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食事を通して

 取り敢えずその場ははぐらかしつつ、俺は少年に食事処に案内してくれるよう頼んだ。

 席に着いてフードを外すと、しれないが視線が集まった気がした。吸血鬼になってから、こういう視線には敏感になっている。

 メニューは読めなかったので、おススメを、とウェイターさんに頼むと、素早くきのこの浮かぶスープを運んできた。

 対面に座る、さっき助けた事になる緑色の髪の男の子の頼んだ、パンと簡単な炒り豆や目玉焼きなどを合わせた定食も来た辺りで俺は彼に話しかけた。


「えーっと……俺は助かるけど、一緒に食事なんてしてて大丈夫なのか?」

「? どういう事ですか?」


 小首傾げる少年。

 今更だけど、少年は十歳前半くらいで、目線の高さからして高校か大学生くらいの身体であろう俺と比べれば随分小さい。

 幼さと顔立ちのよさから随分可愛く見える。


「いや……聞いてたけど、高い薬を買おうとしてたんだろ? 此処でお金使っちゃっていいのか?」

「……もしかしてお姉さんはこの街の人じゃないんですか?」

「そうだけど、どうしてわかるんだ?」


 男の子がくすりと笑って、いてて……と顔に出来た痣を抑えた。


「えっと、ですね。この街では薬の値段は凄く安いんですよ。他の街の大体、十分の一くらいで売ってます。子供でも平気で手が出ちゃうんです。植物が豊富で、薬草が沢山育てられてるから」

「へぇ……それは知らなかった。教えてくれてありがとうな」

「い、いえ……助けて貰いましたし、これくらいは……そうだ!」


 パン、と手を打って顔を明るくする少年。


「よかったら、僕が街を案内しますよ! 実は僕の家は宿屋を営んでいて、薬師のところにも宿に置いておく為の薬の貯蓄をお使いする為に来ていたんです。この後は家に戻るところですし、宿は街の案内もサービスに入れていますから」

「うえ? いや、助かるけど……そこまで恩を着せるつもりはないよ?」

「……め、迷惑ですか?」


 涙目で聞かれると、少し弱かった俺は、


「……いや、宜しく、少年。取り敢えず、名前聞いてもいいかな?」

「僕ですか? 僕の名前はナーミアです。ちょっと女の子っぽいですけど、ちゃんと男ですから!」

「そ、そっか。俺の名前は……」


 謎の迫力にタジタジになりながらも、俺は実は食事中ずっと考えていた、俺の新しい名前を、少し顔を赤くして、言った。


「……フィリア、だ。気軽に呼んでくれるかな」

「はい! 素敵なお名前だと思います!」


 そうか、それは安心した。

 折角の新生活、ダサい名前じゃ締まるもんも締まらないからな。


「じゃ、席を立とうか。他の人の迷惑になっちまうからな」


 いつのまにか混雑していた店内。多分もう昼時なんだろう。

 俺たちの食べていた食器は、もうとうに空になっていた。

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