛かったがベッドの下に後から現れたのだった。

「あのー、服は二つ出てきたんですけど・・・」その疑問をぶつけてみた。

「それは、頭の中の迷いが整理できなったんだろう」

 なるほど、そういうことだったのか。それで慣れてくるとだんだんと私の思い描くものが確実に現実になって現れたというわけらしい。んー、だけどそもそもこの世界はなんなの?という一番聞きたいことは聞けずにいた。

「あのーあなたはなんでこの世界に?」

「私がかね?」

 覚えてないらしい。いつの間にかこの場所へ来て、こんな生活をしているというのだ。

「あなたはどうやってこの世界に来たのかね?」

逆に私に訊ねてきた。私だってわからない。でもこの世界は心地よい場所だと話した。おじいちゃんもいるしとは言わなかったが、私はおじいちゃんと話せている今を満足していた。

 ここは自由だ。

 誰にも何にも気兼ねなく生活できる。

 でも、そんな想いを察したのか、おじいちゃんは悲しそうな顔をしながら私に言ったのだ。

「もしこの先に道があるんだったら行くべきだと私は思うんだが・・・」

「じゃーあなたはどうしてここに残っているんですか?」

 おじいちゃんは黙っていた。でも、とっても悲しそうだった。

「あなたはこの世界にいるべきじゃない!私はそれしか言えない」

 それからおじいちゃんは私に話しかけることはなかった。

 こんなに楽な世界にいるなというおじいちゃん。

 悲しそうな顔をしていたおじいちゃん。

 それだけが私の頭の中を駆け巡った。なんなんだろうこの感覚は・・・。

 この先に道はあるの?ゴールはあるの?私はこの世界にいてもいいの?この世界を離れなければいけないの?いくつものハテナが私を困らせた。もしおじいちゃんと会わなければ、きっとテレビを見たり、歌を唄ったり、楽器を弾いている人たちのように、私もこの広場で生活していたのだろうか?それだってわからない。すべては今から私が選択する道なのかもしれない。

現実の世界に私は未練がなかった。でもこの未練がないと言い切ってしまう私は問題なのだと思う。それはオムライスが教えてくれた。おじいちゃんが叶えられなかった夢が私にそういうのだった。

「オムライス作ってくれませんか?」

 私のお願いをおじいちゃんは心よく引き受けてくれた。しばらくたち、オムライスがやってきた。ちゃんと私の名がケチャップで書かれている。

「どうかね?今日のオムライスは」

「・・・・・・」

 私は言葉が思いつかなかった。おじいちゃんはニコニコ笑い、私を見ていた。ただ無言で食べる私を優しく包んでくれた。

「食べ終わったら、ここを出ていくんだね」

 私は頷いた。おじいちゃんも頷いていた。

「ご馳走様でした。ありがとう。」

 最後までおじいちゃんと言えなかった。言ったら決心が鈍るような気がした。おじいちゃんは何も言わずただ笑っていた。

 もう振り向かずこの広場を後にすることにした。


 道はあった。

 なぜだか今度は何本にも分かれていた

 それは私の迷いなのか?

 それともそれだけ人生には選択肢があるという意味なのか?

 とにかく進もう。

 ゴールなんてあるかわからない。

 でも進もう。

 きっと私が選んだ道の先に答えはあるはずだ。

 私は、いつもより確かな足取りで歩き始めていた。


                                          おわり

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