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憶測


「で、なんであの時あんな危ない事したんだよ」


 前屈みになって翔真が芽依に聞いてきた。

 少し冷めた紅茶を飲んでいた時だったから、目線だけを翔真に向ける。


「……梅の話? 」

 

「そうだよ!! 」

 

「確かめたい事があって」


 指先でブレスレットを触ってから梅を出した。

 1袋だけだが、ドン! と重量を感じる音をたてながらテーブルに置いた。

 中から2〜3個転がってくる。


「これ、梅なんだけど私たちがいる場所で梅って見ないんですよ。カテリーデンでも市や闇市でもほぼ見た事なくて」

 

「……梅か、久々に見たなぁ。カレンチナを含む今はもうない消滅した街や村で作られていた物だね……カレンチナの中心部で苗を作っていたから、苗がなくなって梅を栽培できなくなったはずだよ……それが何か関係あるの? 」


「登るために必要な浮上、浄化、豊穣ってあったじゃないですか。登るのに浮上は分かるんですけど、浄化と豊穣ってなんだろうってずっと思っていて。で、分からないなら引き出そうと思ったんですよ。私、タイミングがいい事に庭関連のお仕事してるので豊穣に引っ掛かるかなって。そうしたら、庭に植えるってワードが引っかかったのか、周りの反応が一気に変わりました。多分、この場所に呼ばれた人って、この3つの何かに該当してるんじゃないですか? 」


 芽依以上に豊穣の適任者はいないだろう。

 芽依が豊穣に結びつくからこそ、これは芽依を指しているのではないか? と考えたのだ。

 だが、あの場は何かあったら殺されても可笑しくない、そんな雰囲気が充満していた。

 翔真が怒ろうとした時、ミリーナが芽依の腕を掴んだ。

 眉をキュッと寄せて、なんとも言えない顔をしている。


「その確認は、1人でしないといけないものだっか? 」


「え……? 」


「それは、我々と情報を共有してからでも良かっただろう? 私たちも急に雰囲気が変わって警戒もした。あの場で1番危ないのは君だからな。まだ何かあるなら事前に話してくれ。1人で危ないことをしてはダメだ」


 昨日会ったばかりの人が本気で心配をしてくれている。

 アーシェたちもじっと見ているし、リリベルは眉尻を下げて息をついていた。


「……ごめんなさい、そうですよね。次からは事前に話をします」


「ああ、そうしてくれ。あとは何かあるか? 」


 こくりと頷いてから、じゃあもう少し……と芽依が話し出した。

 ブレスレットを指先で撫でるように触れると、ストックとしてしまっていた物がボロボロとテーブルに出てきた。

 それを全員が目を見開いて見ている。


「…………いつの間に買ったんだ? 」


 翔真は呆然と呟いた。

 目の前に来た肉巻きおにぎりの袋を掴んで喉を鳴らす。

 食料が少なく空腹な時に現れる食事の山。

 アーシェやミリーナ、トーマスも目を丸くした。

 空腹のミンミンも同じく手を伸ばしてしまう。

 だが、まだお話中だと自分を諌めたミンミンは1人我慢大会を実施している。


「これ、実はサーカスのテントで買ったんです」


「…………は? いや、皆で出し合っただろ? 」


「これは私の指示だよ。何時までかかるか分かりゃしない上に会ったばかりの人に持ち物全て見せる馬鹿はいないだろう? 」


 さも当然のように言ったリリベルに怒る翔真だが、アーシェ達は頷いていた。

 少なくても食事を隠していたのは芽依だけではない。


「………………ああ、なるほどね」


 そして、芽依が出した様々な食べ物を見てアーシェが呟く。

 納得いったと頷いてから芽依を、全員を見た。


「テントでの購入物品は、全てさっきの場所で売ってるやつって事だね」


「そうです。商品からパッケージに至るまで、全て同じもの。もうサーカスとこの場所が繋がってるって嫌でも理解しました」


 メディトーク達と一緒にブレスレットに食べ物をしまったので全てはもちろん此処に無いのだが、見て回った店に並ぶ商品は全て見覚えがあった。

 やはり、あのサーカスとこの場所は繋がっている。


「色々1から整理した方がいいな」


 翔真がわけわかんねぇ……と頭をぐしゃぐしゃにすると、全員でおさらいをする事になった。


「まず、転移者から。これはまだ未確定だけど浮上、浄化、豊穣に由来している人が来ている可能性がある。ちなみに13人のうち1人は死亡確認済み。街中の人の話だと既に2人無くなっていて10人のみ生存だ」


「えっ! ……死んでる、の?」


 ミンミンが一気に顔色を悪くする。

 ヴィラルキスの足が無くなる事件に巻き込んでいても、死の危険などないと思っていたミンミンは青ざめた顔で口元を抑える。


「…………この場に呼ばれたのは脱出ゲームと言ってたけど……実際はどうなんだろうねぇ」


 ふむ……と悩む素振りを見せるリリベルに芽依は首を傾げる。


「なんか、クリア条件ないんですかね」


「3日以内に水槽を解放する、だろう」


 ヴィラルキスが言い、アーシェも頷く。

 それに芽依を含む数人がえ? と振り向きアーシェ達を見た。


「…………忘れてたの? サーカスの舞台で言ってたでしょ? まあ、今の状態を考えて3日経って帰れる保証も無いんだけどね。内側から壊せの意味がまだわからないし」


「後は登るために必要な浮上、浄化、豊穣……これ、意味あんのか? キーワードとかも言ってたな」


 うーん……と悩む翔真。

 そもそも浄化とはどこを浄化するのだろうか。

 豊穣は? 使うのか? それとも力そのものが必要なのか。


「浄化……浄化ねぇ」


 うーん……なにか引っかかるような……と芽依が首を傾げた。


「後はなんだろう……あ、サーカスに関連する器具がある……か」


「あぁ、空中飛行のブランコだねぇ」


 それを聞いてヴィラルキスが顔を上げた。


「……ブランコ? 」


「時計塔を登ったんだが、そこにはサーカスに使うロープと鉄球が上からぶら下がっていたな。登ると大きな吊り輪もあった。演目であっただろう。それに時計塔のちょうど時計部分が空中飛行のブランコになっていて……そこから男が落とされた」


「落とされた……?!」


 ミンミンは今にも倒れそうな顔をしていた。

 こういった不思議な現象が一般的にあると思っていた芽依だったが、違うのか? とミンミンを見る。


「…………わ、私死にたくないっ!! 」


「誰も死にたくないだろうさ」

 

 呆れた様に答えたリリベルはため息をひとつ吐き出した。



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