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他国の参加者


 帽子を自慢して見せつけていた芽依は、突然セルジオに抱き締められた。

 ふわりと香るセルジオの香りを胸いっぱい吸い込んだ芽依は、不思議そうに見上げた。


 「……セルジオさ……」


 カランカラン


 ドアから響く音に芽依は顔だけで振り向き、話を中断させた。

 誰が客が来たようだ。


「…………いらっしゃい」

 

「…………ほう、なかなか良い帽子屋じゃなイカ」


 現れたのは随分と横柄な態度の人だった。

 服装的に貴族だろうか。

 だが、芽依が思ったのはそれくらいで、すぐに顔を逸らしセルジオを見る。

 抱き締めているのは何故だろう、首を傾げるとシャルドネも芽依の隣にいて、まるで守るように立つ。


「メイさん、帽子をしまってください」


 コソッと言われ、芽依は無言で箱庭に帽子をしまった。


「金は払っているんだな? 」


「はい」


「では、行きましょう」


 2人に促され歩き出すと、先程入店した人がこちらを見た。


「あぁ、待て待て。そこの……移民の民」


 呼び止められ、2人はため息を吐き出す。

 芽依は不機嫌そうな顔をする2人を交互に見ると、セルジオが振り向き男を見た。


「なんのようだ」


「…………随分と不遜な態度だ。まあいい。我が国には移民の民が少ないからドラムストで賄うつもりだ。この春呼び祭りで移民の民を増やすんだ。お前、来なイカ」


「脚下だ。コイツは国に紐付けられている」


「…………お前、伴侶ではないな。なんだ、どういう関係だ? 貴様に命令される謂れはないが?」


 眉をひそめて威嚇するようにセルジオを見るが貴族に鼻で笑う。


「…………俺を知らない? 」


 ドラムストは本国ファーリアにとっても重要な領地。

 その領地の領主に全幅の信頼を受けているセルジオとシャルドネを知らないということは、良く開催される他国との交流会に参加することが出来ないほどの弱小国と言うことだ。

 シャルドネも見覚えのない相手にシラケた顔を向けていると、また、カランカランと来客のお知らせを受ける。


「…………あ、いたー」


 緊張感の欠片も無いホワンとした声は、毎日聞く家族の声。

 真っ白な髪を靡かせて近付いてくる花雪に、男は目を見開いた。


「遅いから迎えに来たよー」


「そんなに遅くありませんよ? 」


「えー、僕には十分遅いよー」


 そう言いながら、真ん中にいる芽依を正面から抱きしめるフェンネル。

 芽依はフェンネルの胸に顔が埋まり、はんぺんは腹だけでは無い……とふかふかする体に腕を回す。


「わざわざお迎えに来てくれたの? 1人で? 」


「うん。寂しかったから」


「愛いやつめー……大丈夫だった? 」


 グリグリと頭を擦りながら心配そうに見ると、フェンネルは照れた様な擽ったい笑みを浮かべる


「うん、大丈夫。早く帰ろう? 抜け出してきたからバレたら怒られちゃう」


「…………え、誰にも言ってないの? 」


「…………えへへ」


 可愛く笑って誤魔化すが、それは通用しない。

 特に、心配性な黒光りする巨体を持つ蟻には。


「それは…………それは……まずい、ね? 」


「……うん」


 少し青ざめるフェンネルに、シャルドネが苦笑する。

 怒れるメディトークが簡単に浮かぶからだ。

 フェンネルへの心配は、怪我や消される等ではなく他国の人間や人外者が入り込んでいる今、首元を隠さないフェンネルが奴隷として奇異な目で見られる事だ。

 ドラムストの人達は、既に芽依を理解し、その家族を奴隷ではなく芽依の大切な人と理解を示してくれる。

 だが、それはあくまでドラムスト領内だけなのだ。

 お使いで奴隷が1人で歩くと周りから悪戯に攻撃されたり、店先で足元を見られることも少なくない。

 勿論、芽依の家族がそんな対応をされたら全員で報復に行くのだが。


 そんな外部の人間や人外者が多い中、芽依もメディトークも奴隷紋を持つ庭の4人を安易に出すことはしない。

 守るためなのだが、外出した芽依を待てないフェンネルが出てきてしまったのだ。


「お……おい!! 奴隷だな!! いい値を出す! ソの人外者をくれなイカ?! 春呼び祭りまで待てば盗られそうだ!! どれくらいだ! 100か! 200か!! できる限り沿おうではなイカ!! 」


 興奮気味に近付いてきてフェンネルに触ろうとする男に芽依の目が据わる。

 隠すように守るようにフェンネルをギュッと抱き締める芽依。

 相手の男など目に入っていないフェンネルは、強く抱き締める芽依を、目尻を下げて蕩けるような眼差しで見る。


「…………ああ、幸せすぎてどうしよう」


「ん? ……家に帰れば良いと思うよ」


 頬を撫でると、すぐに帰ると素直に頷くフェンネルが芽依を抱き上げた。


「もう帰っていい? 」


「ああ、帽子は受けとったから構わない」


「メイさん、フェンネル、酒盛りを楽しみにしていますよ」


「了解」


 2人の許可が降りてからすぐに、フェンネルは芽依を連れて庭に帰ってきた。

 ふわりと揺れる風が2人の髪をゆらりと動かす以外に変わりは無い。

 大丈夫、きっと、バレていない。



「………………バレねぇわけ、ねぇよな? 」


「ひっ!! 」


「…………あー、メディさん」


 転移した真後ろには、いつ来たのかメディトークの姿。

 隣には眉を八の字にしたハストゥーレが指を組んで立っている。その顔色は悪い。


「お仕置を御所望みたいだな…………メイ、先行ってろ」


「は……はぁい」


「まっ……待って!メイちゃん! 置いていかないで! 見捨てないで!! 」


 そんな悲痛な願いは叶えられずフェンネルはその日、部屋から出てこなかった。

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