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第三章 テイスティング

 そろそろ貿易船に乗せる品物を選定しなくてはいけないという頃、マリユスとソンメルソのふたりで話を詰めていると、ふとソンメルソが溜息をついた。


「どうなさいました?」


 このところ業務が忙しいので疲れているのではと心配したマリユスが訊ねると、ソンメルソは眉間を押しながらこう答えた。


「うちで扱っている輸出品で、ワインがあるだろう」

「はい。他の貿易商に比べ、種類も豊富ですし物量も多いですが、それが何か」

「輸出しているのはヴィンテージの高級ワインだけで無く、気軽に飲める比較的安価な物もあるだろう? その、安ワインをどうやったら美味しく飲めるかというので悩んでいて」

「安ワインを美味しく、ですか」


 実際の所、高級ワインと安価なワインでは当然のように高級ワインの方が利益が高いのだが、よく売れるのは安価な物だ。なので、ソンメルソの所では安ワインを多めに扱い、薄利多売を狙っている。そして、その路線で上手くいっているので、美味しい飲み方を同時に伝えることで販売数を伸ばそうと、そう言う事なのだろう。

 マリユスは少し考えて、こう答える。


「ワインを美味しく飲む方法は、今まで気にしたことがありませんね。

普通に飲んでもそれなりに美味しいので」

「そうなんだよな。だから困ってる」


 ふたりでしばらく悩み、ふと、思いついたようにマリユスがこう言った。


「それでしたらユリウスに訊いてみるのはいかがでしょう。

あの子も普段給仕をしたりしていますし、何かしら知っているのでは」


 その提案に、ソンメルソも顔を明るくして同意する。


「なるほど。それじゃあ早速ユリウスを呼んでくれ」

「かしこまりました」

「それと、もしすぐに試せる方法であるのなら、どの程度良くなるのかを知りたいからその準備も頼む」

「承知致しました。只今準備をさせて参ります」


 広げていた書類を一旦まとめ、マリユスは早速部屋から出てユリウスを呼びに行った。


 それから少しして、マリユスはユリウスを連れて再びソンメルソの部屋に訪れていた。


「ご苦労。ワインとグラスを持って来ていると言うことは、すぐに試せるんだな?」


 期待の眼差しを寄せるソンメルソに、ふたりは一礼をして返す。


「はい、すぐにご用意出来る方法だそうです」


 マリユスはそう言い、断りを入れてから机の上にワインのボトルとグラスを並べる。それを確認したソンメルソが、不思議そうな顔をする。


「ワインとグラスはわかるが、ユリウスが持ってるいるのは何なんだ?」


 確かに、ユリウスは両手に金属出て来た半球体の物と、握り手が付いたU字型のワイヤーを何本もまとめたものを持っている。それはソンメルソが初めて見た物らしく、何に使うのかがわからないようだ。

 何であるかわからないのもわかるし、そもそも何に使うつもりで持って来たのかがわからないのもわかる。なので、マリユスが説明をしようにも戸惑っていると、ユリウスがワイヤーをくるくる回しながら説明をする。


「こちらはボウルと泡立て器でございます。

今からこれでワインを泡立てます」

「は?」


 ユリウスの説明にソンメルソはぽかんとしているし、マリユスも何を言っているんだという思いしかない。


「ちょっと待ってくれ、なんでワインを泡立てるという話になるんだ」


 戸惑うソンメルソにユリウスが泡立てる理由を話す。


「若いワインを飲むとき、口の広いデキャンタに入れたりするでしょう?」


 それが一体どんな関係があるのかはわからないが、改めて思い出すと、確かに若いワインを出されるときは口の広いデキャンタに入っていることが多い。けれども、それは何のために入れているのか、今まで考えたことは無かった。


「若いワインは沢山空気に触れさせることで、口当たりが良くなるんです」


 そこまで聞いて、マリユスも理由がわかった。


「つまり、その泡立て器でワインに沢山空気を含ませる。と言う事かな?」


 わかったけれどもいまいち納得がいかないと言った様子のマリユスに、ユリウスはあっけからんと返す。


「そうそう。これやるのとやらないのとで全然違うの。

という訳で、お試しになりますか? ソンメルソ様」


 にこにことそう薦めてくるユリウスに、ソンメルソはおずおずと頷き、三人で試飲をする事になった。

 まずは泡立てる前のワインを少しグラスに注ぎ、香りと口当たりを確かめる。若干香りが弱く、口当たりも荒い。それを確認してから、ユリウスがボウルの中にワインを注ぎ、それを抱え、泡立て器でワインをかき回し始めた。水の跳ねる音と金属のぶつかる音。厨房はいつもこんな風に賑やかなのかと思いながらその様を眺め、混ぜ終わるのを待つ。混ぜ終わってから、ボウルの中のワインをまたグラスの中にそっと注ぐ。表面に僅かながらも泡が立っていた。

 これで本当に美味しくなっているのか疑わしかったけれども、ソンメルソが口を付けるのでマリユスもワインを口に含むと、先程よりも香りが華やかになり、口当たりも滑らかになっていた。


「全然違う……」

「ランクが上がった感じがする……」


 呆然と呟くソンメルソとマリユス。ふたりを眺めながらユリウスはグラスを空け、朗らかにこう言った。


「雑なデキャンタージュですけど、なかなか良いでしょう?」

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