26、ローリスヴィン 後編
悠然と見ているシルリアの前でミルトは残っている魔力を掻き集める。
「智天使!」
天使、大天使、権天使の時より遥かに眩い光が生まれ、そこから三体の天使がゆっくりと出てくる。
三体目が出た時点で光は沈黙し、消えていく。
「シェムハザ!」
最後に疲労困憊の状態で一体天使を呼び出す。
ふらついたミルトはそのままサハクィエルに抱えられ、智天使の一体が側に寄り、その前にシェムハザが立ち、二体の智天使が更に前へ進む。
「智天使は二体を前衛、一体を護衛。シェムハザ…魔法の天使を援護に、サハクィエルが足という役回りね。」
冷静に状況を認識するシルリアに智天使が踏み込む。
それはデーモンに匹敵する速さで、素早い一撃を避けたシルリアへもう一体の智天使が攻撃を仕掛ける。
そこからは、智天使二体の波状攻撃がシルリアを襲い、大きく離れたり無詠唱魔法が使われたりした時にはシェムハザと呼ばれる天使が魔法で戦う。
ミルト自身に近付いても護衛の智天使に応戦されるため、どちらの攻撃も当たらない拮抗した試合が続く。
「こりゃあ、勝負あったな。」
賭け元の男が呟く。
「え?どうして?」
「ミルトちゃんは召喚したらそれっきりで魔力を使い続ける必要がねぇが、あの挑戦者の嬢ちゃんの方はそうはいかねぇだろ。だから嬢ちゃんの魔力が尽きるかミルトちゃんの魔力が回復するかのどちらかの時に終わるだろうなぁ。」
「でもシルリアの方もまだまだ全力とはほど遠いと思うよ。無詠唱魔法しか使ってないし。」
「詠唱している暇がねぇじゃねぇか。」
「詠唱切除が使えるから出来ないのではなくて手加減しているだけだと思うぞ。」
その悠斗の言葉を証明するかのように、シルリアは詠唱魔法を使いだした。
虚空から闇色の鎖が現れ捕縛せんとし、シェムハザがその対応に追われている間に生まれた荒れ狂う水が二体の智天使を押し流し、その水を分解して猶あり余る程の電気がシルリアから全方向へと襲いかかる。
捕獄縛鎖、波濤、展雷場、連続して繰り出される詠唱魔法に防御結界が悲鳴をあげる。
その後も、強烈な突風が起こり、雪崩が終に防御結界を破壊し、超音波が天使の一部を切断する。
「そろそろ終わりにしましょう。」
シルリアは宣告し詠唱を始める。
「Πεσολvε αλλ ιντο δεταιλ θπαιν.」
詠唱を終えたシルリアの背中から幾条もの明るい黄色の光が飛び出し、天使を貫く。
光は侵蝕するかのように貫通した天使の体を筋状に広がっていき、天使自体が黄色く発光してるように見える程光が細かく全身に行き渡った時、唐突に光が止んだ。
そして、その次の出来事も唐突だった。
崩壊。
天使が崩れた。
砂のようにサラサラと。
全てが粒子となる。
青い空と黄色い光と流れ落ちる粒子。
それらはとても幻想的で、誰もが息を飲む終止符だった。
※※※
「「い、い、妹ぉぉお!?」」
そう叫んだ悠斗とティルの前にいるのは武闘祭でのシルリアの対戦相手。
「あ…あの……ミルト・ローリスヴィンです。よろしくお願いします。」
と自己紹介してペコリと頭を下げる。
確かに髪や目の色はシルリアと同じだが、本当に姉妹なのか疑ってしまう程印象が違う。
簡潔に違いを述べるならシルリアが氷のような美しさを持っているのに対し、ミルトは純粋な可愛さに満ちている。
銀色の髪は肩あたりまで伸びていて、金色の目は垂れ目で険がなく、頭のてっぺんにはアホ毛がピョコンと立っており、考えていることが如実に表れる顔に泣き黒子が絶妙に似合っていたりと、性格面がシルリアから掛け離れている。
いや。
シルリアの知識欲スイッチをONにすればとてつもなく似通っている姉妹となるだろう。
「この二人はユウトとティル。明日からしばらく家に滞在することになるわ。」
どうも、と悠斗は挨拶を済ます。
「そうなんだ。だったら私、お母さんたちに伝え…ヒャッ。」
家に帰ろうとしたミルトの後ろ襟を掴むシルリア。
「その前に約束を破った理由を聞かせてもらうわよ。一晩きっちり話しを聞いてあげる。」
そう言ってミルトを連れて宿の中へ入っていくシルリア。
「ねぇ、シルリア。二つほど訊きたい事があるんだけど。」
「何?ティル。」
「その、約束って何なの?」
「本気になってない私と同等以上に戦えるまで、出来るだけ力を使わないこと。」
「……さっきのって本気じゃなかったの?」
「だってお姉ちゃんオリジナル使ってないもん。」
そう問いに応えたのはミルトの方。
「オリジナルって?」
「お姉ちゃんが作った魔法のことだよ。詠唱魔法の筈なのに蛮性魔術くらい強かったり、効果が複雑で知らない内に逃げられなくなってたり……とにかく凄すぎるの。」
何を思い出したか『凄すぎるの』あたりで涙目になるミルト。
そんなミルトの反応にたじろぎつつティルはもう一つの問いを訊く。
「次の質問だけど、ミルトちゃんはどこで寝るの?部屋のベッドは二つしかないし、二人も寝られる程大きくないよね。」
シルリアは「そうね」と少し考え、
「私はこの子と話があるから私達二人で一部屋使わせてもらうわ。」
「「え!?」」
驚いたのは悠斗とティル。ミルトはよく分からないのか二人の反応に首を傾げる。
「そ、それはヤバイんじゃないか!?」
「そうだよ、だ、駄目だって!」
「何が駄目なの?」
「「いや…それは……その…」」
ミルトの疑問に詰まる悠斗とティル。
一応全ての部屋が二人部屋なので別々のベッドで寝ることになるのだが、それでも恥ずかしいことは恥ずかしいことなのである。
「大丈夫だと思うわよ。ユウトだから。」
「でも…」となおも阻止しようとするティルの耳元でシルリアが一言呟く。
「………」
「!!?!!!?…そ、そ、そ、そ、そ、それはっ!」
激しく動揺するティルをスルーしてシルリアとミルトは部屋に入ってしまった。
「え、えっと…ティル?」
と、悠斗の声にハッとし乱暴にもう一つの部屋に入ってベッドに潜り込む。
「…ぅ……はぅぅぅ……」
どうしてもシルリアの最後の言葉が耳から離れない。
(『あなたはそうなってもいいんじゃない?』ってそんな事いきなり言われると…!)
その夜、ティルは物音がする度に全身が緊張しなかなか寝付けなかったとか。
先日、中国の地名にウイグルという地名を見つけました。
漢字では「維吾爾」と書くようです
本作品のウイグルと維吾爾に関係はございません。
…というより維吾爾をしっている人、どれくらいいるかなぁ…
以上、てん丸より何の意味も無い報告でした。
08/08/10 追記
評価、感想の元に二件もの「知っている。」の声をいただきました。
案外知っている人っているもんだなぁ。
……そういえば地図にも大き目の字で書かれていたような…




