第14話:削ぎ落とされた手札
崩壊する王都の石畳を駆け抜けながら、レイは自身のスロットを確認していた。
かつて最初の広場で魔獣を討伐した際に手に入れた【劣化された魔獣の牙】は、数日後の廃墟ダンジョンで禁忌の高位魔法をノーコストで強制発動させた際の代償としてすでに砕け散り、直後の酒場での特務騎士団との交戦では、さらなる例外処理の身代わりとして初期手札の【微風】までもが完全に消滅していた。
一般のカード使いであれば、手札を失うことはそのまま戦闘力の喪失を意味する。カードがなければ、攻撃も防御も成り立たないのがこの世界の絶対の理だったからだ。
だが、レイの表情に焦りや不安の色は一切ない。
むしろ、余計な手札が次々と代償として削ぎ落とされたことで、彼の頭脳と初期デッキの本質がより純粋に研ぎ澄まされていた。
「……ま、いいさ」
レイは走る足を緩めず、ポツリと呟く。
「中途半端なカードを並べてシステムのご機嫌を取るより、最初から余計なものを全部削ぎ落とした方が、この『バグ』を叩きつけるにはよっぽど都合がいい」
彼の隣を同じ歩調で駆け抜けていたエリスが、チラリとレイの手元に視線を走らせた。彼女の冷徹な瞳に、わずかな関心の色が宿る。
「あなたのスロットの大部分が、代償として消滅していることはデータベースの揺らぎで感知していました。武器も防壁も持たず、一体何で中枢の防衛機構を突破するつもりですか」
「武器なら、最初からあるだろ」
レイは片手で、青く脈動を続ける【ただの木の棒】を軽く掲げた。
それは最早、雑木林の木などではない。幾度もの例外処理とエラーの奔流を吸い込み、異様な密度と冷徹な光を放つ「ただ一つの特異点」と化していた。
「それに、足りない手札なら――これからあの神殿の中で、向こうが用意した最高級の切り札を丸ごと奪い取ればいい」
エリスはわずかに口元を緩め、前方を指し示した。
闇を切り裂く紫色の光の源、王都の中枢である白亜の神殿の巨大な正門が、いま目の前に迫っていた。
システムが死に絶えた聖域の内部で、王都の理を死守しようとする最後の番人たちが、冷酷な眼差しで侵入者を取り囲もうとしている――。




