第35話:中継ステーションの残骸
洞窟の湿った闇を抜け、レイが足を踏み出したのは、かつて管理下にあった領域とは異なる、ひび割れたアスファルトとコンクリートの残骸が剥き出しになった荒涼としたエリアだった。
頭上を覆う空は相変わらず鉛色の雲に閉ざされ、冷たい風が吹き抜けて瓦礫の破片を乾いた音とともに転がしていく。
左手首のリストホルダーから漏れる青白い冷光と、右手でしっかりと握りしめた【ただの木の棒】を頼りに、レイは足音を殺しながら慎重に歩を進めた。生身スキルである【確率演算】の思考回路が静かに稼働し、周囲の地形や気圧の変化、風に乗って流れてくる微細な音の波形を切れ目なく分析し続けている。
(……電波のノイズ源は、この先のようだ)
微弱な機械の唸り声をたどって崩れかけた瓦礫の山を越えると、視界が開けた。
そこに姿を現したのは、半ば地中に埋もれかけた古いドーム状の施設――かつての外の世界の住民たちが利用していた「中継ステーション」の残骸だった。外壁のコンクリートは広範囲にわたって黒く焦げ、金属の骨組みが痛々しく剥き出しになっている。かつてここで激しい争いか、あるいはシステムの強制的な自壊が起きたことを物語っていた。
レイは立ち止まると、錆びついた金属の扉を見据えた。
古びた扉には頑丈そうなロック機構の名残があったが、すでにそれを駆動させる中央サーバーからの給電やネットワークは失われている。システムによる電気的な認可の裏付けを失った扉は、ただの重い鉄板と化していた。
「……」
レイは無言のまま、足音を完全に消してその扉に近づく。
古びた蝶番に右手を添え、わずかに力を込めて押し開けると、金属が擦れ合う鈍い音が静寂の荒野に響いた。
隙間から流れ込んできたのは、ひんやりとした外気とは違う、かすかな機械の唸りと、ほのかに漂う消毒液のような化学物質の匂いだった。
完全なデッドゾーンではなく、内部のどこかで予備電源か何かが辛うじて稼働しているらしい。
レイは警戒を怠らず、【ただの木の棒】をいつでも振るえるように構え角度を微調整しながら、静かにその暗い内部へと足を踏み入れた。




