氾濫する川と、それに対応する人外者達
芽依が体調不良で家族に優しくされている頃、他でも問題が起きていた。
カシュベルとガヤの間には、ある広大な森がある。
以前巨大樹が燃えた時の森はガヤとシャリダンの裏手にある深い森だが、その森は左右に手を伸ばすように広がっていてカシュベルの方向にも広がっている。
その広がった森には川があり橋がかかっていて、歩行者や馬車を使う人は橋を渡り行き来する。
その橋が、今回の雪解けによって水嵩が増し破壊されたのだ。
その橋には橋の妖精が住み着いていて、それはもう怒り狂っているとアリステアに報告が来たのは昼過ぎの頃だった。
橋の問題もだが、他からも雪解けの被害は沢山あった。
溜まりに溜まった雪が屋根から一斉に落ち死傷者が後を絶たなかったり、住宅内に侵入する水。
土砂崩れの発生など、報告が続々と寄せられる。
それに騎士や魔術師、仕事に見合う内容であれば移民の民も駆けずり回った。
芽依は残念ながら動ける状態じゃ無いためメディトークに膝枕をされて背中をさすられている。
今日の庭作業は中止である。
「ぐ……ぎもちわる……」
「寝れそうか? 」
「ちょっ……むり……撫でて」
「はいよ」
頭だったり背中だったり腰だったりとゆっくり撫でてるメディトークに体を預けて目を瞑った。
「うわぁぁぁ!! くそっ水がっ!! 」
「魔術師まだかよ!! 」
「ぎゃっ! 滑った!! 」
街中の色々な所で住民の声が響く。
溢れる水を魔術によって堰き止めたり気体にしたりと忙しなく動く人や、小さな子を守るように抱き上げて宙に浮く女性。
遠くから地響きが聞こえてくる。どこかで土砂崩れが起きたのだろう。
「豪雪に一気に雪解けからの災害って誰か呪われてたの?! 」
橋が壊れて濁流が流れ込んできた。
ぎゃ! と叫び濁流を防ぐ為に15人の人外者が横並びに両手を前に出している。
魔術が展開されて溢れる濁流を食い止めた。
「……今は何とかなるけど、元をどうにかしないと困るね」
アキーシュカが魔術を重ねがけしながら言うと、隣にいる幻獣が頷く。
その向こう側にいる人外者が体を前のめりに出してアキーシュカを見た。
「川から来てるから森かねぇ」
りぃん……と鈴の音がなる。
綺麗な女性にも男性にも見えるリリベルがため息を吐きながら言うと、たまたま来ていたソルテティアが指を鳴らして濁流を一気に凍らせた。
「まったく、人形の納品に来ただけなのに随分な目に合わされた」
髪を払って言うと、全員が手を下ろす。 濁流が凍りついて流れてこないからだが、全てが凍った訳では無い。時期にまた流れてくるだろう。
「どうする、アリステアには話しがいっているんだろう? 」
「うん、移民の民が伴侶と急いで向かったみたいだからそれは大丈夫そうだよ」
「…………帰りたいんだけれど、今帰ったら怒られちまうかねぇ」
「ベル、この状況で帰りたいとは本当に唯我独尊だな」
「なんだい、ソルだって帰りたいんじゃないのかい? 」
「そりゃあ帰りたいが……帰ったら恨まれそうだ」
「ふふ、まったく。飽きない街だね」
また奥からドロドロと流れてくる濁流を見てアキーシュカが笑いながら手を伸ばす。
すぐに魔術が展開され、他の人外者も面倒そうに魔術を重ねた。
今焦っているのは魔術にあまり触れない人間だけだ。
「あーあ、メイちゃんと一緒にお茶をしないと割に合わないね」
「……ん、あの子の知り合いか? 」
「メディトーク達といた子かい? 移民の民の」
反応する2人にアキーシュカは思わず笑う。
なんだ、皆あの子の知り合いなんだね、と。
「じゃああの子が笑って生活出来るように少し手を貸してやろうかね」
「珍しいじゃないかベル。君がそんな事を言うなんて」
「俺だってお気に入りくらい作るさ。まあ、1回会ったきりだからね、今後はわからないけれど。まあ、いいじゃないかい、そんな出会いもいいもんさ」
艶やかな服をはためかせて両手を広げて複数の魔術を編む。
リィン……と響く音を聞いて、呆れたように笑ったソルテティアも複数の人形を出した。
「仕方ない、少しだけ手を貸すか」
3人以外にも並んでいる人外者は、それぞれの理由の為に濁流を堰き止めた。
その後すぐに領主館から派遣された騎士や魔術師、魔法少女なももりんも合流して森へと向かい元凶となった場所へとたどり着く。
「なぁぁぁあんで私の家を流しやがったごるぁぁぁぁああ!!」
綺麗な茶髪のお姉さんが髪を振り乱して魔術を立て続けに連発する。
その殆どに、橋の壊れた破片が入っていて対応を余儀なくされた騎士や魔術師達は鋭い傷を肌に残していった。
「ちょっ……待ってぇ!! 雪解けで流されたんであって、私たちじゃ……な……聞いてぇ……」
「い……いてぇ、地味にいてぇな破片」
「くっそ、荒れ狂って話聞きやしない」
ぶわぁ! と髪に空気が含みバサッと音を立てて揺れる。
普段は穏やかな女性の筈なのに、住処を壊された女性の怒りは深い。
「待て、橋は……橋は直す……ぐふっ」
「あぁ! ディアン!! 腹に直撃からの頭にもダブルヒット!! 」
「実況してる暇ないわよ!! 」
叫ぶ騎士や魔術師たちの後ろで星のステッキを持つももりんが、星屑を散らばせながら女性を落ち着かせる為に動く。
「魔法少女ももりん参上! 怒っちゃダメよ! 私がぜぇんぶ受け止めてあげるから!」
この世界では見ない魔法少女の存在がまだ浸透していなく、ももりんは奇異の目で見られる。
喉の奥で唸りながらも、ももりんはこの世界で手に入れた仕事を全うする為に今日もステッキを振るうのだった。




