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これぞ貴族。わかった、戦争だ


 胸熱イクラの丼とテンションが上がる芽依の前には続々と料理が並び、それを見た客達が並ぶが目の前の料理が食べれないと知り絶望している。

 目の前でいい香りをさせて居るのに買えるのは惣菜だけで、目の前の美味しそうな料理を食べる芽依達を指くわえて見ているだけなのだ。

 怒り狂い手をプルプルさせるが、メディトークとシュミットの鋭い眼差しにフェンネルの冷たい視線。そして、アキーシュカの薄ら寒い笑みが客を見る。

 だが、なにより穏やかに笑い自らの唇を舐めるパピナスが1番怖いと震える人もいた。

 これだけ高位の冷たい視線を浴びて喧嘩を売るのは愚の骨頂だと怒りに震えながらも逃げ帰る人が続出する。

 

 そんないつもよりも少し刺激的な販売を楽しんでいた時の話だ。

 いつの間にかするりと入り込み焼きそばを食べるニアを可愛いと芽依が愛でている時、販売の売り子がメディトークに変わった。

 メディトークがいるならと芽依も隣に立つ。

 休憩だと食事を開始したパピナスやフェンネルがクッションに座り、何故か珍念がずぼんを下げて丸出しのお尻を突き出し「ぶーーっ! 」と遊んでメロディアが吹き出した時だった。

 着飾ったあきらかに貴族だろう男性がメディトークの前に立つ。


「やあ、買い物をしに来たんだがね。あの奴隷をくれなイカ? 」


 指を指した相手は、今おいなりさんを口に入れたフェンネルだった。

 ん? と首を傾げて見るフェンネルに目をキラキラとさせている。


「いや、良かった。あの帽子屋で見た時は逃げられたからね。春呼び祭りまでに汚い手が触れていないかとハラハラしたが大丈夫だったみたいで大満足だよ。綺麗な奴隷はいい。歯向かわず従順に私に従い、私だけを絶対の王と崇める。なんて素晴らし事だと思わなイカい? 」


「…………イカが好きなの? 」


「そうじゃねぇだろ」


 言葉は吐き気がする程、芽依が忌み嫌う内容なのだが、どうにも「イカ」と強調して言う言葉に意識を持っていかれる。


「ふん、下賎なヤツに私の高貴な言葉使いがわかるものかね。それより、まだ良いのがいるじゃないイカ。まさか白の奴隷がいるとはね。赤もいるし、君好きものじゃなイカ! まあ、女は媚び売り肉体で誘ういやらしい人種、しかも赤など痴態を見せる様が最悪だ!頼まれても赤の奴隷女などいらんのだがね!! さあ、お前は大人しく奴隷2人を…………ぶばぁぁぁぁ!!! 」


「………………ごめん、腹立ったから。その腐った頭、1回ぐちゃぐちゃに掻き回して強制リセットするがいいよ」


 気分よく両手を広げて、まるで演説をするかのように自分に酔う貴族に、芽依は大根様で頬を殴り飛ばした。

 まだ途中だったのだろうが、耳が腐ると言い捨てた芽依は無表情で冷たい眼差しをしている。

 殴り飛ばされた貴族は白目をむいていて、手足をピクピクとさせているが、周りは誰も助けようとはしていない。

 大根様の殺傷能力が高いのか、それとも貴族の防御力が弱いのか。そのどちらもか。

 どちらにしても、完全に意識を飛ばしている。


「…………ふふ、メイちゃんが怒ってる」


「ご主人様素敵です」


「流石メイ様!惚れ直してしまいますね!! 」


 そんなご主人様大好きっ子な奴隷3人は、芽依の怒りの一発にうっとりとしていた。

 周りは移民の民が大根片手に貴族をぶちのめしたと、引いているが。


「まったく、いつでもどこでも頭の悪いヤツが湧くよね。春まつりで頭に花が咲いてるから余計かな」


 何気に酷いことを言う芽依にシュミットが吹き出す。

 煩悩の権化で、大切な奴隷達に飛びかかり齧りつき、時には噛まれる芽依が言うことでは無いと。

 だが、そんな芽依を愛してるいるシュミット自身もたいがいだ。


「………………よし、もういいな。次」


 まるで何事も無かったかのように、次の販売をしようとするメディトークに呆然とする客たち。

 だがそれはドラムスト以外の人なのだろう。

 頻度は違うが、カテリーデンではこうした軽口はしょっちゅうなのだ。

 ドラムスト領民は、順番で並ぶ後ろから声を上げる。


「おーい、先頭!早く買って場所開けてくれよー! 」


「お惣菜まだあるー?! 」

 

「果物パーティしたいから果物買いたいのにー」


 どれも催促ばかりで、3番目に並ぶドラムスト領民はせっつくように背中を軽く押す。


「こんなので驚いてないで、早く動きなよー」


「あれ、カイトくん!! 」


「出遅れちゃったよー 」


 あはははと笑うカイトに、メディトークもニヤリと笑う。

 いつもお世話になっております、の呉服屋ウササンの年若き店主だ。ただし、見た目だけ。

 カイトにせっつかされながらも購入しようと選び出した客の隣に現れた、また別の人外者に芽依は驚いた。

 ポカンと口を開いて見ていると、その人はにこやかに笑う。


「おや、こんな所に居たんだね。良かったよ見つけられて」


 至る所に着いている鈴が清らかな音を鳴らす。

 茶色にピンクのインナーカラーを入れた髪は今日も高い位置でポニーテールにしていて、中で食事中のアキーシュカが目を瞬いた。


「ああ、やっぱりメイちゃんと知り合いだったんだね」


「おや、アキーシュカじゃないかい。随分な顔ぶれがいるじゃないか。これも人徳かねぇ」


 コロコロと笑う本坪鈴の妖精リリベルが芽依の頬をふにふにと優しく撫でる。

 そんなリリベルの服装は、綺麗な生地やレースで重厚に重ねた艶やかな巫女衣装。

 装飾も派手で美しいのだが、髪型だけが質素だった。

 いや、美しい服装に艶やかな表情にはこれくらいがバランスを取れるのだろうか。

 にこやかに笑うリリベルに芽依は呆然と見惚れていた。

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