第13話:中枢へ向かう足音
紫色の光が夜空を焼き払うように広がり、王都全域を覆っていた管理ネットワークの青白い光が、まるで生命の灯火が消えるように次々と明滅を止めていった。
カードシステムによる強制的な魔力制御が途絶えたことで、街を包んでいた人工的な静寂は破られ、逃げ惑う人々のざわめきと混乱の足音が遠くから波のように押し寄せてくる。
凍結した酒場の床に突っ伏したまま、騎士団長・バルドは信じられないものを見る目で天井のひび割れを見上げていた。
「理が……消えていく。カードが使えなければ、我々はただの肉塊にすぎない……神よ、なぜこの異端を放置される……!」
絶望に染まったバルドの呟きを背に、レイは肩に担いだ【ただの木の棒】の感触を確かめた。
システムが完全に沈黙しているにもかかわらず、その木の棒はまるで脈打つ心臓のように、レイの掌に心地よい熱量を伝え続けている。それはエラーカードの干渉によって、この世界の理から完全に切り離された「異物」として独自の進化を始めている証だった。
「神様とやらは、最初から自分に都合のいいプログラムしか組む気がなかったのさ。だからこそ、こうしてバグに足元をすくわれる」
レイは冷ややかに吐き捨てると、エリスへと向き直った。
彼女が手にする古い金属デバイスからは、神殿の中枢から発せられる崩壊のシグナルが、まるで導火線のように激しいノイズとして伝わっている。
「王都のネットワークがこの有様だ。神殿の中枢演算コアも、もう長くは持たないだろうな」
「ええ」
エリスは冷徹な瞳を崩さず、神殿の方向を真っ直ぐに見据えた。
「中枢区画の防衛機構はシステムの停止と同時に機能不全に陥っています。ですが、それは向こうも同じこと。システムの維持に固執する者たちが、最後のあがきに出る可能性が高いわ」
「最後のあがき、ね」
レイは不敵な笑みを浮かべ、石畳を踏み締めた。
ただ逃げるわけではない。システムを管理する者たちが隠し続けてきた「本当の起源」とやらは、まさにその中枢の最深部に眠っているはずだ。
ゴミクズのような初期手札と、予測不可能なエラーの力を手に入れた頭脳が、すべての元凶を暴くために動き出す。
「案内しろ、エリス。この腐った盤面の、一番面白い場所に連れていってもらう」
「……ついてきなさい。あなたのその計算式が、どこまで通用するか見せてもらいましょう」
崩壊する王都の夜を駆け抜け、二人は神殿の中枢へと続く闇の中へと言葉もなく飛び込んでいった。




