25、ローリスヴィン 前編
「な、な、何でシルリアがあそこに!?」
「知らん。それよりどうしてシルリアが参加!?」
『これより選手手当のため15分の休息を取り、その後試合を開始致します。では15分後をお楽しみに!』
「とりあえず舞台の方へ行こうぜティル。」
そう言ってティルの手を取り歩きだす悠斗。
「…あ……手…」
ティルは繋がれた手の方に意識がいってしまいながら引っ張られてついていく。
「…」
キュッと繋いだ手を握る。
ギュッとしっかり握り返してくれる。
「……はぅ…」
片手と片手、たったそれだけのシアワセ。
※※※
結局、悠斗とティルがいくら問おうともシルリアは『私達二人の問題。』としか言わなかった。
「二人の問題…ってことは賞品が欲しかった訳ではなかったみたいだな。」
悠斗の言葉にティルはコクリと頷く。
「おい、そこの兄ちゃんと嬢ちゃん。賭けてかねぇか?」
ふと横から悪趣味なようで妙に似合った服を着た変に目立つ箱を持った太った男が声をかけてくる。
悠斗は少し首を傾げ、一度頷き金を渡す。
「100ドル!?若けぇのに賭けっぷりが良いねぇ。で、どっちに?」
「シルリア…挑戦者の方に。」
そう言うと男は驚いた顔をし、
「大穴狙いか。」
と言ってガッハッハと笑い紙にサラサラと書き慣れた感じで何かを書く。
「これが賭けた事の証明書だ。」
そう言って男は再度ガッハッハと笑い悠斗の横に座る。
「さぁて、始まるぜい。」
見ると舞台には既に司会者が立っている。
『皆様、大変お待たせ致しました。これより優勝者対挑戦者の戦いが始まります!挑戦者は一名のため選別は無し。優勝者も休憩時間を終え準備万端です。』
「休憩では傷の手当てだけじゃなく魔力の回復が両者ともに行われるんだ。ミルトちゃんが勝つ可能性の方が高いぜ。」
そんな隣の男の解説に食い付いたのはティル。
「両者とも魔力を回復させるって!?」
「ああ、そうだが…何だ?もしかして連戦の疲れに賭けてたのか?」
ガッハッハ
「ユ…ユウト……大丈夫かなぁ…?」
「いや、シルリアが負ける所なんて想像出来んし大丈夫だろう。」
そうじゃなくて、とティルは言い、
「女の子の方だよ。…界間移動を一人で行うようなシルリアが全力で戦えるんだよ?女の子、ミルトって言ったっけ。あの子大丈夫かなぁ…」
ようやく悠斗もティルと同じ考えに辿り着く。
「いや、殺害はご法度って言ってたし大丈夫だろ。…大丈夫だよな?……大丈夫であってくれ………」
心配そうに舞台を見上げる。
『挑戦者はシルリア・ローリスヴィン選手!調べてみたところ、どうやら彼女はこの武闘祭に参加経験があるようです。』
「ほう、経験者なのか。」
シルリアを知らない男はまだガッハッハと笑っている。
『戦歴は一回戦で相手を瞬殺。同時にその余波で舞台及び周りの防御結界を粉砕。残りの試合を不戦勝で勝ち上がったという驚異のもの。しかも成し遂げたのは8年前、当時7歳!』
信じられないシルリアの戦績に笑い声を止め目を剥く男。
周囲も舞台から距離を取ったり腰を浮かせたりしている。
同じ場所に留まっているのは話を信じていないもの、自分の力を信じ結界を張るもの、そして悠斗たち位なものである。
『では始めましょう。倒れるのは挑戦者か?優勝者か?それとも結界が壊れるのが先か!?武闘祭最終試合、挑戦者VS優勝者。レディ……ファイッ!!!』
「大天使!」
天使階級を飛ばし、せっぱ詰まった声でいきなり大天使を呼び出すミルト。
「権天使!」
五体現れたところで次に呼ぶのは更に上の階級の天使、数は三。
「ハラリエル!」
そして最後に名指しで天使を一体、合計は九体になる。
シルリアは全ての召喚が終わるのを冷ややかに待っていた。
そして大天使が動き出すのを試合開始とする。
ミルトは五体の大天使を先頭に三体の権天使を次いで出す。
大天使や権天使の移動速度は速い。
しかし、それはデーモンに比べればまだまだ遅い。
つまるところ、その程度ではシルリアに傷一つ負わせることは出来ないのだ。
バン、と高速移動術。
一度に10m近く離れると、今度は炎弾を五個、大天使一体に一個ずつ放つ。
炎弾は決勝戦では一つ下の天使に十数個放たれやっと焦げ痕が少し付くレベルの魔法であったが今回のは格が違う。
「っ!?権天使!」
慌てて援護に回らせるも間に合ったのは一体のみ。
四体の大天使は爆砕。権天使の一体も腕を持っていかれている。
「サハクィエル!」
「全てを巻き込む一掬の水、流れ膨れ荒れ狂い、狂瀾を既倒に廻せ。―波濤―」
続くシルリアの魔法は魔法陣から一掬い程の水を生み出す。
それは舞台に落ちると胎動し、瞬く間に量を増して鉄砲水となりシルリア以外の全てに襲いかかる。
大天使は当たった瞬間砕かれ、権天使は飲み込まれ揉み潰され、飛んで逃げようとしたハラリエルという天使もあと一歩というところで脱出出来ず巻き込まれていく。
そんな中、ミルトは直前に召喚した天使に抱かれ、何とか宙に逃れていた。
サハクィエル、空を司る天使。飛行速度は最速であろう。その天使の召喚が間に合ったからミルトは激流から身を守れた。
そして、召喚が間に合ったのはもう一体の指名して呼び出した天使の影響。
ハラリエル、警告を司る天使。魔法の詠唱が始まる前に警告がなければ召喚も間に合わなかった。
サハクィエルの腕の中、ミルトはシルリアを見る。
シルリアもミルトを見つめる。
舞台の激流はやがて落ち着き、始まりと同じく一掬いの水となり終わる。
『審査員が全員挑戦者の有利を認めました!これにて試あ…』
「待って。」
司会の勝者決定伝達を遮って言うシルリア。
「その子はまだ全力を出してないわ。」
だから、とミルトの方に向き直り、
「全力を出しなさい、ミルト。召喚出来る最強の天使を、最多の天使を。その上で完膚無きまでに負かせてあげるわ。今のあなたでは到底勝ち得ない実力差というものを教えてあげる。悔やむのなら、約束を破った事を悔やみながら戦いなさい。それがあなたへの罰。」
戦いはまだ終わらせてもらえない。




