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私が気を失ったせいで、魔術を見せる云々の話は延期になった。
目覚めた私はできると言い張ったのだが、侍女のエリーや侍女長に止められた。
「なぁ、正直に言ってほしい。エリーは、私のことを知っているんじゃないか?」
「え……?」
ベッドに押し込められて野菜スティックをポリポリかじりながら、意を決してエリーに問いかけた。
じぃっとエリーの表情や他の侍女たちの反応を見逃さないようにする。
エリーは顔を赤らめてさっと視線をそらした。
怪しい。
やはり、公爵邸全体で私を騙しているんじゃないか。侍女長は鎌をかけてもきっと引っかからないだろうから、若い侍女であるエリーを標的にしたのだ。
「エリー、なぜ顔を赤らめる? 怪しいぞ?」
私の側で甲斐甲斐しく世話を焼いてくれていたエリーの手を取って柔らかく引っ張り、顎を緩くつかんでこちらを向かせた。
なぜか、周囲にいた侍女が色めき立つ。
魔術でも使うと思われているのだろうか。
「あ、あの……」
顔をさらに赤くしたエリーがか細い声を上げた。
「エル様のような綺麗な方に会ったら、忘れられないので……」
「うん?」
「お会いしたことはありませんし、エル様がいらっしゃるまで存じ上げませんでした」
「私を褒めても何も出ないぞ?」
「はう……むしろこの距離でその美貌を拝めるのはご褒美では?」
「私のようなのは普通だ。美しくなどない。高位の者たちはもっともっと美しい者がたくさんいる」
「まさか王女殿下に不細工とおっしゃっていたのも本音ですか⁉」
「まぎれもなく本音だが」
「エル様のお国の王族がどんな方かとても気になります……」
侍女であるエリーを疑うのはやめよう。
隠し事は侍女長ほど得意ではなさそうだし、これだけ世話をしてくれる人を疑い続けるのも体に悪い。ただでさえ、腹部が重いのだ。
エリーの顎から手を離すと、彼女はなぜだか残念そうな表情になっていた。
「なぁ、私のことは本当に知らないんだよな?」
疑いばかり深めては精神的に悪いので、今度は見舞いにきた公爵に聞いてみた。
「……あなたが、我が家の庭に雷とともに現れるまで存在を知らなかったぞ」
公爵はなぜそんなことを聞くのかと言いたげだったが、一応考え込んでから答えてくれた。
「雷か。それならきっと私の魔術だな」
「……あの大きな落雷が?」
「あぁ、私の魔術は雷だ。私に与えられた文字がそうだからな。まぁ、なぜ雷とともに現れたのかは分からん」
「地面がえぐれるほどの威力を出せると?」
「そのくらい当たり前だろう。ここの魔術書を読んだが、簡単すぎるな。詠唱に頼らなければならんのは威力が弱い証拠だ」
「では、あなたは我が国よりも魔術が発達した国から来たのかもしれないのか。そうすると、瞬間移動くらいできるということか? そちらの方向でも調べてみよう」
「すまないな。魔術を見せようか」
「あなたの魔術は室内では危ないだろう。興味はあるが、また倒れても困る」
「確かにな。まぁ、威力を抑えれば騎士を気絶させたあれみたいに──」
公爵の手を握ってパチッと弱く魔術を流した。公爵は大げさなくらい体を震わせる。
「なんだ、雷は苦手か? 雷が鳴ると怯えて泣いていたクチか?」
「あなたが急に手を握るからだろう。それに、私は雷よりも火の方が怖い」
からかうと、公爵は慌てたように手を放してから体をさする。
「公爵が装飾品をつけていないのは確認したぞ?」
「じゃあ、王女殿下の騎士は鎧を着ていたから余計に感電したのか?」
「そうだな。殺すつもりの威力ではやらなかったから。それにしても、公爵からは懐かしい香りがする。私と本当に会ったことはないか?」
「ないな。私は人の顔を覚えるのも苦手だし、女性にはよく言い寄られてうんざりしているが、さすがにあなたと会えば覚えている……と思う。なにせ強烈な人だから」
「強烈? まずいのか、それは」
「まずいとも言えるし、王女に対抗できる人だから私にとってはとても良かったとも言える」
「恩を返せそうなら良かった。それで、私の腹の子供はいつ出てくるんだろうな?」
「四カ月ほど先だと医者から聞いているが」
「げ、まだそんなにかかるのか」
「無意識に記憶があるようで、やはりないんだな……お腹の子供の父親が探しに来ることはないか?」
「さぁ、さっぱり分からんな。相手も皆目見当がつかん」
「ひとまず、雷の魔術が使える方向で調べてみよう」
「公爵の魔術もいつか見せてくれるか? あなたは強いのだろう?」
「この国ではそういうことになっているが……魔術書を簡単だと言う人に見せるのは気恥ずかしいな」
「公爵は何の魔術が使えるんだ?」
「火だ。だから私は火を恐れる。あなたにはきっと、大したことがない魔術にしか見えないだろう」
「そうか? 恐れるのはいいことだ。勇敢と蛮勇は違うからな」
いつも厳しい顔をしていた公爵の口元に少しばかり笑みが宿る。
どうにも、その笑みを私は知っている気がしてならなかった。
***
夢の中で前を進む女性に向かって自分が叫んでいる。
「私は君を裏切ってなどいない! 薬を盛られたんだ! 今の今まで君との記憶を消されていた!」
女性が振り返る。
口元に笑みはなく、目にいつもの親愛の色はない。
「違う! お前は私を裏切った! 裏切って、私ではなくあの人間の女と結婚したのだ!」
「エルフリーデ! 待ってくれ! 行かないでくれ!」
「失せろ、裏切り者!」
「私が愛しているのは君だけだ!」
「私だけを愛する者は他の女と結婚しない!」
女性が指から指輪を抜き取ると、私の足元に叩きつける。私はそれを震える手で拾い上げた。
短い夢だが、なぜか必死だった。
そこで目を覚ました。
汗をびっしょりかいている。
はっきり覚えている。
夢の中で私が縋った相手は、離れに住まわせている記憶喪失の妊婦に非常によく似ていた。唯一違う点は、夢の中の女性は妊婦ではなかったことだ。




