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いつでもどこでも全力土下座


 ベシャベシャに濡れていた芽依は、すぐさまフェンネルによって乾かされた。

 そのまま抱き締めていたメディトークたちも濡れたので同じくフェンネルが乾かすと、芽依が動き出す。

 ゆっくりと座り込み手を揃えて地に添えてから頭を下げた。

 その動きは滑らかで芽依の髪が肩や背中から流れ落ちる様を3人が見ている。

 土下座だ。


「……メイちゃん? 」


「私は謝らないといけないことがあるのです」


「あの……ご主人様……」


「わたし……わたし……わたし!! 」


「……………………」


 何となく分かっているだろうメディトークが目を細める。


「わたし!! リリベルさんを噛みましたぁぁぁ!! ごめんなさいぃぃぃぃぃ!! 浮気じゃないですぅぅぅ!! チョコレートうんまっ!! とか思ってませんんん!! 」


「思ったんだ」


「思ったんだな」


「思ったのですね」


「ちょっと舐めたりしてません! 」


「舐めたんだ」


「舐めんなよ」


「私は噛まないですのに……」


 呆れた様子で芽依を見るメディトークとフェンネルに悲しそうにするハストゥーレ。

 ハストゥーレの場合は噛まれる方が芽依だからなのだがら、それがハストゥーレにはやっぱり悲しい。


「……で? 」


「好きなのはメディさん達だけです! あっ……待って……蹴らないで……ごめんなさい……」


 つま先で優しくこずいてくるメディトークに身を捩る芽依。構って貰えてちょっと嬉しそう。

 一緒になって指先でつつくフェンネル。

 わざと冷たくした指先で首を触るフェンネルに芽依がヒィヒィと身を捩る。

 なんとも言えない笑みを浮かべてつつくフェンネルとつま先で小突くメディトークに喜んでいると、リリベルが来た。

 ハストゥーレがメディトークの服を引っ張ると、ああ……と静かな声が返ってくる。


「メディトーク……あー……なにしてんだい? 」


「お仕置だ。お前を噛んだ」


「…………たしかに噛まれたねぇ」


 転がされている芽依を見るリリベル。

 ちょっと嬉しそうにエヘエヘと笑っている芽依に苦笑したリリベルはメディトークを見た。


「悪かったね、しっかり守ってやるはずだったんだけど、どうも他の移民の民が邪魔をしてきて……どうにもあの子を助ける前に小さな抵抗があったんだよ。あの場所だからか、誰かが妨害したかは分からないけどね。まあ、あの二人のどちらかなら流石にもう大丈夫じゃないかい? 」


 チラッと見る翔真とリューク。

 一気に機嫌を損ねたメディトークが目を細める。


「ただでさえ、ディメンティールが現れてみんなあの子に注目してるんだよ。声を掛けたくても今はあんた達がいるから近寄って来ないけど、隙を見てガンガン来るようになるよ。どうするつもりだい? 」


「んなの決まってんだろ。まず1ヶ月は出さねぇ」


「……本当に監禁するつもりなのかい? 」


「当たり前だろ。まずはあいつの意識をこっちに戻す。くそ、余計な知り合いが現れやがって」


「…………まあ、心配性だからわかるけれどねぇ、そんな心配いらないんじゃないかい? 」


 シュミットも合流して、シュミットにも謝る芽依にまた苦笑するリリベル。


「あんた達からしたら不服だろうけど、私は今回あの子と交流出来て良かったよ。あんな子がいるんだねぇ」


「……気に入るなよ」


「お前さんも無茶言うね、あれは関われば関わるほど相手を魅了するよ」


 触れ合ったことが無い人達でさえ、画面に映る芽依を見続けた3日間で、少なからず興味関心を持っている人がいる。


「どっちにしても、アイツが他に目移りするような囲い方を俺たちはしねぇよ。他のヤツを見る余裕が無いくらい俺らでいっぱいにすりゃいいだけだ」


「まあ、私たち人外者の本質さね。特に移民の民に対しての。それを受け入れて同じだけの熱量があるあの子……あんた達は幸せ者かもしれないねぇ」


「そりゃそうだろ。アイツを手に入れた瞬間に世界は変わったからな」


 ニッと笑ってリリベルの肩を叩いたメディトークは、3日間助かったとだけ言って芽依の元に帰って行った。



「で、何してんだよ」


「シュミットさんが愛おしい……愛おしい……」


 腰に腕を回して抱き着く芽依。

 何がどうしてそうなった? と見るがシュミットもフェンネルもハストゥーレも分からないと首を横に振る。

 シュミットは沢山の視線を集めていてなんとも言えない顔をしている。

 そんなほんわかし始めた芽依達に、周りはジリ……と近付こうと動き出した時、メディトークは芽依の顎に指先をあてる。

 クイッ……と上げて顔を見るメディトークが意地悪い顔をして笑った。


「帰ったら逃がさねぇ。部屋から出さねぇからな、1ヶ月」


「おっと……夏休みかな? 」


「……なんで喜んでんだよ」


 デコピンしてから手を離したメディトークは、周りを威嚇してから帰るぞ、と声を掛けた。

 ビクリと身体を揺らすサーカスの客たちの怯む姿を見たまま全員で庭へと戻る為に姿を消したのだった。



 

 こうして、長かったサーカスの3日間が終了した。

 様々な感情が生まれ、そして渦巻いていく。

 それは今後も変わらず芽依や家族、そして周りを振り回していくのだ。

 だが、それこそがこの異世界での生活だし、醍醐味でもある。

 まだまだ沢山の問題や事件が今後も訪れ、それは長い年月続くのだ。

 それでも、芽依や家族たちは幸せそうに過ごすのは決められた未来だろう。


「みんな、大好き。愛してる!」


 その気持ちはいつまでたっても枯れ果てたりしない。


 

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