ラブレターはほどほどに 終
そんなわけで下駄箱に集合した。
僕たちがたいして内容の濃くないことを話すと生徒会副会長は深々と嘆息する。
友人は呆れかえり、コーレアさんのお友達は怒り心頭と言う感じだった。
なんだか、あの人が可哀想に思えてきてしまったな…。こんな変人集団に目をつけられるとは。
「まさか一球で釣れるとは思わなかったわ」
「まだ犯人だと確定したわけじゃないけど」
あんなにどストレートな犯人居てたまるか。
「見張る価値はあるだろ。ラブレターと教師の黒板の字を見比べてみたりさ」
お、いいことを言うじゃんコーレアさんのお友達。
自己紹介まだしてもらってないんだけどな!
「それで一緒だったらもうわたしどうしていいのか…」
「ああ…」
「大丈夫よ、次回から国語の教師が変わるだけだから」
ムトンさんが優しく慰める。
内容はアレだった。
「なにをするつもりなんだ君は」
「しかるべき場所に手紙を出すだけよ」
「手紙で来たから手紙で返すかー。容赦ないな」
援護するつもりは無いけど、なんだかなあ。
一発ガツンと言ったらそれで終わりそうな気もするけど。でも当事者は僕じゃないからなんとも行動がしにくい。
どうやっても被害をこうむるのはコーレアさんだ。
「ところでさ」
友人が不意に口を開いた。
その場の全員が彼に注目する。
「さっきから何か音が聞こえないか」
「音?」
耳を澄ませてみれば、たしかに奇妙な音がする。
ごつん。ごつん。
一同顔を見合わせて困惑する。
何かを叩きつけているような、そんな。
「……いってみましょう」
ムトンさんは命知らずだった。
「どうするのさ、これで秘密の呪い現場みたいなの見つけたら」
「校内にそんなものあるわけないでしょ。あったら校外でやれって言うわよ」
止めはしないんだ。
教務員専用の駐車スペースから音が聞こえる。
生徒は立ち入り禁止場所なので周りに注意しながら進んでいく。と、
「呪ってやる…呪ってやる…」
ごつん。ごつん。
ちょうど呪いの儀式が繰り広げられていた。
さっき見た国語教師だった。どこから用意したのか白い衣装だ。
大きい付箋みたいなのに落書きを殴り書きしてそれに全力でくぎを刺していた。
そろそろ帰ろうかなと僕は踵を返したが他のメンバーに止められた。
「やだよ! 関わったら不味いタイプだ!」
小声で反論する。
相手も小声で怒鳴ってきた。なんて器用な。
「あれ国語教師でしょ!? 関連性疑うまでもないわよ!」
「だとしたらあの落書きのモデル絶対僕じゃないか! いやだね! 僕はここで帰る!」
「わがままか!」
「愛のままにわがままに僕は僕だけを傷つけたくないんだよ!」
「クズじゃねえか!」
「突き止めないでなにしてんだよ探偵!」
友人はちゃちを入れてくるな。
とはいえども、あんなハンマーを木にガンガンに叩きつける人に話しかけたくない。
危害も今の状態じゃ食らいそうだし、なんともできない。
どうしよう、とみんなで困っていると職員玄関から多数の大人が躍り出て来た。
「手芸クラブの布を持ちだしてなにしてんですか!」
「木になにしとるんだね君ィ!」
「すいませーん、事務の者ですが借り出し手続しました? ハンマーとくぎ」
もみくちゃに混沌とした光景が繰り広げられた。
どうやらほとんど何も考えないでこんなことをしたらしい。
…ちょっと好きな子が男と歩いていたぐらいでこんなに荒れるのか。恋って怖い。
僕たちはそれを影からそっと見守ることしかできなかった。
少ししたあとにこっそりと退却して解散したので、その後のことは知らない。
それからのことを少しだけ。
翌日、コーレアさんはコーレアさんの友人と副会長さんと共に国語教師の下にいったらしい。
それはそれはボッコボコにされていたらしいが――
ラブレターのことを話すとあっさりと認めたという。
コーレアさんは残念ながら彼に気持ちは向いていないことをきっぱりと話して、現段階ではもうラブレターは入っていないらしい。
トラブルらしいトラブルもなく、ただやはりギクシャクはしているが――それはまあ仕方のない事だろう。
今回は大ごとにならないように鎮められたが(別に意味で大ごとではあった)またなんかあったら構わず通報コースなのは確定している。しょうがないね。
あ、呪いの効果も今のところ出ていない。大丈夫。
「恋は盲目ってな。どうにも、恋愛は苦手な人だったらしい」
友人が本を暇そうに眺めながら言った。
あの人、大体四十すぎだろ。
「だからああいう清純系にハート奪われたようだぜ」
「ふうん…」
「だからと言って迷惑よね」
「資源の無駄でもある。コーレア、あの手紙たちは結局どうしたんだ?」
「えっと、おうちの資源再生ゴミに入れました」
おとなしい顔してえげつねえ。
そうではなくて。
いつもどおりに図書室で勉強していたら、何故かメンバーがそろっている。
友人は仕方ないにしても女子メンバーは何だ。
僕の表情に気がついたのかムトンさんはにやりと笑ってきた。
「なぜって顔ね」
「うん、まさにそれ」
「実はもう一つ依頼が入っているの。まだ青年探偵団は解散すべきじゃないんじゃない?」
「……解散しようよ」
やっぱり図書室で勉強するのやめようかな…。
すいません
とりあえずこのエピソードで終わらせてもらいます…