1話 愛の行方 1-1
周囲は火の海だった。
社は赤く燃え、 梁が軋みながら崩れ落ちる。
遠くで聞こえるのは、 悲鳴と怒号。
誰かが争っている。
その中心に、 一人の少女がいた。
白い着物を纏い、 胸元では琥珀の勾玉が、 炎を映して静かに揺れている。
静かに正座するその姿は、 まるで自らの終わりを 受け入れているようだった。
けれど、 小さく震える指先だけは、 心の揺れを隠せていない。
ふいに、 少女を優しい温もりが包む。
大きな手。
嗅ぎ慣れた匂い。
少女の強張っていた顔が、 ほんの少しだけ緩む。
雷鳴。
――現代
暗い部屋。
外では雷鳴が響いている。
その部屋の隅で、 一人の女性がへたり込んでいた。
腕の中には赤ん坊。
小さな寝息を立てながら、 母親の胸に抱かれている。
女性は、 赤子の背をゆっくり叩く。
その手つきは優しい。
けれど、 虚ろな瞳だけが、 どこか壊れかけていた。
「……ごめんね」
小さな声。
赤子は何も知らず、 安心したように眠っている。
再び、 雷鳴が響いた。
閃光。
その一瞬、 部屋の入口に立つ“人影”が照らされる。
「これは……極上の味がしそうだ」
人影は笑う。
細長い指先で、 黒い種を摘みながら。
女性は息を呑み、 赤子を強く抱き寄せた。
石段を駆け上がる音。
息が弾む。
「っ、はぁ……!」
青年は乱れた前髪をかき上げ、 最後の段を飛び越えた。
朝の神社。
鳥居を抜けた先、 巨大な二体の像が、 静かに町を見下ろしている。
白い着物の少女が、 境内に立っていた。
胸元では、 琥珀の勾玉が小さく揺れている。
「おはよ、澪ちゃん!」
少女は静かに振り返った。
「……おはよう、凪」
凪と呼ばれた青年は、 どこか弾んだ足取りで、 少女へ駆け寄っていく。
けれど、 澪は遠くを見ていた。
空の向こう。
重たい雲。
遠くで響く雷鳴。
「……また、雷」
そう呟いた澪の顔は、 ほんの少しだけ曇っていた。
初投稿です。
至らぬ点もあると思いますが、読んでいただけると嬉しいです。
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