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第45話:一撃の残響

振り下ろされた【ただの木の棒】が、暴走オートマトンの剥き出しになった頭部フレームを直撃した。

 ゴン、と鈍い破砕音が洞窟の入り口付近に重く響き渡る。

 王都の管理下にあった頃であれば、正規のシールド耐久値やシステム的な防御判定が働き、こうした物理的な一撃はある程度減衰されたはずだ。しかし、システムが崩壊し、エラーとノイズが支配するこの外の世界において、その防壁はもはや存在しない。

 レイの肉体から叩きつけられた衝撃は、古武術の極意によって無駄なく一点へと凝縮され、オートマトンの脆弱な中枢回路を直撃した。

「ギ……ガ……エラー……、コ……ド……」

 機械の合成音声ともつかない不快なノイズが、オートマトンの喉元から漏れ出る。

 頭部中央に埋め込まれていた青白い単眼レンズが激しく明滅したかと思うと、パチパチと火花を散らして一瞬でその光を失った。制御を失った巨体が、そのままガタガタと音を立てて崩れ落ち、冷たいコンクリートの床に突っ伏すように停止する。

 周囲に静寂が戻った。

 レイは荒れた息を一つも漏らさず、即座に身を低くして周囲の気配を再確認する。生身スキルである【確率演算】の思考回路が、遠方の風音や地表の微小な振動を漏らさずスキャンし、他に増援の影がないことを冷徹に弾き出した。

(――単体、か)

 どうやらこの暴走オートマトンは、群れからはぐれたか、あるいは中継ステーションの自壊に巻き込まれてここまで流れてきた個体に過ぎなかったらしい。

 ふと、左手首のリストホルダーに視線を落とす。

 先ほどまで激しく疼いていた【 ????? 】のカードと【白紙のエラーカード】は、オートマトンが沈黙したのと同時に、嘘のようにその脈動を収めていた。まるで役割を終えたかのように、淡い青白い冷光だけが静かに明滅を続けている。

 そして、その傍らで【ただの木の棒】に変化が起きていた。

(……これは)

 オートマトンの残骸から漏れ出た微弱なデータ屑、あるいはシステム外のエネルギーの残滓を吸収したのか。ただの木肌だったはずの表面に、かすかな電子回路を思わせる幾何学的な文様が、淡い光の筋となってうっすらと浮き上がっていた。

 進化前夜の気配が、一歩先へと進もうとしている手応えが、レイの掌を通して確かに伝わってくる。

 だが、ここで立ち止まっているわけにはいかない。

 どれほど強力な素材やエラーの欠片を手に入れたところで、今の優先順位の筆頭は常にエリスの生存と安全確保だった。

 レイは倒れたオートマトンの残骸から視線を外し、足音を完全に殺して洞窟の奥へと引き返した。

 薄暗い一角。

 そこでは、鎮静パッチと冷却ジェルの効果によって神経の過負荷から解放されたエリスが、未だに深く静かな寝息を立てていた。MPは1のまま動かないが、荒かった呼吸は完全に整い、その表情にはかつての険しさが嘘のような穏やかさが戻っている。

 彼女が再び目を覚まし、自力で回路の再構築を行えるようになるまでには、まだしばらく時間が必要だった。

 レイはエリスの少し離れた場所に腰を下ろし、右手に【ただの木の棒】を構えたまま、再び訪れた静寂の中で周囲の警戒態勢を厳然と維持し続けた。

 外の世界の冷たい闇と風の唸りが、再び洞窟の入り口を包み込んでいく。

 だが、先ほどの戦闘を無傷で切り抜け、武器の微小な進化の兆しを掴んだことで、二人の置かれた過酷な生存レースには、確かな希望の光が灯り始めていた――。

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