目に痛い
朝日を感じて目を開けたら、そこは素敵なフリルとレースの世界でした。
袖口のレースがぺらんと自分の顔にかかって、なんだこれ。
横たわる感覚がせんべい布団じゃない、ふかふかふわふわ、なんだこれ。
見上げれば屋根があるよ。違うよこれ天蓋だ、なんだこれ。
天蓋から視線を下ろせばつながるレースのカーテン。
私の周りをぐるりと取り巻いている。
そのレースがまた見事である。
職人の良い仕事が垣間見える。
思わず手に取ってみてしまうほどだ。
なんだ。これは?
いや、レースだけど。
繊細すぎて怖いくらいだ。
メーター、いや、10cm何円だろう?
などと計算を初めてしまう。
頭はぐるぐる現状把握に努めるけども、ついていけない。
ついていけないよ。
でも、頭の中では、なんとなく、何かが答えを言っている。
YOU、あれしちゃったんじゃない?
って、言ってる。
私、それ、認めたくない。
だって、私は一般人だ。
なんなら、いつだって影が薄い、陰キャだ。
ずっと、小・中・高・大とそれを貫き社会人になった今も崩さない。
正真正銘の、そう筋金入りの陰キャだ。
そんな私がこんな、こんな目にあっていいのだろうか?
こんな華々しい装飾の服に、ベッド。
既に目が痛い。
私の心の平安が奪われてしまう。
私の愛する物はモノトーン。
黒と白。
冠婚葬祭もまかなえてしまう。
素晴らしい色。
私の愛する物はリクルートスーツ。
集団に紛れてしまう。
没個性最高。
自分らしさ何それ。
そもそも私は自分らしさがわかっていない。
集団行動大好き。
ただ、そこに浸かって流されて生きたい。
いや、生きようと、回りをキョロキョロしながら生きてきた。
そして、今もキョロキョロしている。
自分基準最高の速度でキョロキョロしている。
すると、カーテンの向こうで人影が動いたのがわかった。
いや、今まで居たのかのしれないけど気配を消していたのだろう。
「お目覚めでしょうか?」
硬質な声がした。
うわっ。この声、聞いたことある。
やばい。
「お嬢様。宜しいですか?」
空気を震わす麗しの声。
腰に来る低音。
こんな声の人そうそういない。
いないけど、もしかしたらドッキリかもしれないじゃない?
そう願う私の前に現実はいつも冷たい。
「失礼します。」
と、断ってからカーテン?天蓋の幕が開いた。
出たー。
と、お化けに対する定例句が浮かんだ。
他に言葉は無い。
私が昨日までやっていた(やらされた)乙女ゲーの執事がそこに居た。
尚且つ彼は朝の身支度といって私に手鏡を差し出してきた。
映った姿を見て、
私、終わった。
と、思った。
鏡には昨日やっていた(やらされた)乙女ゲーの悪役令嬢が映って顔を引きつらせていた。
あぁ、現実は冷たい。
いや、現実が私に暖かかったことはない。
暖かくは無かったが、常温より低め、ちょっと寒いねみたいな、そんな扱いだったのに、
いきなりブリザードが吹いてきた。
この先は特に決まっていないのです。