サーカスで買い物
テントにシュミットが先に入る。
周りを見渡し、特別変わりは無いな……と確認している間に芽依たちも入ってくる。
真正面には巨大なカウンターがあり、電子掲示板の似た物が壁に掛かっている。
芽依は思わず口をポカンと開けて見た。
右から左に流れていくいらっしゃいませの文字。
上下にわかれていて、下半分を広めに取り様々な演目や場所の説明が細かく書かれていた。
「……イメージと違った」
「そうなの? 」
すり鉢状になっている街並みを上手く利用しているのだろう。カウンターは1段上に設置されていて、猫耳のお姉さんがフリルたっぷりのエプロンでお出迎えをしてくれる。
「 ヂュカーリオンサーカスへようこそ!! ここでは入場の前にこちらのブレスレットを購入していただきます。おひとつ5万となっていまして、男性が青の宝石、女性が赤の宝石です」
「たっ……………………」
高い! と言いそうになったが、芽依は手で口を抑えた。
流石にサーカス所属の受付の前で言ったら失礼だろう。
箱に綺麗に並べられた4本の青い宝石が付いたブレスレットと、1本の赤い宝石が付いたブレスレット。
その代金を、フェンネルがあっさりと支払った。
「25万……はい、確かに。では、向こう側にありますのが飲食コーナーです。購入後はブレスレットにしまえますので量を気にせずご購入ください。それでは、良いサーカスを! 」
手を伸ばして大きく振る受け付け嬢。
満面の笑みで手を振ってから、次に来た客の対応をはじめた。
「じゃあ、買おっか」
ね、芽依ちゃん! と指を絡めて手を繋ぐフェンネルに引っ張られて走り出した。
「…………え、本当にサーカス? 」
「限定とかあるからだね。わぁ、すごいね……買わせる気満々だ」
カウンターのすぐ隣にゲートがあり、そこをくぐった先にサーカス会場があるのだが、ゲートの逆側にはずらりと並ぶ料理やデザート、飲み物の山があった。
お土産や、サーカスを見ながら食べれるようにと販売している。
日替わりで中身が変わるらしく、サーカスに来て買い物を楽しむ人も少なくない。
面白いのが、購入できる商品が業務用と、別売りで少量パックがある。そこには酒もあり芽依は目をギラつかせた。
「メディさん。お土産の予算は如何程? 」
『あ? 好きなだけ買えばいいじゃねぇか。ここの在庫も含めて全部買っても問題ねぇぞ』
「さすがにそれは……」
いやいや……と首を振ってから、それでも端から順番に片っ端から買っていった。
こんな時でも煩悩に忠実である。
「……それにしても、凄い懐かしいの売ってるよね。まだあったんだ」
「ああ、これは十分客を捕まえられるな」
フェンネルとシュミットがビックリしながら見ている。
フェンネルは顎に手を置き、シュミットは腕を組んで眺めていて、納得するように頷きながらマジマジと見ていた。
「どうしたの? 」
「あ、うんとねぇ。ここに並ぶ大半がもう見ることが出来ない食べ物だと思っていたからビックリしちゃってね」
「え……なんで? 」
「ほら、中心部に集中していた商業施設と一緒に食品工場もあったから。水にね、沈んじゃってるの。だから、作り手がいないんだよ。もうかなり昔の話だし、この並ぶ食べ物自体知らない人も多いよ。だから、サーカス名物で定着しても問題ないんだろうね」
「…………なるほど。じゃあ、当時からいる人達にはこれだけで通う人もいそう」
『いるんじゃねぇの? このパイとか人気だったぞ』
「買います」
『お前ねぇ……』
結局、ほぼ全種類を複数買い込み、満足した芽依。
自分の我儘だから実費で! と譲らなかった芽依の購入金額は入場料合計より遥かに多かった。
だが、問題ない! と胸を張る。
見たことの無いものから、人気商品も教えてもらい購入に一切の躊躇をしなかった。
野菜の肉巻きなど、昔からのイチオシと聞いたら、棒状の物を在庫全部下さいと250本を購入している。
他にも酒は全て買い占めニヤニヤと笑う芽依。
やりすぎ感は否めないが、後悔はしていないと、芽依は満足感に酔いしれていた。
ちなみに、在庫を空にされた店員は太客きたー! と喜んでいる。他の人が買えなくても売上重視の守銭奴店員は売上が大事だからと笑って芽依たちを見送った。
ものすごい量を購入した芽依は、箱庭に少ししまおうかと出したのだが、画面が真っ暗のまま何故か起動しない。
眉をひそめて見ていると、後ろからメディトークが覗いてきた。
指先でススス……となぞるが全く反応がないのだ。
同じくシュミットも隣に来てた。
「魔術具は使用不可領域か? 」
『……そうっぽいな。そこまで金を落とす事に力が入ってるのか? 』
首を傾げるメディトーク。
つまり、購入したブレスレット以外の収納できる魔術具が使用不可になっているのだ。
箱庭にも沢山の収納が出来るため、利用不可となる。
「…………えぇ、不便」
むぅ……と頬をふくらませても箱庭が起動する事はない。
仕方ないと5人のブレスレットにそれぞれ分けて中にしまった。
それなりの量が入るのだが、さすがに買いすぎだったし、中に入ってからも買い物が出来るかもしれないからと空きスペースを作っておいた。
サーカスを見に来た客は増えてきて、広いはずのテント内がいっぱいになってきた。
歩けば肩がぶつかってもおかしくない程に人が増え、体に当たらないように家族達で囲うように芽依を守り全員でゲートを通っていた。
ゲートの入口は虹色の蝶が飛ぶキラキラと煌めかしいもので、それがトンネルのように続いている。
不思議……と見上げていると、一匹の蝶が芽依の鼻先に乗った。




