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箱庭と執着


「………………箱庭みたいだね」


 それは、ポツリとこぼされた芽依の一言。

 芽依を気にしながらも話を続けていた全員が芽依を見た。

 寄りかかり、目を閉じてぐったりとする芽依は急に肩を掴まれ驚いて目を開ける。


「メイ! 箱庭とは庭で使うあれか!! ああぁぁあ! 豊穣! こんな所でも繋がっていたなんて!! じゃああの水槽と水の底は魔術と魔術具で繋がっていて今まさに私達は水槽に閉じ込められている!! 」


「こ……れは、まずいかも……箱庭の住人になってるなら、本当に大事なのは浮上でも浄化でもない、豊穣だよ! 箱庭1つで全部をコントロール出来る……キーワードは豊穣そのものなんだ……」


 愕然と芽依を見るアーシェ。

 だけれど、それを触れるのは水槽の持ち主しかいない。

 なら、持ち主はサーカスだろう。

 そのサーカスの目的が街の浮上で沈んだ団員の救出。

 なら箱庭を操作していくらでもやればいい。

 だが、それは出来ない。


「…………豊穣の祝福がないんだ、サーカスの人達には。あっても力が足りない。だから外部からその要素を補った。水槽……水の中は長年の蓄積により濁り浄化も必要。水槽が上手くいかない憤りと、転移者の沈められた魂の無念の気持ちは登る事しか頭にない。だから浮上が必要……って所か」


「……でも……中から箱庭は触れない……よ? 水槽もないし……」


「だから、外部にいるだろう……豊穣を司どるやつが。ひとりで無理なら2人、3人」


「………………メディさん……ハス君」


 芽依よりも劣るが加勢の幻獣がいる。それも王だ。

 メディトークと森と収穫のハストゥーレがいれば外部からの補助は十分だろう。

 なによりディメンティールの力を受け継ぐ芽依が中から一気に豊穣の力を使えば土地は生き返り浄化され、それがキーワードなら水槽は浄化されるはずだ。

 水槽自体が汚染されているだろうから、中から浄化と豊穣を同時にしないといけない。

 実際は浄化。だが、浄化だけじゃまたいずれ呪いが満ちる。

 

 だから、豊穣だ。


 豊穣で大地を生まれ変わらせ呪いが留まらない土地を作る。

 そして全ての浄化が終わり……浮上して脱出となる。

 この為に、メディトーク達会場の客は逐一芽依達の様子を見せられていたのだ。

 開催者のサーカス団員達は、歓喜に笑みを浮かべていた。やっと、やっと真実にたどり着き、それを実行出来るだけの力を持つ人たちが集まったと。



 バキィ……不可侵の結界にさらにヒビが入った。

 メディトークたちは、こんなくだらない事の為に芽依を巻き込んだと怒りで腸が煮えくり返る気持ちだった。

 膨れ上がる魔術にバキバキと音が鳴る。

 それを隣にいた翔真の伴侶が目を見開いて見ていた。

 女性の人外者だ。

 小さな見た目、頭に狐の耳がある。

 移民の民に強い感情をあまり乗せない幻獣たちだが、それも全員ではない。

 メディトークのように強い独占欲や支配欲を持つ幻獣もいる。

 翔真の伴侶もそのうちの1人だった。

 

 まん丸の目にふくふくとした可愛らしい頬。

 立ち上がってもメディトーク達の腰くらいしかないだろう身長。

 だが、目はギラギラと輝き翔真をじっと見ていた目は、今メディトークを見ている。


「…………ねぇ! この馬鹿げたのを終わらせてあたしも翔真を取り戻したいの。 私にも手伝わせて」


 黒髪サラサラの小さな少女。

 その子供は芽依とよく似ていた。

 似た顔立ちの、幻獣。

 それを見て、余計に煮えくり立つ気持ちが逆撫でされる。


「………………あぁ、早く終わらせてお前はあのショーマとかいう奴を連れてけ」


 シュミットの冷たい声に少女は歯を向いた。


「名前で呼ぶなっ!! あれはあたしのだ!! 」


「誰もいらねぇよ!……あの元カレとかいう奴……メイに似てる人外者だから選んだとかだったらぶち殺す 」


 ギリ……と怒りを抑えれないメディトークの力が溢れ、低位の人外者や耐性の低い人間がぐったりと体を倒し意識を飛ばした。





「どっちにしても、今すぐは無理だろうな」


 まだぐったりとヴィラルキスに寄りかかりリリベルに挟まれている芽依は目を開けるのがやっとだ。

 今日は1日しっかり休んで、明日人探しに浄化と豊穣。

 最悪出れるのを信じて人探しを飛ばして浄化と豊穣か……と話していると、リリベルが芽依を抱き上げた。


「ちょっ……なにして……」


「部屋で休ませる方がいいんじゃないかい? 予定では明日、またこの子を酷使する事にだるだろうし」


「あぁ、たしかに。寝かそうか」


 ミリーナも立ち上がり部屋に誘導するのを翔真は見つめていた。







「ん……」

 

 ふと芽依の意識が浮上した。

 いや、そうじゃない。夢を見ているのだ。

 重たい体はそのままに、芽依はゆっくりと体を起こすと周りは真っ暗闇だった。

 足元すら見えない場所で、真っ白な服を着た芽依が呆然と周りを見る。


「…………ここは」


「あらあらあら。また会ったねぇ」


 しゃがれた、でも優しい声が芽依の耳に届く。

 振り返ると腰を曲げてゆっくりと歩くおばあちゃんがいた。

 手には野菜が詰まっている重たいシルバーカー。

 以前、芽依からしたら3年前の運命の日に踏切で会ったおばあちゃん。

 

「………………なんで」


「うふふ。もうね、最後なの。きっと明日には私の命の火が燃え尽きちゃうのよ。長い長い……人生だったわ。とても充実した毎日を送ったのよ。私の周りはいつも笑顔が溢れていてね、ふわりと飛び回る妖精がやっぱり私は大好きで……貴方は誰が好き? 」


「………………私は精霊も妖精も幻獣も好きですよ」


「まぁ!素敵!! それはみぃんな幸せね! 貴方はね、好かれると思ったの。幸せな生活をね、出来るって思ったの」


 相変わらず乙女のように微笑んで言う。

 当時、あのシルバーカーを押してあげた一瞬の会合が芽依のその後の人生を全て変えたと、今でもまだ理解していない。

 あの時は、失礼にも認知症かな? とすら思った。

 だが、違うのだ。 彼女はこの世界を知っている。


「…………あなたは、だれ? 」


「……ふふ。知っているでしょ?ねぇ。私は貴方で貴方は私よ? 」


「……まさか……まさかあなた……」


 ゆっくりと体を左右に揺らしながらバランスを取り歩く。

 その姿は今にも消えそうな程に儚い。


「私はね、伴侶を見つけたの。どうしても添い遂げたかった。でもね? なんど声を掛けても頷いてくれなくて。だから、しかたないから私が行ったわ。この世界が大変になるって分かっているけれど、1生に1度の恋を諦められなかったの……何に変えても、この世界の人が不幸になっても。諦められなかった」


 胸に手を当てて目を瞑り、幸せそうに言った。

 普通の人間だったら、ふざけるなって叫ぶかもしれない。

 彼女が世界から居なくなって全てが変わった。

 住みにくく、人が生きるのすら大変な時を過ごした人は沢山いる。

 それでも、自分の欲求に忠実で、例え周りが不幸になろうとも人外者らしくそれを選んだディメンティールを、人外者の力と感覚を受け継いだ芽依は批判が出来ない。

 

「…………もう私の命よりも大切な人はいないから、こちらに帰る術はあったわ。でも、あの人が眠る地に一緒に眠りたいの。幸せな人生だったと、先に逝ったあの人を追い掛けたい」


「…………だから、私ですか? 」


「……ええ。貴方に力を……命を流し込んでいたわ。貴方は大切な家族を見つけて、私の力を受け取った。もう、本体の私は意識がないの。だから、ね? 明日私はあの人の元に行くわ……ありがとう。あの日あなたに逢えて私は幸せよ……最後に明日、会いましょうね」


 ふわりと消えた3年前よりシワが増えていた老婆は、それはそれは幸せそうに微笑み消えた。




 

「………………ディメンティール様……いなくなって、しまうのですね」


 目を開けた。空が白みだし、それをカーテン越しに感じる。

 流れる涙は枕を濡らしたが、悲しみはない。

 きっとどこかで理解していたから。




 


 

 

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