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46話 集結

 『傲慢』がどこかへ行ってしまった数分後。


 色々な考えに思想を走らせていたシュウは、たっぷり数分間つかってようやく現実に戻ってきた。


 改めて、『傲慢』が引き起こした惨状を見回した。


 ──殺風景だ。


 それがシュウの感想だった。


 『傲慢』が放った一撃が、王都──貧民街の一角を更地へと変えた。


 当然街を若干ながら彩っていた施設や家は一瞬で蒸発し、隕石が衝突したようにクレーターが如き大穴が空いている。


 これほどの災害。直すのには相当な時間──それこそ一年以上かかるかもしれない。


 彼らが王都で暴れ、その被害は最悪なものだ。


 一体どれだけの時間を要すれば、王都は完全復活するのだろう。


「シュウ……大丈夫?」


「シルヴィア。そっちこそ無事か?」


 後ろの方から聞こえた声──シュウを憂えるシルヴィアの声に、逆に心配の声を上げる。


「うん、私は大丈夫だよ。──それより、随分と離されちゃったね」


 めくれ上がった地面から立ち上がったシルヴィアは、貧民街の城壁の上へと目を走らせた。


 恐らく彼女が見ているのは、マーリンたちの方だろう。


 どうやら、シルヴィアだけしか来ていない所を見るとあちらは住人の避難を優先したのだろう。


 だが、それでいい。


 シュウに時間を割いている暇があったら、他の誰かを救ってくれればいい。


「他の人は南ブロックに着いた頃合いかな……」


「そうだな。なら、こっちも南に進まないと」


 正直、敵の幹部──ユピテルなどにはただの人間が勝てるとは思わない。


 そこは、『大英雄』たるダンテに任せればいい。


 なにせ、彼らをダンテは一度退けているのだ。


 なら。問題は──。


 そこまで、考えて。どこか違和感があった。確かにダンテは強い。誰よりも、人間族の誰よりも。


 だが、そんな彼が戦争の時まで無名だったのがどうしても気にかかる。


 これはシルヴィアに後から聞いた話だが、あの村での襲撃の折ダンテはミノタウロスの群れを一瞬で撃滅しめた。


 それほどまでに強いなら、何がどうあっても注目はされるべきなのだ。


「ま、これが終わったら聞けばいいか……」


 考えても答えを見つけられないゆえ、諦めが混じった声が零れ落ちる。


 そうだ。それでいい。何もかもが終わってから、また聞けばいいのだ。


 時間などたくさんあるのだから。


「じゃ、シルヴィア。急ごう」


「うん」


 シュウの言葉にシルヴィアが頷いて──。


 いきなり地面を影が覆った。


 どこまでも広大なそれは悠々と泳ぐようにして前へと進んでいく。


 最初、シュウはそれを雲か何かだと思った。


 それで済ませようとして、なぜか心が激しく動いている。


 何かが引っかかった。心の片隅に、不安が駆り立てられていた。


 ゆっくりと、首を動かした。


 それは鳥だった。


 見る者を不安へと駆り立てる影を落としながら、それでも体は太陽の光を受け神の威光のごとく輝いて、地上に降り注いでいた。


 それが翼を振る度に、何かが上空から落ちてきて激突した物体を腐らせていく。


 見るからに怪しい──どころか、警戒心を募らせるその金色をした異形に、シュウとシルヴィアの瞳が驚愕に染まった。


 そして、思い当たる節があった。


 曰く、その鳥は太陽を司る神アマテラスの使いだったとされている。


 曰く、神の鳥。


 正に、かの存在は見るからに太陽を示していた。


 ──八咫烏。


 最悪の魔獣の内の一柱。


 『空飛ぶ災厄』と称され、見つけることも困難なはずの最悪の魔獣は。


 今、この場に姿を見せていたのだった。


「シルヴィア!」


「分かった!」


 たっぷり数秒、その姿に唖然とさせられ──我に戻ったシュウはいつの間にか叫んでいた。


 すぐさまシルヴィアへと指示を飛ばし、シュウを抱えさせる。


 かの鳥が飛んでいるのは遥か上空。


 だが、それでも常軌を逸したその大きさに恐怖を抱く。


 その全長──約数十メートル。


 とはいえ、シルヴィアであろうとかなりの高さを飛んでいる八咫烏には、到底届かない。


 ゆえに、八咫烏が目指している場所。


 そこを目指してシルヴィアの全力スピードで追いついてからが本番だ。


「シュウ! スピード上げるよ!」


 シルヴィアに米俵持ちをされ苦しみと屈辱に耐えながらも、力強く頷く。


 最悪の魔獣を倒すために、彼らは崩れた世界を走る抜けるのだった。





















「なに、あれ……」


 そして同じ場所でも、レイが唖然としていた。


 その視線の先にあるのは、大きな鳥。


 レイすらも初めて見る最悪の魔獣が一匹。


 それが今、王都に姿を現わしていた。


 同時に、南ブロックをひた走っていたマーリンを含む者達もまた自然と足を止めていた。


「八咫烏……! こんな時に、タイミングの悪い……」


 マーリンが憎しみを込めて、かの神々しき姿の魔獣の名を呼ぶ。


「どうするん、ですか……? あんなの……」


 初めて見る三大魔獣。


 見るものすべてを恐怖のどん底へと突き落とし、それらを屠ってきたうちの一匹が姿をあらわしたことに底知れない不安を覚える。


 しかも、かの存在は──こちらに向かって直進しているのだ。


「馬鹿な……八咫烏、が……。一体何のために……」


 いつもは超人然としているガイウスもまた、異常事態(イレギュラー)の参戦に顔を引きつらせていた。


 唯一動揺しなかったのは、長年パートナーを組んできたシモンぐらいだろう。


 彼はただ八咫烏を見つめ──そして、何かに気づいたように肩を揺らす。


「どしたの、シモン」


「いや、八咫烏の直進上……あそこには王城がある」


 シモンに指を指され、頭から忘却されていた事実が明らかになる。


 そう、あの直線状には王城がある。


 つまりは、かの存在の目的は──王の殺害。


 それが最大の目的だ。


「しまった……!」


「くっ……ガイウス! 貴方達はあっちに!」


「ですが!」


「これは異常事態だ。今こそ騎士としての本懐を果たしなさい!」


「くっ……」


 苦虫を噛み潰したような顔で、歯ぎしりをする。


 そう、騎士の本懐。


 それは主人たる王を守ることにある。


 どうしても蔑ろにできない所を突かれ、それでも従わねばならない。


 ガイウスが思い浮かべるは自らが生涯仕えると決めた第二王女──アリスだ。


  彼女がいたからこそ、今のガイウスが成り立っていると言っても過言ではない。


だが、それとしても目の前の惨状を見逃せるはずがないわけで──。


「必ずや、貴方にツケを払ってもらおう」


 ここにはいない、敵方の参謀。


 ガイウスの父にしてユリウスの亡霊。


 そんな敵に対して、ガイウスは決意を口にする。


 いや、そうでなければここは引き下がれないのだ。


 全てを引き起こした災厄に、全てのツケを払ってもらわねば今ここで潰えた者達に申し訳が立たない。


 例え、それが親殺しと罵られようと道を曲げるつもりなどありはしない。


 だって、騎士は自分の意思を曲げない大馬鹿野郎なのだから。


「レイ、シモン。私についてこい。八咫烏を討伐する。シルヴィア様も、あちらへ向かっておられるだろう」


「はい」


「分かりました」


 レイとシモンも、それぞれに反応する。


 次世代を託すに相応しい者達に、マーリンは微笑んで。


「私も片付き次第、五人将とともに向かうわ。──必ず耐えてね」


「私も、死ぬ気ではありません。──姫を残したままなど考えられませんから」


 互いに背中を向けながらも、言葉を交わす。


 そして、道は一度だけ分かたれた。


 だが、完全に分かたれたわけではない。


 そう、これはほんの少しの離別。


 もう一度、陽を浴びて酒を酌み交わすために。


 彼らは戦うのだ。

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