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危険だな……と思う芽依だが、食べる手は止まらない


 春呼び祭りは恋の成就を促すものだと聞いてはいたが、まさかの押しの強さに呆れてしまう芽依。

 アキーシュカの登場で一時期落ち着いたが、まだ性懲りも無く恋人欲しさに集まり出す。

 まるで砂糖に群がる蟻だ。


「………………そう、砂糖に群がる蟻のよう」


「……は? 蟻の幻獣は砂糖に群がらねぇよ」


「えっ?! そうなの?! 」


「集まるなら水飴だろう」


「………………水飴? 」


「好みはあるが……俺は林檎の水飴が……何でもねーよ、こっち見んな」


 まさかの蟻の幻獣は水飴好きと判明。

 芽依は水飴を買う為にベースを抜け出そうとしてメディトークに止められた。


「……どこ行くつもりだ」


「メディさん……水飴が欲しいなら欲しいと言って……」


「いらねーよ! 」

 

 そのまま投げ飛ばされ、セルジオが受け止める。

 芽依を抱えるセルジオが眉を寄せてメディトークを見た。


「もう少し丁寧に扱え」


「丁寧……ねぇ」


 以前よりも丈夫になってきた芽依は投げ飛ばされても怪我ひとつなく、びっくりしたー……と零すだけだった。

 そんな芽依をアリステアが驚き見ている。


「だ……大丈夫か? メイ」


「はい、全然……ところでアリステア様が飲んでるお酒ってどれです? 」


「話し込む前に降りろ」


「おっと失礼」


 セルジオから降りて軽く頭を下げた芽依は、アリステアが飲んでいる酒を改めて見る。

 これだ、と渡される瓶からは芳醇な香りが立ち上りグラスに新しく入れてくれたそれを口にする。

 すると、舌先にピリッとした感じがあってすぐに口を離した。


「…………なに? 」


「どうした? 」


 アリステアが首を傾げて聞いてくると、芽依は無礼にもアリステアが飲む酒をそっと取り口にする。

 慌ててセルジオがグラスを取ろうとすると、眉をしかめた芽依がメディトークに振り返った。


「これ、舌が痺れる」


「あ? 」


 振り返ったメディトークが芽依の前に来てグラスを取る。 中身や匂いを確認してから1口口に含むとすぐに吐き出し瓶を掴んだ。


「飲むな。魅了の魔術が掛かってんな、これ」


「魅了……? 」


 アリステアが青ざめながらメディトークを見ると、セルジオも芽依からグラスを受け取り中を確認する。

 どうやら酒ではなく瓶に魔術が掛かっていて、注ぎ口から流れた酒を口にする事で魅了に掛かるようになっているようだ。

 注ぎ口が丸い形で上手く魔術陣に重なった事から簡単に魅了魔術が注がれたらしい。

 耐性付きのアクセサリーを付けていたアリステアには効かなかったので胸をなでおろした。

 セルジオにすらバレないように巧妙に隠してある魔術。

 最高位ですら看破できない程に巧みに隠す技術を持つものは以外と多く、どこに熱を入れているのだと呆れるほどだ。


「よく、分かったなメイ」


 ピリッと痺れる感覚など今まで感じたことがない。

 芽依は不思議そうにワインを見ると、カウンターで販売中のフェンネルが笑顔で振り返った。

 求婚する客たちを危なげなく交わすフェンネルは良い顔でウィンクする。


「飲んでて良かったでしょ? 苺のワイン」


「……お昼に飲んでたお酒の? 」


「そ。食べ物飲み物の魔術妨害」


「帽子についているリボンも阻害魔術が掛かってるぞ」


 毎日飲まされていたお酒の効果がここに来て発揮された。

 シュミットもリボンをちらりと見てから安心したのだろう、クッションに体を預ける。

 春呼び祭りでは、沢山の販売がある。

 食べ歩きもするので当然、魔術を口から入れて体の支配を奪われる場合もあるのだ。

 勿論、過保護な家族達が対策をしない訳がない。

 メディトークはすぐに瓶を消し去りアリステアを見た。


「どこで買った? 」


「これは……」


 思い出しながら話し出したアリステア。

 来る途中の他国の新しい酒だと売り出していた。

 試飲もしていて、味が良かったから買ったのだが、試飲した酒は別の瓶から注いでいたらしい。


「悪質だな」


「…………はぁ」


 購入している人はそれなりに居たから、魅了がかかる人も出てくるだろうと、アリステアとセルジオは立ち上がる。


「メイ、メディトーク。焼きそば美味しかった、ありがとう」


「また後で寄る」


 軽く手を振り歩いていく2人を、芽依も手を振り返して見送った。

 こういったトラブルは春の妖精は関与しない。むしろ、もっとやれと煽るほどだ。

 やれやれ、とシュミットが肩を動かし、メディトークは鼻で笑う。


「浮かれるのもいいけど、無駄に魔術を振りまくのはやめて欲しいよねぇ」


 購入品を受け取ろうとしている女性がビクリと肩を揺らす。

 まさに、今魔術師を発動しようとしていたのだ。

 最高位に無謀にも手を伸ばそうとするのは意外と人間が多い。

 結婚適齢期な女性は、恐る恐るフェンネルを見ると、色々含んだような笑みを浮かべたフェンネルと目が合う。


「…………えーっと、ありがとうございます」


 そそくさと購入品を持って逃げ帰って行った。


「人間の方が結婚に貪欲だから、こういった時のガッツが凄いんだよね」


「子を儲けるのも種の存続の為だと理解は出来ますが……勢いが凄いです」


 いつの間にか用意されている肉まんを両手で持ち、顔を埋めるように噛み付くハストゥーレ。

 それがまた可愛いと笑顔で見たあと、メディトークがおいなりさんを作る姿を見た。

 ただの酢飯に五目ご飯。そして、桜デンプンとイクラがたっぷり乗っている。


「…………イクラ?! 」


「あ? ……………………あぁ、イディクラか。なかなか市にも闇市にも出ねぇから取り寄せた」


「うわぁぁぁぁぁ! すごぉい!! 」


 目を輝かせて見る芽依に、ポカンとする。


「…………あぁ、そういやイディクラは今まで使ってなかったな……いっぱい買ったから今度丼にでもするか」


「丼ぃぃぃ!! 何それ胸熱ぅぅぅ!! 」


「はいはい、分かったから落ち着けって」


「落ち着けないぃぃぃ! ハスくーん! 」


 バタバタと走っていき、アキーシュカ達がいる前でジャンプしてハストゥーレに抱き着く。

 すぐさま肉まんをシュミットに渡して支えてくれるハストゥーレは、落とさなくて良かったと安堵した。


「………………あ! シュミット様申し訳ございません!! 」


「気にしなくていい」


「あぁ!! シュミット様!私の肉まんを食べないで下さい! ご主人様の肉まん! 」


 半分以上残っていた肉まんを食べてしまうシュミットに、ハストゥーレは悲痛の叫びを上げた。


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