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こんな時でも通常運転


 階下に人の気配がないのを確認してから、芽依はリリベルに抱えられてゆっくりと下に降りた。

 相変わらずアーシェとミリーナは階段に足をかけて降りていくのだが、ジャンプじゃない分ほぼ落下である。

 反響する時計塔の内部で翔真の叫び声が響いた。

 思わず芽依は両耳を抑えて身を縮こませると、リリベルの呆れた声が耳に届く。


「ぎぃぃぃぃやぁぁぁぁぁあああ!!! 」


「…………はぁ、煩いねぇ」


 ゆっくり優しく下ろしてくれるリリベルだから芽依もそれ程恐怖はないが、あんな降り方をしたら芽依は確実に失神する……と顔が引き攣る。

 すぐ下ですごい顔をしている翔真と魂が抜けているトーマスを思い、心の中で合掌したのだった。


 下に降りた後、ガクガクと震えるトーマスは芽依を見つけてフラフラと近付いた。

 芽依はリリベルと話をしていて気付かなかったが、背後から来て手を伸ばしてくるトーマスから離すためにリリベルが動いた。

 腕を掴まれて引っ張られた芽依は、リリベルの後ろに行く。

 ん? と首を傾げて見上げると、無表情のリリベルがトーマスを見ている。


「お前さんもこの子が移民の民だって分かってるんだろう? なら、伴侶がいるって事も流石にわかるんじゃないかい?軽々しく触れるのは良くないよ」


「………………あ」


 か細い声がトーマスから聞こえる。

 芽依に縋り付くような眼差しを向けてくるのだが、それは依存に近いと芽依は思っていた。

 先程のロッカーでの事も、今もきっと家族達は見ているだろう。

 心配と怒りに震えているのが手に取るようにわかる。

 2人は怒りに震え、1人は冷気を無自覚に吹き出し、1人は涙の海に溺れる。


「…………うっわ。私監禁されないかな」


 あっはー、と笑う芽依は朗らかに言った。

 全然笑えない言葉にトーマスと翔真がギクリと身体を震わせて芽依を見る。

 伴侶の執着や嫉妬は恐ろしい。さすがに2人とも身に覚えがあるのだろう。

 だからこそ、そんなに笑う芽依を信じられないと見ていた。


「…………おま……お前……やばくないか?! 大丈夫……じゃないよな!! なぁ!! 」


 芽依の肩を掴んで揺すってくる翔真から直ぐに離れた芽依は、同じく心配そうに見てくるミリーナと目が合う。

 にこやかに笑ってから、直ぐに考え込む芽依。


「まあ、大丈夫ですよ! ……監禁……監禁かぁ……1週間くらいで満足してくれないかなぁ……だめかな……場所って領主館だろうか……庭かな? 庭な気がする。四六時中一緒にいられるし。庭がいいなぁ。出来たらシュミットさんの部屋がいい……1週間ゴロゴロ……服装も気にしなくて良いんじゃない?! もうTシャツ短パンでいいよね! それでふかふかのベッドに入りたい! シュミットさんの良い香りがして気持ちいいし。ベッド大好き。あれ、ただの休みじゃん。ご飯はメディさん持ってきてくれるし、お風呂……誰かと一緒?ならハス君いるから問題ないでしょ? 片付けも最悪お母さん来てくれそうだよね。必ず誰か一緒に居るなら……あ、新作の服届いてるんだった! フェンネルさんファッションショーできるじゃん!……あれ! もしかして久々の蟻さん独り占め出来るんじゃない?! えっ! やばっ!! どうしよう興奮するんだけど!! 」


 どんどん元気になっていく芽依。

 監禁を喜ぶ変態な芽依は今からワクワクしている。

 シュミットさんのおふとーん! と場違いに喜ぶ芽依だったが、このシーンはスクリーンに抜き出されていてた。

 芽依の興奮している様子が大画面で晒されてシュミットは真顔になりメディトークは深く溜息を吐いている。

 フェンネルはファッションショー……と呟き、真っ赤に染った顔を手で隠すハストゥーレは今にも倒れそうだ。


『………………よしわかった。終わったらお望み通り監禁でもなんでもしてやろうじゃねぇか』


「布団から出られないようにすればいいか……服なんていらないだろう」


「…………わぁ、何着買ったのメイちゃん」


「ご主人様……お風呂……」


「あ、僕も一緒に入る」


 ギリギリと不穏な様子だった4人が、興奮中の芽依を見てスン……と落ち着く。

 怖くて泣いていないだけいいが、居ない所でも通常運転か……と力が抜けた。

 4人から見たら、必死に力を振り絞り立っているのが分かるからあまり芽依を怒るつもりは無いのだが。


『希望ならしかたねぇよな。リクエスト通りに四六時中構い倒してやるよ』


 真っ黒な目でスクリーンに映る芽依を見ながら口端を上げるメディトークに、全員が笑った。




「お……おま……マジか。お前まじかよ!! えっ! 監禁だぞ!! ずっと見られて付き纏われて! 風呂もトイレも一緒に行くとか言われたらどうするんだよ!! てか、お前何人名前出てくるわけ?! 伴侶だれだよ! 」


「え……トイレは流石に嫌だなぁ……あと、家族だから複数いて当然でしょ」


 悩み出す芽依の姿にマジかよ……と呟く翔真。


「複数っ?! てか、飯もひとりで食えねぇかもしれねぇぞ?! 」


「え? 食べさせあいっこ? 別にいいけど……」


「………………えぇ? 何、俺がおかしいのか? 」


 しゃがみ込み頭を抱え出した翔真を見下ろす芽依。

 トーマスも呆然と芽依を見ている。


「……い、嫌じゃない……の? 」


 初めて全員がいる場所で話をしたトーマスを芽依が見た。

 首を傾げて不思議そうに見つめながら当然のように言う。


「何が嫌なんです? 四六時中一緒にいるのも寝るのも、特に問題ないですよ。むしろシュミットさんはお仕事でいない時が多いから……多いから合法的に一緒にいれる?! えっ! えっ! どうしよう!なにしよう! 一緒にダラダラお昼寝とか最高だよ?! シュミットさんのお布団で暖かい日中に一緒にお昼寝?……え、なんのご褒美? メディさんも最近2人きりとかなかったし……えぇ、1週間ご褒美期間なのかな……1週間じゃ足りないっ!! 」


 見ているシュミット、また無表情になる。

 メディトークはグルグルと腹に溜まる熱を感じながら唸るような声が上がり荒い字が頭上に浮かび上がった。

 

「……昼寝で済まないだろう……馬鹿なのか」


『もう、いっそ襲えばいいのか? あ? 2週間でも足りねぇぞ』


「……メイちゃん面白いくらいに地雷踏むよねぇ」


「巨大スクリーンにこんな風に出ていると知ったらご主人様……」


「やけ酒しそう……あれ、僕の体持つかな……歯型付かない場所がないとか……流石にないよね」


「……うぅん」


「否定の言葉無し?! 」


 あらぬ事を考える2人に、相変わらず可愛い事を話す2人。

 メディトークは、見つけ次第すぐにでも部屋に連れ去りそうな雰囲気に緊張感が途切れたフェンネルが笑っていて、隣にいる翔真の伴侶が呆然と見ていた。


 

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