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衝撃の出会い


 声をかけたい沢山の人を引き連れて、芽依は買い物を続ける。

 欲しいものや見た事ない物が沢山あり、ワクワクと指をさせば購入手続きをハストゥーレがしてくれる。

 食材や食品以外にも日用品や宝石、貴重な物も沢山あった。

 それを眺めながら歩いていると、丸みのある暖色の綺麗な家具が並べてある場所を見つけた。

 芽依は思わず足を止める。

 よくよく見たら、半分は寒色系の家具が並んでいる。

 使い勝手の良さそうな綺麗な家具はどこか見覚えがある気がした。


「…………これって」


 フェンネルが目を見開き家具を見る。

 少し青ざめている様子に芽依は眉を顰めると、店員はにこやかに笑った。


「いらっしゃい、ようこそリンデリントへ」


 その一言に、フェンネルはよろりと後ろに数歩下がった。

 500年前にフェンネルが滅ぼした村の名前だ。

 その名前を言いながら、どうぞ見ていってくださいとにこやかに笑う。


「…………リンデリント? 」


 フェンネルの様子を見ながらメディトークが聞くと、その人は軽快に笑う。


「びっくりしますよね、今はもう無い村の名前だから。でも、どうしてもこの名前を付けたくて。俺はあの時仕事で村にいなかったリンデリントの生き残りなんですよ。あの時の俺はまだ技術が未熟で修行中だったもんだから、再現はできないけど、リンデリントの技術を使った新しい家具です


 どうっすかー? と笑う男性にフェンネルは顔を逸らした。

 フェンネルの穏やかだった感情はぐちゃぐちゃにされて、今ひとりで立てないほどに気持ちは荒れている。

 そんなフェンネルに寄り添うように、芽依はフェンネルの手を握りハストゥーレは逆隣で腕を支え、メディトークが肩を抱く。

 その姿を見て、男性は首を傾げた。


 美しく誰もが目を奪われる真っ白い髪の妖精、花雪。

 それは、以前狂った妖精となり移民の民を長い年月殺そうとさ迷っていた悲しい妖精。

 崩れ落ちる自分自身を必死に奮い立たせていた彼は今漸く幸せを手にしたのに、突然地獄に突き落とされたような気分であった。


「…………あれ、もしかして花雪……」


 男性の声に大袈裟に体を揺らし動揺するフェンネル。

 人外者であれば、そんなこともあったなと開き直るくらいなのに、元来繊細で優しすぎるフェンネルはどうしても割り切れない。


「………………そうか、捕まり犯罪奴隷になったって」


 そう、感情の乗らない声が芽依の耳に届いた為、芽依はフェンネルの前に立ち深々と頭を下げた。


「現在フェンネルさんは私の犯罪奴隷としてそばにおります。もう狂うようなことは無く、その鱗片すら見せていません」


「メイちゃ……」


「私はフェンネルさんの主人です。過去の出来事は許しようもないと思います。生活の場を壊し家族や知人と二度と会えない状態にした事、誠に申し訳ありませんでした。深くお詫びいたします…………貴方の怒りや憤り、悲しみや償いはどうぞ私に。奴隷の罪は主人の罪、奴隷が犯した罪は全て主人が責任を負わせて頂きます」


「…………移民の民だよね。当時いないでしょ? どうしてそこまで? 」


 下げていた頭を上げて、真剣な眼差しで芽依を見る男性を芽依も見返した。

 震えるフェンネルを守るように、その場を動かずに芽依は質問に答える。


「奴隷ですから当然です……と、言いたいところですが、彼は今は大切な家族なんです。悲しみに涙を流したら拭いてあげたいし、悪い事をしたら叱ります。そして、謝るべき事は一緒に謝りたいのです。押しつぶされないように一緒に抱えて潰れないように支えたいのです。貴方からしたら気持ちのいいものでは無いのは分かっています。でも……」


「ねえ」


 グッ……と手を握りしめている芽依を見て話に割り込んだ男性はにこやかに笑った。


「そうか、わかったよ。もういいんだ」


「…………え? 」


「花雪が捕まった時にね、実は情報屋を雇って真相解明に奔走したんだ。一応故郷だからね。そうしたら……まあ、君もある意味被害者じゃないか。しかもずっと苦しみを抱えていたんだろ? しんどかったよなぁ」


「…………そんな、あっさりでいいんですか? 」


「え? だって人外者の、しかも最高位のした事だもん。天災に巻き込まれたようなものだし……仕方ない仕方ない、500年も前の話だしね。ただ知りたかっただけなんだよ。あの日何が起きたのか。純粋にね。そしたらまさかの内容だもん、びっくりだよ」


 相変わらず朗らかに笑う男性に芽依は目を丸くする。

 以前聞いたことがある。

 人外者の高位は少しの喧嘩で簡単に国を滅ぼす。そして、そこに住む人達はいくら殺されても人外者のする事だからと諦めるのだと。

 勿論全員では無いが、そういった気持ちを持つ方が多い。

 この人もそのようだ。


「そうだなぁ、申し訳ないって思うならなんか買ってよ。俺はね、リンデリントの家具にまだ追いつけないけど、いつかあの家具やキッチン用品よりも良いものを作って、リンデリントの物は最高だって言われたいんだ」


 リンデリントの家具家電は特別だった。

 素晴らしい造形に耐久度、リンデリントの住人にしか造れないガスや電気が通る木製の製品。

 それを再現までは出来なくても似通った新しい商品を生み出すのだとヤル気に満ち溢れている男性は晴れやかな笑みを浮かべている。


「だから、本当に気にしなくていいから」


 穏やかな笑みが、芽依とフェンネルに向けられた。

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