第二十五話 それぞれの役割
「おかえりなさい。リラクさん、リスティさん」
ハンターギルドの受付に座るミーニアが明るい笑顔で出迎えた。
時間はすでに夕方、仕事を終えたハンター達の出入りも激しくなっている。
リラクとリスティの二人は、「ただいま」と返事をする。その顔には疲労の色が見える。
そのことを感じ取ったミーニアは首を傾げ、
「何かあったんですか? ちょっと疲れた顔をしていますけど」
「ああ、ちょっとな……。変な魔獣が襲ってきて、いつもより楽ができなかったよ……」
と、リラクは肩を叩いた。
「リラクさんの場合はちょっと働いた方がいいと思いますので、大丈夫そうですね。……変な魔獣ですか。リスティさんは大丈夫でしたか?」
ミーニアは、リラクのことはどうでもいいといった感じで返事をし、リスティを心配する。
「わたしは大丈夫。リラクに助けてもらったから……」
と、リスティはリラクに視線を向ける。
ミーニアは感心した様子で、
「なるほど……、リラクさんはちゃんと働いたということですね。良かったです。ご褒美に頭を撫でてあげましょうか?」
「いらんわっ! 何で俺とリスティの扱いでここまで違うんだ?」
「えっ、リラクさんだから」
文句を言うリラクに、ミーニアは『当然でしょ』という表情で返事する。
「意味がわからないぞ……。リスティはわかるか?」
「えっ? んー……、リラクだから仕方ないんじゃないかなぁ」
突然リラクが話を振ったことに驚きながらも、曖昧な笑みを浮かべてリスティは回答する。
「どういうことだ……」
リラクは意味が分からないと頭を抱える。
ミーニアはリラクを見て、
「ところで換金はしないのですか?」
「おう、そうだった。……ほらっ、今回の成果だ」
リラクは今の悩みを全て彼方に飛ばし、鞄にあった魔石を受付台に並べた。
ミーニアは並べてある魔石を見て、
「五、六、七……と、結構ありますね……。この変わった色の魔石が、例の変な魔獣のものですか? 五等級魔石のようですけど、若干違いますね……。色合いは変異種に似ていますけど……」
「そうだろう? 俺もわからないんだよなあ……」
ミーニアが持っている変な魔獣の魔石を、リラクは訝しげな表情で眺める。通常半透明な魔石であるはずが、魔石の中が濁って見える。変異種ならば色合いの変化はあっても、濁ることはない。
「とりあえず、ハンターギルド本部のある王都に送りましょう。何かわかると思いますので」
「そうだな。頼む」
ミーニアの提案に、リラクは頷く。
「とりあえずお金については、変な魔獣の魔石は、変異種として換算して、このくらいですね」
ミーニアは引き出しから硬貨を取り出し、受付台に置く。その代金はリスティと半分に分けても、いつものリラクの働き分の倍以上だ。
リラクはそのお金を受け取り、満足した表情で、
「よしっ! これだけあったら当分働かなくていいな。明日は部屋で一日中ゴロゴロするぞ!」
リラクの怠ける宣言を聞いて呆れ顔なミーニアは、リスティに顔を寄せ、
「こんなことを言っていますけど、リスティさんどう思いますか?」
「まぁ、明日だけならいいかな……。毎日は困るけど……」
「……リスティさんって、意外と甘いですよね?」
「そうかな?」
「そうですよ……。では換金作業も終わりましたし、帰り支度してきますね。少し待っていてください」
そう言って、ミーニアは席を立った。
空はオレンジ色に染まり、行き交う人々は家路に付こうとしている。リラク達の三人も彼らと同じように、自分達の住まいである小鳩亭へと向かっていた。
ミーニアは今日の朝にアリサと話していた事件のことを思い出したようで、怒っていた。
「酷い犯人ですよね。女の子を襲うなんて……。早く捕まってほしいですよ」
「そうだなあ。衛兵も夜の見回りを増やしているらしいし、もうすぐ捕まるんじゃないか?」
リラクの言葉を聞き、ミーニアはリラクの前に出る。じぃーっとリラクを見つめ始めた。
リラクは首を傾げ、
「どうした?」
「……リラクさんがやったらいいんじゃないですか?」
「何を?」
「犯人逮捕です。リラクさんなら簡単に犯人を捕まえられるんじゃないですか?」
「俺がか?」
ミーニアは真剣な表情で、
「はい、リラクさんはここのトップユニオンだったホワイトファングを壊滅させた人です。すごく強いですし、今回の犯人だって捕まえられますよ」
リラクは困った顔をした。リラクは正義の味方でも、英雄でもない。ただの回復魔術師だ。ホワイトファングの壊滅もリスティを助けるためにやっただけで、成り行きでそうなったに過ぎない。
リラクは首を振った。
「ダメだ。街の安全を守るのは衛兵の仕事だ。今回の事件に俺は何の関係もしていない。完全な部外者だ。もし俺がしゃしゃり出て、本当に犯人を捕まるようなことがあったら、衛兵の面目は丸つぶれだ。良い顔もしないだろうよ」
ミーニアは顔を膨らませた。
「むぅー、そんなこと言って……、本当は面倒臭いからやりたくないだけですよね?」
「何とでも言え」
「いいですよっ! もう言いませんっ!」
ミーニアは怒り出し、大股になってズカズカとリラク達の前を歩き、そのまま行ってしまった。
リスティが非難めいた視線をリラクに向けて、
「あんな言い方をしなくても良かったと思うけど……」
「事実を言っただけだ。もし俺が事件を解決したと、この街の住人が知ったら、衛兵への不信感が深まる。衛兵を甘く見て、犯罪だって増えるかもしれない。そうなったら誰がこの街を治安を維持するんだ? 俺はこの街の住人ではないんだ。もし俺が動いたら、それは自己満足で、余計なお節介にすぎないんだよ」
リラクは空を見上げ、目を細める。その表情はどこか寂しげだった。
お読み頂きありがとうございます。




