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暫定食は蒸しパン


 今日は快晴。

 青空が広がり、そこに大きな気球が飛んでいる。

 いつもお馴染み暫定食のお知らせだ。


「…………なるほど、蒸しパン」


 大きく色とりどりの蒸しパンと出ていた。

 それを眺めて芽依はひとりで呟く。

 1週間あるから、十分時間はある。

 なにより、蒸しパンはお手軽料理とも言えて作り方は簡単だ。

 蒸し系なので芽依も作れる優れものではあるが、愛用のホットケーキミックスはこの世界にはない。


「……今回は家族分くらい自分で作ろうかなぁ」


 芽依はふむ……と考えてメディトークの元へと向かって行った。




『あ? 蒸しパン? 』


「うん。暫定食だよ、ほら」


『…………本当だな』


 相変わらずな搾乳中メディトークの隣りにしゃがみ込んだ芽依が家族分の暫定食を作りたいと話をしている。

 色とりどりの蒸しパンとなっているから、様々な味で作るのだろう。

 芽依はワクワクと笑顔を浮かべてメディトークに聞くと、蒸しパンか……と頷く。


『ああ、いいんじゃねぇか』


「本当? 」


『楽しみにしてる』


 足でポン、と頭を撫でたメディトークに芽依は嬉しそうに笑った。

 そして、パピナスの元に駆けていく。


「パピナスー! どこー?! 」


「はぁい、メイ様のパピナスは此処におりますー!! 」


 少し離れた場所からパピナスの返事が返ってきて、芽依はそっちに向かって走っていった。


『……あ? パピナスと準備すんのか? 』


 大体は家族と動く芽依が珍しいな……と、その後ろ姿を見送ったメディトークは、搾乳へと戻った。


 

「パピナス、ごめんね。この後用事ある?やりたい事とかなかったら買い物付き合って欲しいの」


「まぁ!! メイ様とのデートよりも大事な用事など存在しません!! 」


「いや……あると思うよ……? 」


「うふふ、私で宜しければ何時でもご一緒します、メイ様」


 語尾にハートが着いているようなうっとりした言い方でパピナスは笑みを深める。

 それも通常運転だと頷いて、庭の手入れが終わり次第カテリーデンに向かう事になった。

 パンツの妖精によって半壊されてたカテリーデンは、4日で修復されて現在は通常販売している。

 



「これは? 」


「帰還の魔術が組み込まれているブレスレット。離したりするなよ」


「はい……可愛いです」


「………………そうか」


 仕事を早めに切り上げて帰宅していたシュミットは、以前から準備していた帰還の魔術が組み込まれたシルバーに綺麗な小さい宝石が散りばめられたブレスレットを着けてくれた。

 もし何かのトラブルに遭遇した時、自力で帰還出来るようにだ。

 ただ、これは万能ではなく、過去や未来、魔術禁止区域や反射の魔術が敷いているなどの特殊空間では使用不可となっていると説明を受けた。


「…………なるほど? 」


「よく分かってないな」


「使えない場所があるよ、って事ですね? 」


「………………まあ、そうだな……パピナス、頼むぞ」


「はいシュミット様、お任せ下さい。芽依様に仇なすヤツはぶち殺します」


「ぶち殺す……」


 ふたりで満面の笑みを浮かべるパピナスを見てポカンとする。

 奴隷落ちして力が制限されていたが、模範的だと精査されてつい先日パピナスの力は解放されたばかりだ。

 再生してきたボロボロの羽も、今は輝かしくフサフサしている。

 ほんの少しだけ能力が下げられていると思っていたのだが、奴隷の時中位くらいだったパピナスは、現在最高位に近い高位へと力が戻っていた。

 思わず強い……と呟いたが、よく考えたらそれもそうなのだ。

 だって、パピナスは以前国の女王の契約精霊、さらに1番強い精霊だった。

 弱いはずがないのだ。


 パピナスは満面の笑みで、お任せ下さいと頭を下げた。

 芽依の傍に集まる人外者は強い人が多い。



「メイ様、何を買うのですか? 」


「うん、暫定食が蒸しパンでしょ? 私も作ろうかと思って」


「まぁ! それは宜しいですね! ラッピングとかも買います? 」


「うん!! 」


 そう、今回パピナスを選んだのは、女性目線での買い物がしたかったからだ。

 少ない芽依の作れる料理が今回の暫定食に一致した。

 なら、頑張らないわけが無い。


「色んな種類を作りたいから、その材料も買いたいな」


「では、カテリーデンでよろしいですか? 」


「うん。パピナスも一緒に作ろう? 」


「はい、勿論!楽しみですね」


  神々しく微笑み、芽依を抱き込んだパピナスが転移してカテリーデンに向かったのをシュミットが見送った。


「行ったの? 」


「フェンネルか。ああ、今行った」


「久しぶりの女の子同士の買い物、楽しんで欲しいね」


「ああ、そうだな」


 今日の仕事が終わったシュミットは、早速部屋着に着替えるために家に向かった。



「よーし、到着」


「何処から行きますか? 」


「ラッピングとか、カップとかかな」


「はい、では向かいましょう」


 安全面を考慮してパピナスが手を引いてくれる。

 真っ白なレースの手袋を付けた芽依の手を、メディトーク達とは違う柔らかな女性の手が包み込んでいる。

 久しぶりな少人数でのお出かけにドキドキしつつ、初めてのパピナスとの2人だけの外出だと、今更ながらに分かってパピナスを見る。

 最初に会った時の褐色の肌は今では美白になっていて、豊かな金髪が揺れている。

 この間買ったばかりの奴隷の証である銀色のヘアアクセサリーが輝き全てがパピナスを煌めかせていた。


「…………パピナスは綺麗だねぇ」


「えっ……いつでもお使いください……どうぞ……」


 赤らめた顔で胸を下から持ち上げるパピナスに、そうじゃない、と首を横に振る。

 パピナスの思考回路はどうなっているのだろう。


「来たばかりの頃はガリガリだったのに、今では肉付いて綺麗な体になって、私嬉しいなぁ」


「…………私を綺麗と言ってくださるのね」


 まるで独り言のように呟いたパピナスに芽依は首を傾げる。

 赤の奴隷は所謂性奴隷だ。

 パピナスは体の隅々まで前の主人に辱められている。

 赤の奴隷は誰もが自分を汚いと忌み嫌うのだが、芽依を含み家族の誰もパピナスを汚いとも肉欲を持って見ることもない。

 ただパピナスに求めるのは、芽依の安寧の為の手助けだけだった。


「どうしたの? 」


「いえ……ただ、幸せだなと思っただけです」


「んふふ、そう思える環境が出来てるなら私も幸せだよ」


 ただの奴隷であるパピナスと同じ目線で幸せを語る芽依に、更なる愛で胸が暖かくなると空いてる片手が豊満な胸元にあてる。

 これが幸せなんだなぁ……と笑顔を浮かべるパピナスに芽依も笑った。


 カテリーデンには相変わらず沢山の客や付き添い荷物持ちの奴隷が沢山いる。

 その沢山の視線が芽依と幸せそうに微笑むパピナスへと向けられていた。

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